魔力とイメージ〜1〜
振り返ると、赤ちゃんを抱いたブロンドヘアの可愛らしい女性がワナワナしながら立っていた。
「こんな下らない戦争に、神の御使様を巻き込んで、あまつさえ人殺しをさせようなんて、絶対に許される事じゃない‼︎」
涙をこれでもかという程溜めて、私を真っ直ぐに見つめる目は、とても強くて…ロナウ先生と同じ悲しさを感じさせた。この人も、大切な何かをなくしたのだろうか。
「まぁ、落ち着きなさい。あくまで可能性の話じゃ。ほれ、赤ん坊が驚いて泣き出したじゃないか。」
赤ちゃんがホニャホニャと泣き出し、女性が慌ててあやし始める。赤ちゃんはすぐに眠ったため、女性が私の方へ近づいて来た。
「あ…あの、ごめんなさい。私は、エリィっていいます。先日、森の中で助けていただいて…真っ白できれいな服を着られていたから、すぐにあなた様だと分かりました。本当に、ありがとうございました。あなた様がいなかったら、私もこの子もどうなっていたか…」
「あ、いや…そんな…、助産師として当然の事を、お産のお手伝いをしただけです。頑張ったのは、あなた達親子なんだから…それに、森で迷っていた所を助けてもらえたんだから、お礼を言うのは私の方です。」
エリィさんは、顔を赤くして恐縮していた。が、次の瞬間、とんでもない事を言い出した。
「あの、あなた様は、神の御使様なのですか?この世界には、我々をお救いになるためにいらっしゃったのですか…?」
モジモジしながら、遠慮がちに話す割りに、恐ろしく断定的だ。いやいや、確かに泉の中でそんな夢を見た気もするけど、ぶっちゃけ自信とかやるべき事とか?さっぱり見えていない。アラフォーのおばさんが世界を救うなんて…絵的にどうだろう。せめて、20代で召喚していただきたかった。
あ〜…とか、う〜ん…とか、しどろもどろになりながら曖昧な返事をしていると、キラキラと私を見つめるエリィさんが女将さんに呼ばれた。
「あっ、いけないっ‼︎ヒューイ君達の包帯を交換しに行く所だったんだ‼︎神の御使様、また後で是非お話をお聞かせくださいね‼︎」
バタバタとエリィさんが階段を上っていくのを見て、私はホッとため息をついた。神の御使様…か。あの夢が現実なのだとしたら、私はこの世界で何かをしなければならないのだろう。だが…何をどうすれば良いのか、本当にさっぱりだ。
「さて…と、あんたが神の御使様かどうかは置いといて、その魔力をどうするか考えんといかん。大きな力は、幸福も災いも等しくもたらすものじゃ。使い方を誤れば、あんたもただではすまない。まずは、魔力の行使の仕方を学ぶ事が先決じゃ。儂も一応は、魔力持ちとして教育を受けた身じゃが…儂の魔力は弱くてのぅ。小さな火を起こしたり、軽いものを浮かせる位しか出来んのじゃ。」
「いえ、あの火事の時、ロナウ先生が魔力の事を教えて下さったから、私にあんな事が出来たんです‼︎是非、色々と教えて下さい‼︎」
ここで、見知らぬ人に習えと匙を投げられるなんて、絶対に嫌だ。異世界で見つけた味方を、そう易々と逃してなるものか‼︎
「…分かった。では、明日の朝9時からまた話そう。女将さんに、それで良いかを確認しておいてくれ。ここに厄介になるなら、何某かの役割があるはずじゃからな。それと、くれぐれも、使い方を覚えるまで無闇に魔力を行使してはいかんぞ。」
ロナウ先生は、一度自室に戻り、明日から本格的に魔力についての勉強をする事になった。女将さんに相談すると、午前は魔力の勉強をして、午後は避難所の手伝いをして欲しいとの事だった。とりあえず、やるべき事が見つかった。
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