第3話 「アイドル事業で荒稼ぎ!!!」
前回までのあらすじ! 王国一のお金持ち・ポーラは、何者かの策略によって没落令嬢になった! なんとかお金を稼がなくてはならない彼女は、“執事をアイドルデビューさせて荒稼ぎする”という悪魔的発想に至る! こうして彼女は、執事であるアルノを女装させ、“あるのちゃん”という男の娘系アイドルとして無理やりデビューさせるのであった!
と、いうわけで。遂に、“あるのちゃん”のデビューライブ当日がやって来た。
今日は王国の繁華街にあるライブハウスを1日だけ貸し切っているので、そこで彼のデビューライブを行う。
「さあ、アルノ! いいえ……“あるのちゃん”! 今日は記念すべきあなたのデビューライブですわ! 張り切っていきましょうね!」
「は、はい……」
本番直前、ステージの舞台裏で話し合うポーラとアルノ。
アルノは今、ポーラが用意したピンク色の甘ロリファッションに身を包んでおり、恥ずかしさからか顔をゆでだこのように紅潮させていた。
190センチという圧巻の高身長でありながら童顔の彼は、こうして女装をしても違和感がない。いやむしろ……めちゃくちゃ可愛い!
ポーラがしっかりとメイクを施したその顔は、まさに絶世の美女! 元々きめ細やかで張りのある肌を持つアルノは、彼女のメイクアップによって最強の男の娘に生まれ変わったのだ!
さらにその手足はすらりと長く、アイドルとしてのポテンシャルはピカイチ!
「この日にいたるまでの3日間、私たちは一睡もせず血のにじむような努力をしてきましたわ! あなたは歌と踊りの練習! 私はデビューライブ告知のビラ配り!」
そう言うポーラの目の下には、寝不足を象徴するように黒いクマが出来上がっていた。
「と、ところで……今日は、何人ほどお客が入っているのですか?」
「ざっと100人ほどですわね」
「100人……多いのか少ないのかよく分かりませんね」
「新人の内なら、観客が30人以上来ただけで良しとするべきですわ! それと、ステージの上に立ったら観客のことはちゃんと“マイダーリン”とお呼びなさい! 他にも、私が教えたキャラ設定は遵守すること! いいですわね!」
「はい……」
そう。ポーラはこの日のために、あるのちゃんのキャラ設定をみっちりと作り、それをアルノに刷り込んできたのだ。
盤石の態勢で臨むこの“アイドル事業で荒稼ぎ作戦”に、隙はない。
「うふふ、アイドルデビューで一攫千金ですわよ……!」
そしてついに、デビューライブが始まった!
ステージに華やかな音楽が流れ、それに合わせてアルノ……いや、あるのちゃんが登場する!!!
「マイダーリンの皆ーー!! 初めましてーー!!」
マイクを握りしめ、精いっぱいの“可愛らしい声”を出しながらステージの中央に立つあるのちゃん! もはやただの羞恥プレイである!
と、その時!
「「「うおーーー!!!」」」
野太い男達の声援が、ライブハウス内に響き渡った!!!
(な、なんでだ!?)
内心驚愕するアルノ! 普通、男性アイドルのデビューライブと言えば女性がたくさん来るもの!
だというのに会場にやって来た観客の男女比は8:2!!
異例! 圧倒的異例!!
しかし……これこそがポーラの戦略であった!
彼女はあえて“男の娘”というニッチな属性を持ったアイドルをデビューさせることで、それまでのアイドル業界のメインターゲットだった女性だけでなく、男性という新規層も取り入れたのである!
流石は没落敏腕アイドルプロデューサー!
「おーっほっほっほ!!!!! 敏腕ですわーーーーー!!!!!」
舞台の裏で高笑いを上げるポーラ!
そんな彼女を横目に、アルノは「もうどうにでもなれ」と思いながら口を開いた!
「マイダーリンの皆ーー!!! 私、あるの星からやって来た新人アイドル、あるのちゃんだよーー!!! 好きな食べ物はパンケーキ、好きな飲み物はタピオカドリンク、性別は……ヒ・ミ・ツ♡♡」
「「「うおーーー!!!」」」
一斉に沸き立つ観客達!!!
(う、ウケている……のか? とにかく、こうなったらもう歌うしかない!)
「それじゃあ聞いてください! デビューシングル、“ふわふわ♡とろとろ♡パンケーキ♡♡♡”!!!」
「「「うおーーー!!!」」」
そしてアルノは、軽快な音楽に合わせてポーラが用意した恥ずかしすぎる歌詞を全力で歌い上げる!
「私は甘いふわふわパンケーキ♪」
「「「うおーーー!!!」」」
「クリームみたいにとろける乙女♪」
「「「うおーーー!!!」」」
「あなたのハートをずっきゅんばっきゅん♪」
「「「うおーーー!!!」」」
(も、盛り上がっている……!?)
驚くべきことに、デビューシングル“ふわふわ♡とろとろ♡パンケーキ♡♡♡”は大好評!
持ち前の運動神経の良さを活かした彼のダンスも、ステージを大いに盛り上げた!
「おーっほっほっほ!!!!! やはり私の作詞能力は天才的ですわーーーーー!!!!!」
ステージの裏でまた高笑いをするポーラ!
こうして、あるのちゃんのデビューライブは大成功のうちに幕を閉じた!
それから2週間の時が過ぎ──
──あるのちゃんは、王国のトップアイドルにまで上り詰めていた!!!!!
デビューライブで観客達に与えた衝撃は噂となって国中に広まり、ライブをする度にファンの数……いや、マイダーリンの数が100人単位で増えていく!
あるのちゃんの公式グッズであるブロマイドやタオルも飛ぶように売れ、アルノとポーラは瞬く間に大金持ちになった!!!!!
「おーっほっほっほ!!!!! アイドル事業で荒稼ぎ作戦、大成功ですわーーーーー!!!!!」
今日のライブも無事に終えたポーラは、疲労困憊のアルノを引きずるようにして宿に戻ってきた!
「つ、疲れた……」
部屋に入るなりロリータファッションを脱ぎ捨て、死んだような目でベッドに横たわるアルノ!
「今日もよく働いたわねアルノ! 明日もライブですから、とっとと寝ていい夢見なさい!」
「そんなことよりお嬢様……お父様をはめた真犯人を探さなくても良いのですか?」
「それはもうちょっとお金がたまってからですわーーーーー!!!!!」
彼女はそう返すと、帰り道で買ってきたキャビアの金箔まみれ弁当をガツガツと食べ始めた!
「うめぇ! うめぇ! 労働の後のキャビアは絶品ですわーーーーー!!!!!」
しかし、この“あるのちゃんバブル”も長くは続かないのである……!
次回、「アイドル事業、没落!!!」に続く!!!