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マグネット(仮タイトル)  作者: 腹巻鶏
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大きなモグラ

晴天の中、茶色い馬にまたがるキスケが平野の一本道を駆ける。

人や物の運搬のために敷かれた道であるため、ここを行けば必ずどこかの街や村に到着するはずだ。

何とか、夜になる前にそこへ辿り着きたい。


しかし、人の手が加えられているのはこの「道」だけ。

辺りには野生の魔物が闊歩かっぽしており、街を移動する旅人や商人を食らおうと襲いかかる。

今、丸腰で馬に乗っているだけのキスケなど、まさに格好の餌というわけだ。


「街から離れると、結構魔物も増えてくるな。ナイフも何も持ってないし、戦いたくねぇのが本音だが……」



そう言いながら馬を走らせるキスケの周りを、いつの間にか数匹の魔獣が併走へいそうしている。

完全に囲まれてしまっている。

この魔獣、どうやら馬より足が速いようだ。


「……馬を止めれば、全方位から同時に飛びかかられて終わりだな。仕方ねぇ……!」


キスケはため息をつき、体を浮かせてくらの上に両足をついて乗る。

そして左手首に手網を一周だけ巻き付け、簡単には手が離れないようにした。

これで、ある程度は馬上でも戦える。


「先手必勝!……テラ・アダマント!」


キスケの目に黒い稲妻が走り、能力が発効する。

左手を向けた先にいた一匹の魔獣がふわりと浮いたかと思うと、一直線に馬上のキスケの方へ飛んでくる。

するとキスケは鞍に両手をつき、まるで逆立ちでもするように足を上げると


「ッ……うらァ!!」


逆立ちをしたまま両手を動かして体を軽く回転させ、その勢いも乗せて飛んできた魔獣に硬いブーツの蹴りをお見舞いする。

これが走行中の馬上で行われているとは、まさに曲芸のようだ。


「クゥ!」


引き寄せられて来た魔獣は為す術などなく、脳天に勢いよくかかとをもらい、フッと気を失って地に落ちる。

しかし仲間の脱落に見向きもせず、残り三匹の魔獣は相変わらずキスケの馬を囲うように布陣を組んで走っていた。


「ふぅ。……いい馬さんだな。上でこんなに暴れて、素直に走っててくれるなんて。どこかの街に着いたら、とびっきり美味いモン食わせてやるぞ」


体勢を整えたキスケが頭を撫でると、馬は走りながらもフッと鼻から息を吐いてそれに応える。

この名馬、あの腐った貴族の元にいたとは勿体ない。


「俺の蹴りが通用するってんなら、何も心配ねぇ!ほら、どんどんかかってこいよ!」



と、魔獣に向けてキスケが言い放った、その時。

なんと、突然百メートル先の道が盛り上がり、鳴き声を上げながら地中から巨大なモグラが現れたのだ。


「ッな……モグラ!?」


キスケが驚いて馬を停める頃には、周りにいた魔獣は身の危険を察して逃げ去っていた。

明らかに肉食獣だった奴らが逃げたとあれば、このモグラ、そうとう危険なのだと伺える。

そのモグラは、小さな目でキスケを捉えたまま地中から完全に体を出した。、

地上で活動するモグラなど聞いたことは無いが、相手は魔物、生物学による常識は通じない。


「い、家くらいデケェぞこいつ。……けど、野良魔獣《お前》ごときが倒せないで、何が『魔王討伐』だよって話だよな……!」


キスケは馬から降り、モグラに向かい立つと、パンと手前で拳をうち、左足を前に出して腰を屈める。

やる気満々、準備万端。


「ッしゃ!行くぞ!!」


地面を蹴ると同時に、目に稲妻が走り、キスケは勢いよくモグラの方へ吹っ飛んでいく。

そのまま空中で上手く体を使い、右足を振りかぶるような体勢をとった。

速度、タイミング、申し分ない。


「うらあぁぁぁッ!!」


ちょうどモグラの顔面に到達した瞬間、体を何度も回転させて遠心力をつけ、右足(かかと)を思いっきりモグラの鼻にぶち落とした。

完璧なクリーンヒット。

キスケの全パワーを活かした、強烈な一撃だ。


────しかしモグラは、なんとそれに一切の反応を示さない。


「ッ……き、効いてねぇのか!?」



なるほど、いくらスピードでパワーを補ったところで、相対するは巨大な魔獣。

その戦力差は、まるでネコとゾウが戦うようなもの。

そのまま地面に着地したキスケに対し、モグラは捕まえようと手を伸ばしてきた。


「お、おいおい。ヤバくねぇかこれ……」


口角をひきつらせるキスケと、迫りくるモグラの手の影。



冒険の幸先はどうにも悪く、日の沈みかけた広い広い平原に、青年の悲鳴が響く。


どうやら、『大型の敵』と戦えるような仲間を見つけることが、今後の急務となりそうであった。



********************



「おい、誰か来たぞ」


その日のうちの、星がまばゆく光る夜の刻。

とある村の入口門にて、松明を持った番兵がそう言った。

それに、葉巻を加えるもう一人の兵が反応する。


「……マジかよ、もう夜は十時だぜ?こんな時間に、誰が村に来るってんだ」


「知らねぇよ。けど、怪しいのは確かだな。気をつけろ」


二人は槍を握りしめ、薄暗い中を近づいてくる影と馬の足音に警戒した。

次第にその姿がハッキリしてくる。

馬が背中に乗せているのは荷物……ではなく、ぐったりとした青年キスケだった。


「お、おい!大丈夫かアンタ!意識はあるか!?」


それに気が付いた番兵は馬に駆け寄り、背中のキスケに声をかける。

パッと見で血や外傷はうかがえないが、この憔悴しょうすいしきった姿、只事ただごとではあるまい。

するとそんな番兵の声で目が覚めたか、キスケはゆっくりと顔を上げて今にも死にそうな声で口を開いた。


「……腹が……」


「は、腹が!?」


二人は食い気味で続きを促す。

しかし。


「…………減った……」


「…………」


心配して損したというように表情を沈め、沈黙した二人は、キスケのお腹がなる音に「はぁ」とため息をついた。

無事なのは幸いだが、傍迷惑はためいわくなことこの上ない。

親切な番兵たちは、お互いを見合わせて同時に言った。



「「また、この村に変なガキが増えちまったな……」」



********************




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