文学少女はドラゴンに求婚す
「レイラ、貴様との婚約を破棄する!」
第二王子にそう宣言された侯爵令嬢の私は、
「婚約破棄ですね。わかりましたわ。」
と、笑顔で言った。
王子は、学園で運命の相手を見つけたとか騒いでいるので、私はさっさとその場を後にする。
もともと第二王子との婚約は、家格と年齢の釣り合う令嬢が他にいなかったから結ばれたものだ。
そんな婚約は、私の邪魔でしかなかったので、せいせいした。
そして、婚約破棄された私にはやるべきことがある。
私はすぐに、王立図書館へと向かう。目当ての人物は、すぐに見つかった。中庭で本を読んでいた彼は、私を見てこう言った。
「レイラ?今日は第二王子との茶会の日だろう。なぜここに?」
耳に心地いい低音で、私に問いかけてきたのは、ドラゴンのギル。今は人の姿に変化しているけど、本当の姿は漆黒の巨大なドラゴンだ。
「婚約破棄されてきたの。だからギル、私と結婚して。」
「は?」
ギルは、読んでいた本を取り落とす。大きく目を見開いた、彼の瞳孔は縦に伸びており、ドラゴンはやっぱり爬虫類っぽいなと思う。
暢気にギルを観察している私に、彼はため息をついた。
「…はぁ。あの馬鹿王子は、何を考えているんだ。」
「学園で運命の相手に出会ったんですって。あと、物書きをするような女は御免だとも言ってたような。」
「王国文学賞を受賞した程の才女の何が不満なんだか。」
「レイラの名前で受賞した訳じゃないし、知らなかったんじゃないかしら。」
私は、レイク・アンバートンというペンネームで、物書きをしている。
小説、エッセイ、童話など幅広く書いているが、中でも小説の人気が高い。
一年前に出版した『竜の背に咲く花』が、大ヒットして王国文学賞まで頂いた。
授賞式には、第二王子も参列していたが、私が変わり身として雇った青年がトロフィーを受け取ったので、知らなくても無理はない。
そんなことより、
「ギル、今『才女の何が不満なんだ』って言ったわ。そう言うからには、ギルは私が結婚相手でも不満じゃないのよね?」
「…そういう意味で言ったんじゃない。どうして、俺に求婚なんてするんだ。」
逡巡した後、私は笑顔で告げる。
「ドラゴンと、その番しか辿り着けない空中図書館へ行きたいから!」
「…そんなことだろうと思った。」
呆れた視線を向けるギルに、本当の理由はまだ秘めておく。
(私の書いた文章を最初に好きだと言ってくれた、貴方を愛しているの)
私はギルと出会った頃を思い返した。
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