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第十四話 勧誘と妄想

 ヘヴンズ・ガーデンから出ると、すっかり日が暮れていた。

 濃紺の空に白銀の月、大通りをランプの灯りが煌々と照らしている。

 ガヤガヤと行き交う人々を見ながら――ふと、エイルが言った。


「どこまでも非常識な男ね……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 しかも、その(たくら)みにこの私を利用した――と、エイルはジト目で不満を示す。

 ……仕方ないだろう。見えてしまったのだ、楽しそうな結末が。


「もしも、Fランカーに負けていたことをSランカーが気付かなかったとしたら。その事実を、俺たちだけが知っていたのなら。それって、最高の勝利じゃね?」

「信じられないほどひねくれた勝ち方ね。それに、結局Aランクパーティにすら入れてないじゃない。それで本当に勝利と言えるの?」

「最後まで自分の戦い方を貫いたんだぜ、大勝利じゃんか。分かんねぇかなぁ」

「分かりたくもない美学ね……」


 エイルは呆れた様子でため息を一つ。キッチンを振り返り、二つ目のため息をついて。――ご飯は食べず、パーティにも入れず、最終的にはヴォーダンに喧嘩を売っただけだと。

 状況を整理しながら、しかし三つ目のため息はつかずに。


「それで……そもそもあなた、なんでリーフの落ちる場所が分かったのかしら?」


 ビシッと指をこちらに向け、説明を求めるように言った。

 当然の指摘だ。俺に移動させられた場所にリーフが落ちてきた。それを偶然と考えるほど、この美少女は愚かでも能天気でもない。


 どうにかごまかすべきなのだろう。エクスレイにも隠した最強スキル、おそらく今後も秘匿(ひとく)し続けるであろう事前知識の賜物(たまもの)は――けれど、なぜだろうか。

 エイルになら、と。少しの緊張を舌に乗せて、俺の口は秘密を打ち明けていた。


「あー、実は俺な――未来が見えんのよ」

「――……ついに妄想と現実の区別ができなくなったのかしら?」

「本当なんですけど!?」


 アホを見る目で言うエイル。残念ながら全く信じられていないようで。

 俺としてはけっこう重要なことを話したつもりだったのだが……まあ、それはそれでいいのかもしれない。


「私以外に言うのはやめときなさいね。バカにされるわよ?」

「お前にもバカにされてるんだが!?」


 さりげなく自分をいい奴みたいにしようとしていた。よっぽど悪質じゃないか。

 ぷぷぷと笑うエイルに、だが俺は――さて、と。

 大きく息を吸ったことでこちらの考えを察したのか、エイルが静かに言う。


「それで。あんな大見え切ったけれど、これからどうするの?」


 その言葉は、このままだと試験に挑むのは七年後になることを指摘していて。

 いかにヴォーダンと引き分けようとも、手元にあるのは初心者装備とFランクの称号のみ。

 依然、Sランクへの道は遠かった。ふりだしに戻ったと言えるのかもしれない。


 が、それでも諦める気などは毛頭なくて。――ならば、策は見つからなくとも。

 たった一つだけ、最高のアイデアは浮かんでいた。


「なあエイル。俺と一緒にパーティ組まないか?」

「――……え?」


 虚を突かれたような声だった。だけどエイル、もう俺の性格は分かっているはずだろう。

 つまらなそうなSランカー、まして諦めたAランカーなどこっちが願い下げだ。

 俺が欲しい仲間は、一緒に笑ってダンジョンへ挑めるFランカーなんだから。


「それは……ええ、とても楽しそうだと思うわ」

「そうだろっ!? 一番の名案だと思うんだ、だから一緒に――」

()()、それはできない。私は――ダンジョンへは入れないわ」


 その声は低く、きっぱりと。エイルは目を合わせずに言い落とした。


「入れないって、それはどういう――」

「――ごめんなさい、今のは忘れて」


 拒絶するように告げるエイル。うつむく表情は寂しげで、凛とした瞳は遠くを見つめて。

 距離を取るような沈黙が、(はかな)げな態度の全てがエイルの意思を物語っていた。

 ――忘れてくれと。そう言われて、大人しく忘れられるはずなどなかった。


 逆効果にもほどがある。今すぐ質問攻めにして、それから全部を笑い飛ばして、ダンジョンに引っ張って行きたいくらいだ。……でも、そうじゃない。

 エイルにはエイルの事情が、気持ちがあって。自分自身で立ち向かうしかない戦いがきっとある。向き合うことにこそ意味があるのだ――だから。


「ああ、俺は眼つきのついでに記憶力も悪いんだ。口も悪いし態度も悪い」


 それと、ついでに諦めも悪くてな。


「だから、一人で立ち向かえなくなった時は――その声で、思い出させてくれよ」

「――ええ。私、記憶力は良い方なの。だから……」


 その言葉は忘れない、と。小さく動いた口を俺の両目は見逃さなかった。

 視覚強化のスキルが、何よりも役に立った瞬間だった。


「――よしっ」


 人通りがピークを迎える頃、エイルは切り替えるように瑠璃色の髪をフワリと揺らし。


「じゃあ私は一度、集会場へ戻るわ。宿屋があるのは逆方向ね――私がいなくても迷わないかしら、田舎者さん?」

「安心しろよ、こう見えて〝トーキョー〟っつう場所からきた都会っ子だからさ」

「――病院を紹介した方がいいかしら?」

「妄想じゃねぇよッ!!」


 叫んだ俺の声は、しかしうるさい街の音にかき消されて。

 凛と笑ったエイルは、また明日――と手を振りながら人の波に揺られていく。

 華奢(きゃしゃ)なその後ろ姿に、俺は今日という一日の終わりと、異世界生活の始まりを感じながら。

 とりあえず宿と夜ご飯を――そう考えながら、歩き出した瞬間。


 ――ボイン。


 柔らかい何かにぶつかって、石畳に尻もちをついてしまった。


「いつつ――、すいません、前見てな――っ」

「あっははー、アタシは前見ててぶつかったんだけどね?」


 そこにいたのは、異常な薄着にツインテール、猫目がギラリと光るお姉さん。

 唐突に現れたレイナさんは、困惑する俺をニヤリと見下ろしながら――言った。


「ねぇカント。アタシの『()()()()()()』――あげよっか?」

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では、次話でまたお会いしましょう。 ―梅宮むに―

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