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今日から学校と仕事、始まります。②莞

中卒で天寿を全うしてくれ!?

作者: 孤独

モグモグ……


「……………」


いつの頃から、同じ一日を過ごすだけでいた。

娘に作ってもらった飯を食べ、散歩をし、本を読み、風呂に入り、布団の中に入る。

すでに歯の感覚が伝わらず、舌の喜びも鈍っている。目も、鼻も、耳も、形はまだ保っていても、中はボロボロだった。

74年間も人という器で生きていたが。今日、1人の老人が死んでしまった。


老いたる死に方。

本人知らず、2度目の死だった。


◇      ◇



「えっ!?中卒で天寿を全うしてくれ!?」


世界5秒前誕生論が存在するかのようなやり取り。

1度目の事件死から蘇るための転生に出された条件は、不利な足枷をつけられるというものだった。


「そんな!そもそも中卒という学歴で!社会に生きるなんて無理です!」

『まー、現代より前の時代に生まれると解釈してくれ』


未来に行くのではなく、過去の人物として生まれ変わるという。そんなら歴史上の人物にして、イキらせてくれても良いだろうのに


『他の候補として。室町時代の町人の安さんとか、奈良時代の村人、頓さんぐらいしか入れ代わり先がないんだよね』

「誰だよ!?」

『歴史ってのは名のある人しか生きてないよう描かれる。時代には名のない人達が大勢いるものさ』


死にたかった人物もいれば、生きたかった人物もいる。

転生という響きではなく、入れ替わり


『”運命交換”には代償が必要なのさ』


死んでしまった生きたかった人間と、生きてるのに死にたかった人間を見つけ出す事が条件。

生きたかった人間の身体は魂ごと全てなくなるが、死にたかった人間の身体にその魂が宿る。

記憶も失われてしまうが、魂は生き残っているという不思議な状態のまま。生き永らえる。


「……ええい、仕方ない!俺は人に殺されて死にたくない!!俺は俺らしい生き方をしていない!中卒でいいよ!やってやるよ!!」

『交渉成立だね。13歳頃に魂が入るよ。どう頑張っても、その運命だけは変わらないけど。それ以外の運命はなにも決まってないからね』

「おう!じゃあ、見てろよ!神様的なの!!俺は、天寿を全うしてやる!」


こうして、男の1人は20年ほど体を若返らせるも、過酷な運命を授けられて蘇る……いや、過去に生まれるのであった。



◇        ◇


昭和20年代。

戦争が終わり、敗戦によって過酷な状況で過ごすことになった日本人達。

そんな中でも多くの子供が、生を受けて育っていく。3兄弟、4兄弟など。子沢山の家庭の方が一般的。だが、兄弟全員が共通して同じ道を選べたかは……難しいものだった。


家族を養うため、兄も働き、弟達を学校に通わせること。

逆に兄の進学のために、末弟に進学を諦めさせること。

夢など遠い。今日生きるために必死になるという時代があったのだ。


昭与あきよ。悪いけど、働いてくれない?お兄ちゃん達には大学まで通わせたいの」


4兄弟の末っ子生まれ。

家は貧乏であったが、自分以外は高卒。長兄に至っては大卒。


「俺が立派になって!家族みんなを養ってやる!兄弟みんな一緒だ!」


と言っていた兄。次男、三男は、兄が作った会社に入って、高度経済成長期の波に乗っていった。

だが、自分は中卒。学歴通りに頭も悪かった。家族の方から諦めてくれと言われ、家族の方から冷たい目もされた。兄弟仲は表面上良くても、心の中では見下されている気がしていた。

その一方で、兄達の迷惑になりたくないとも思っていて。



家を出ていった。



ブロロロロロロ



入社したのは、タクシー会社だった。

好きだから入ったとか、車乗りてぇからじゃなく。


「これくらいしかなかったんだよ!」


学歴のない自分が選べる仕事なんて限られる。金を稼いでから学校に行こうとも思ったが、現実はそう甘くない。これからの時代、車が世の中を動かすと感じ、借金をしてまで免許と車を買った。その上で学歴も手に入れようなどと、思い上がり過ぎる。

同時に


「昭与くーん。乗せてもらっていい」


彼女ができた。

俺は26歳の時、その彼女にプロポーズをして結婚する。



◇        ◇


それから50年後。

定年を過ぎても、個人タクシーとして自由に仕事をしている俺。

中卒であるが、50年もタクシー運転手として、誇りを持って仕事を続けている。残念なことは1年前に妻を亡くした事。良かったことは、4年前に三女の孫を抱いたことだった。


ブロロロロロロ


キーーーッ


「どーぞ」

「………………」

「?」


駅前にいる1人の男を乗せた時。何かは分からないが、奇妙な因縁を感じる。初めて会ったのに、初めてじゃないような。以前に乗せた客に見えない……。なんか、浮浪者のような雰囲気だし。


「どちらまで?」


”清光寺”


「清光寺まで……」

「え?ああ、分かりました」


なんだ今の。俺は初めて会った人間なのに、行き先がどこか分かっていたぞ。

なんなんだこの感覚は……。

無言でいる浮浪者のような男をそのままにするわけにいかないと、50年もやってきたタクシー運転手らしく話しかけた。


「清光寺には観光ですか?祭り、今日だったっけ」

「……………」

「あそこはもう寂れちゃってますけど。昔は賑わっていた祭りなんですよ」


……違う。そうじゃない。

そんなこと思っていたら。


「うるせぇーな。黙って運転しろよ、底辺」


客に暴言を言われるのが久しいが、それ以上の久しさがある。

ムッとしてしまった顔も出たが。それでも紳士的に


「今の方は大変ですね。私、中卒で。タクシー運転手(コレ)しか仕事がなかったんです。嫌なことがあったかもしれないですけど、今は大変だけど夢を見る事ができるのは良いことなんですよ」

「……………」


殺されそうな雰囲気になりつつも、こんな老体の命を奪ってどうすんねんと開き直るかのような、強心臓も長年働き続けたからか。


「自分だけ恵まれていないなんて嘘」


その時だった。ミラーに映った浮浪者が刃物を取り出していた。それを見た瞬間、”また、殺されると”

運命を知った。そして、それを変えるために今まで生きていたんだと悟った。


「止めてください。いくら頭悪くても、それがイケない事くらい分かるでしょう?逆恨みかなにか知りませんがね」


祭りの会場に向かっていて、このまま降ろしてもダメだ。かといって、色々無理だ。

パニックになっているのは頭の悪さではない。

だが、……浮浪者は刃物をしまった。そして、



「悪い。金がない」

「じゃあ、今すぐ降りてください。歩道みたいにちゃんとした道を歩いて生きてください」


この浮浪者を歩道に降ろすことができた。それと忘れ物かなにか。大丈夫だって伝えるように


「刃物を車の中に忘れないでくれ」


到着したら人を刺してやろうと思っていた包丁を置いていった。ひとまず、安心だろう。これからは真っ当な道を歩んで欲しいと思った。

危機一髪を乗り越えると、その時思っていた事もパーーーンッて弾け飛んで、どこかへ行ってしまった。


◇        ◇


一方で、浮浪者は歩道を歩いていたところで、待っていましたという感じで喫茶店の店主みたいな老人と、けだるげな表情でいる青年に遭遇していた。

そして、老人の方から


「どーですか?”運命交換”をされた気分は」

「……どーして、生きるのか分からなくなる」


死にたい人間の運命が入れ替わるのは、生きたい人間を殺した人間の魂であった。

自分が殺した相手に諭され、自分が諦めた人生で楽しく生きている相手と出会い、それを殺そうという運命を背負うもの。


「落ち込むことはあるものだが、……そう続けても仕方ない」


この中で一番、若い人物が歩み寄る。運命は必ず、清算しなければならない。つまりは……。


「………………」


絶望とは違う。他人の幸せを見ている気分で例えると、嫉妬が近い気がする。あんなに自分の人生は変わるものなのかって思う。



ブロロロロロロ



車が通り過ぎた時、浮浪者は消えていた。今度こそ、死んで悔しかったと思って死ねた。

これで不自然に曲がった運命は戻るだろう。


「藤砂くん、帰りますよ」

「ああ、……気分の悪い調整だったよ」

「それはごめんね。許してよ」


ちゃんと死ぬべき人は、死なないといけなかったのが悲しいものだ。

この間、タクシー乗ったんですが。

運転手さんとの話が少し印象に残りました。

それを参考にした設定で書いちゃいました。



タクシー50年以上はやってるんですよー。

私、四男で家が学費を払えなくて中卒。当時じゃ、タクシーのような運送ぐらいしか働き口なくて50年続けて。

でも、あんたぐらいのみたいな息子達おって、孫も見れて。

いやー。苦労したけど、続けられて成功したなーって。

今の人達も大変だろうけど、お仕事頑張ってね。


自慢話が大半で、運転手のお話なので信憑性も色々でしたが。

時代が違うんだと言えばそうですが、頑張っていくのは変わらないんですね。

今の時代にそんなのいたらヤベェとか思いますが、続けるにしろ辞めるにしろ。行動すると結果は出るんだなーっと。

案外、人生一番の不運とか不幸、事故、失敗とか。長ーく見ると、石ころに躓いた程度なのかもと、思いました。

運送関係において、学歴はそこまで求められてないので、働き口はあるんですよね。周りがやりたくないだけで。


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2020/03/26 22:25 退会済み
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