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マグネット(仮タイトル)  作者: 腹巻鶏
3/4

番兵

「へい、おまちどおさん!」


ガヤガヤと賑わう飲み屋。

そのキスケの席に置かれたのは、シュワシュワと炭酸の泡立つ薄色の飲み物。


「おぉ!美味そー!」


「この村自慢の『りんご酒』、それから羊ステーキとハッシュポテト。以上でいいかい?」


「ああ。ありがとうおばちゃん」


そう答えたのは、キスケではなく、その隣に座る一人の男性。

先程キスケがこの村へやってきた時に居合わせた、あの番兵の一人だ。


「いただきまーす」


キスケはナイフを使わず、ステーキにフォークを突っ立て、ガツガツとかじって食べていく。

どこか品性の無い食べ方に、番兵は呆れた顔をした。


「……まったく。なんで俺が、知らねぇガキに飯を奢らなきゃならないんだか」


「まぁまぁ。そう言わねぇでくれよ、おっちゃん。モグラに追い回されて、腹減って死にそうだったんだ。金も無かったから、めちゃくちゃ助かった。お礼はいつかするからさ」


「丸腰で外を彷徨うろつくような野郎に、いったい何のお礼ができるってんだ?」


「あんなのが現れるとは思ってなかったんだよ」


「アホめ。この辺りの魔獣なんて小せぇ方だ。旅でもしてんのか知らねぇが、ここのモグラに苦戦するなら、この先はもっとやべぇぞ」


それを聞いたキスケはステーキをグッと噛み、首を振って噛みちぎる。

それをスルルと飲み込み、肩を落とした。


「……だよな」


キスケは機動力の割に、攻撃手段としては拳と脚しか持ち合わせていない。

魔法適性があれば話は違ってくるものの、キスケは五人に一人の確率で産まれてくる『魔法非適性《魔力を扱えない》体質』だ。


────やっぱり俺が武器を持つか、頼りになる攻撃力を持った仲間を見つけるしかないのか────


キスケはそう考えながら、バクバクと肉を口に運んでいく。

この先を案じていながら、食欲は劣らない。


「高ぇステーキを飲み物みてぇに食いやがって。……ったく、気が済んだら南の丘にある屋敷に行けよ」


「?」


番兵が一口水を飲み、低く優しめな声でそう言った。

なんだかんだ言って世話見がいい。


「昔は領主が住んでたが、今は旅人に向けた宿屋になってる。安心しろ、値段もほとんどタダに近い」


「なんだそりゃ。どうやって経営してんだ?それ」


「……まぁ、いろいろあんだよ。話せば長くなる。実際に行ってみた方が分かるだろうしな」


番兵はそう言って立ち上がり、懐から小銭を出してカウンターに置いた。

キスケもフォークを離して立つ。


「ありがとうございました。肉とか、何から何まで」


「んだよ、敬語使えんじゃねえか。恩を感じてんなら、旅先でメシ代稼いでいつか返しに来い」


番兵はそれから手を振らず、背中だけを見せて店を出ていった。

なんの関わりもないガキに無上の優しさを向け、颯爽と消えていくその姿。

キスケの印象にえらく強く焼き付いた。


「……名前でも聞いときゃよかったな」


キスケはそう言って店の出口を眺め、やがて席に着いて再びステーキにかぶりついた。




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