王との邂逅〜5〜
「ぎゃっ⁉︎」
左肩辺りを切りつけられた男性が、短い悲鳴を上げた。兵士2人が野盗相手に剣を構えて何かを叫んでいる。リエンタールさんは、何を考えているのか…彼の後ろ姿は静かすぎて、何も分からない。私が怖いのは、野盗か、それともリエンタールさん達か…いや、守るって、決めたじゃないか。私は、この世界になぜ呼ばれたのか、その本質を見極めるんだ。
野盗は口々に罵詈雑言をぶつけながら、切られた男性を引っ張り去って行こうとしていた。私は、リエンタールさんが馬車のドアを開けたタイミングで外に飛び出した。
「待って‼︎」
私は切られた男性の側に駆け寄った。全員がギョっとこちらを見る。
「なんだ手前ぇはっ⁉︎」
野盗の1人がバッと私を捕まえようとしたが、その腕を何とか避ける。
「邪魔をしないで‼︎ジッとしていて下さい‼︎」
私は、これまでロナウ先生達と治療に当たっていた場面と、治療が終わって怪我が治った場面をなるべく緻密に思い出しながら、ゆっくり男性の傷に手をかざした。すると、バチっと光が弾け男性の傷を覆った。ふわっと光が消えると、薄っすら傷跡は残るが傷は治っていた。良かった…うまくいって…
「き、切られた傷が消えた…」
「いいえ、私がしたのは、あなたの治癒力を高めて傷の回復のスピードを速めただけ。安静は必要です。このお弁当を食べて、休んでください。」
女将さんから貰ったお弁当を渡しながら相手に伝える。そう、魔力の勉強やヒューイ君の怪我の治り方を見て分かった事だが…私の魔力は多いが万能ではない。私の場合、魔力で治療をするという事は、相手の治癒力を高める事だと分かったのだ。ロナウ先生に言われたのは、もし私の魔力だけで回復させようとすれば、魔力が枯渇し、最悪死に至るだろうという事だった。
「な、なんで、ここまでしてくれるんだ?俺たちは、あんた達を襲おうとしたのに…」
傷を治した男性が尋ねてきた。
「そうですね…すごく、怖かったです。でも、あなた達を見て、思ったんです。この世界が平和なら、あなた達が人を襲う程追い詰められる事はなかったんだって。大切なものを失くして、痛みや飢えを抱えて…すごく辛くて悲しい事です。差し出がましい真似をしたと思いますが、どうしても、放って置けなかったんです。」
私は、今まで生きてきた中で一番、素直に思いを吐き出した。怖かったけど、言わずにいられなかった。
「…すまなかった。」
恐らく、一番の年長者であろう男性が頭を下げ、全員を引き連れて去って行った。余程気を張っていたのか、その場にペタンと座り込む。と、ふわっと横抱きに抱き上げられた。
「へ、…えっ⁉︎」
状況が飲み込めず、ワタワタしている私に至近距離からリエンタールさんが静かに話しかけて来た。
「あなたは、優しいんですね。…だが、愚かだ。全てを救う事なんて、出来ないんですよ。」
スッと背筋が冷えるような感覚を覚え、リエンタールさんの顔を見る。始めて気付いたが…リエンタールさんの瞳の色は左右で少し違っていて、左側の瞳はより深い紫だった。見ていると、泣きたくなるような深い紫だった。
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