第7話 「炸裂、執事神拳!!!」
前回までのあらすじ! と言いたいところだが、正直まとめるのが面倒くさい! 各自で前回のエピソードを読み返して復習してくれ!
「そうですね……“6秒”……と言ったところでしょうか……」
こん棒を持ったオーク2体を前に、COOLに言い放つアルノ。
白手袋をキュッとはめ直し、ファイティングポーズを取った。
「……!」
深く息を吸い、足を大きく開きつつ腰を落とす。左手は腰に添え、右手は敵を威嚇するように前へ突き出す。
「なんだ? あの構えは」
「よく分かんねぇけど、なんかヤバそうだぜ……!」
アルノが全身から発する“気”を感じ取り、思わず身構えるオーク達。
「さあ……いきますよ」
そして次の瞬間。
アルノが、消えた。
「「!?」」
信じがたい光景を目の当たりにし、思わず目を疑う2体のオーク。
──1秒経過──
アルノはオーク達の後ろに回り込んだ。
──2秒経過──
軽やかなステップで1体目のオークの背後まで肉薄する。
──3秒経過──
オークの首筋に鋭い手刀を直撃させた。
──4秒経過──
そのまま地面を蹴って2体目のオークの背後へ移動。
──5秒経過──
今度は足を高く振り上げ、オークの首筋にハイキックを当てた。
──6秒経過──
2体のオークは、白目をむいて地面に倒れた。まさに、あっという間の早業である。
そして一仕事終えたアルノは、その艶やかな黒髪をかきあげながら口を開く。
「ぴったり6秒、ですね……」
あまりにも完璧で、あまりにも優雅な動き!!
ものの6秒で、アルノはオーク2体を見事倒した!!!
恋愛カテゴリの小説にもかかわらず唐突にアクション展開が入ってきたので、戸惑ってしまう読者の皆様の気持ちはもっともだ!
だが、作者はまだ生後8か月!!!
“恋愛”という言葉の意味もまだよく分かっていないので許してほしい!!!
「これが私の武術、その名も“執事神拳”。この極められた技の前に、敵はいません」
説明しよう!
執事神拳とは、執事のみが使える最強の拳法のことである!
(※執事神拳……この拳法の発祥は今から500年ほど前のこと。とある国の貴族に仕えていた執事・セバスチャンが編み出した。そもそもはご主人様を敵から守るための護衛術として生まれたのだが、時を経て研鑽されるうち、この拳法はアグレッシブな殺人拳へと姿を変えていった。何があろうとご主人様を守るのが執事の務め。であれば、やられる前にやるのが最適なのだ──世界貴族出版刊「執事は常に武と共にある」より抜粋)
「さて、こんなものですかね……」
アルノはオーク2体の死体を、これ見よがしに道の端に配置した!
こうしておけば、この道を通りかかったジャンがオークの死体に気付く!
そして、“ポーラの呪いのおかげだ!”と信じ込むであろう!
「やれやれ、お嬢様の悪知恵には困ったものだ……」
そしてアルノは燕尾服の乱れをきっちりと直し、来た道を戻っていくのであった!
それから2日後!!!
ポーラとアルノが路地裏でスタンバっていると、そこに颯爽とジャンがやって来た!
「すげぇ! すげぇよマジェポ様ー!」
ジャンは興奮気味にそう言ってポーラの対面に座る!
ちなみに“マジェポ様”とはマジェスティック・ポーラ様の略である!
「うふふ、どうしましたか? ジャン!」
「あんたの呪いが効いてたんだよ! 昨日例の道を通って村に行ったら、その道中でオークの死体を見つけたんだ! ありがとうマジェポ様! これで今までのように安全に村まで行けるぜ! あんたマジすげぇよ!」
晴れやかな笑顔で言うジャン!
するとポーラはエヘンと胸を張り、
「当然ですわーーーーー!!!!! 私は天才占い師! どんな予言も呪いも百発百中でこなしますわーーーーー!!!!!」
と叫んだ!
「いやーほんとアンタは天才だよ! 今度俺の友達にも、あんたのこと紹介しとくな!」
「ええ、ぜひそうなさってください! 私はこの国の迷える子羊たちを、全員救って差し上げますわーーーーー!!!!!」
そう自慢げに言い放つポーラのことを、横からやれやれといった感じで見つめるアルノ!
(まったく、ずいぶんと調子のいいことを……)
すると彼女は「あ、そうですわ!」と言って、水晶の置かれたテーブルの下から大きめの壺を取り出した!
「ん? なんだそれ」
首を傾げるジャン!
「これは、私が念を込めて焼き上げた“開運の壺”ですわーーーーー!!!!!」
「おお、なんかそいつも凄そうだな!」
「本当は10万ゴールドの価値がありますが……今回は特別に、1万ゴールドであなたに譲って差し上げますわよーーーーー!!!!!」
(き、聞いてませんよお嬢様! ここまであくどい商売をやるなんて!)
アルノ、驚愕! 圧倒的驚愕!
なんとこの没落令嬢、遂に霊感商法にまで手を出した! だが読者の皆様であればとっくにご存じのはずだ!
ポーラならこれぐらい平気でやる!!!!!
「10万ゴールドが1万ゴールド!? よっしゃー! 俺それ買うわー!」
(買うなバカ!)
しかしそんなアルノの気持ちなど知る由もなく、ジャンはまんまと1万ゴールドをポーラに手渡した!
「その壺を毎日部屋に飾っておきなさい! そうすれば開運しまくり! ウッハウハですわ!」
「ウッハウハか!」
「ええ! ウッハウハです!」
「得したぜ! ありがとうな、マジェポ様!」
そしてジャンは、壺を大事そうに抱えて帰っていった!
「……お嬢様……あれでよかったのですか……?」
「何がですの?」
「いやだから……あの壺……」
「何がですの?」
「いや……だから……ぼったくり……」
「何がですの?」
「普通……罪悪感とか……」
「何がですの?」
説明しよう! ポーラの辞書に“罪悪感”の文字はないのだ!
それから数日の間に、ポーラの占いの噂は国中に広まった!
どんなトラブルも占いで解決するその手腕はまさに神がかり的だと称され、彼女は一躍人気者に!
路地裏に構えた店の前には毎日長蛇の列が出来上がり、悩みを持った人々が彼女に相談する!
内容はストーカー退治にいなくなったペットの捜索など多種多様であった!
そしてポーラが「大丈夫! あなたをストーキングしている男は今夜のうちに倒されますわ!」と言えばアルノが闇に紛れてストーカーを倒し!
「大丈夫! あなたのペットは今日中には家に戻りますわ!」と言えばアルノが必死に街中を走り回ってペットを見つけ出す!
彼女が占いで予言を言う度に、それを実現させるためアルノが奔走するのだ!
常人であれば不可能だが……世界トップクラスの鍛え上げられた肉体を持つアルノだからこそ可能なやり方!
この陰の実力者のおかげでポーラの名声はどんどん膨れ上がり、彼女の占いに感銘を受けた人々は、まんまと騙されて高い壺を買っていく!
こうして悪徳占い師ビジネスを成功させたポーラとアルノは、瞬く間に大金持ちになっていった!
しかし、この“占い師バブル”も長くは続かないのである……!
次回、「インチキ占い師vs本物占い師!!!」に続く!!!