悲しい世界〜8〜
ガヤガヤと騒がしい食堂の隅の方に、火事の現場で私に魔力の使い方を教えてくれたお爺さんが座っている。怪我人が担ぎ込まれて来たり、何やら喧々囂々と言い争いをしている人や、わぁわぁと泣いている人もいて、宿屋の食堂とはかけ離れているが、お爺さんのいるテーブルだけは静かだった。
「…あの、すみません。火事の時、魔力?について教えて下さった方ですよね。私はカレン・イトウと言います。あの時はありがとうございました。あなたがいなければ、ヒューイ…あの少年は助からなかったと思います。」
「いや、そんな…あの火事は、あんたがいなければ消せなかった。瓦礫という瓦礫に燃え移って、大変な事になっていたかもしれん。こちらこそ礼を言う。」
お互いに、恐縮してしまったが…お爺さんから本題に移ってくれた。
「さて…まずは、儂の自己紹介からするかな。儂の名はロナウ、街で医者をやっていた。数日前の大規模侵攻で、医院も全て失ってしまったが…避難所を転々として治療をしている。それで、あんたは一体何者だ?あんたには、大きな魔力が備わっているようじゃが。」
「あ…のですね、俄かには信じ難い話だとは思うのですが…」
私は、恐らく異世界からやって来た事、なぜ呼ばれたのか分からない事、魔力がそもそも何なのかも知らない事を伝え、出来ればこの世界の事や魔力について教えて欲しいとお願いした。
「そうか…どうりで。異世界からやって来た人間を見たのは、あんたで2人目じゃよ。」
「え、えぇえ〜⁉︎やっぱり、私以外にもいるんですか⁉︎どこに⁉︎その人に会って話を聞かなきゃっ‼︎」
「まぁ落ち着きなさい。その異世界人に会ったのは、もう50年は昔…儂の若い頃じゃ。生きてはおらん。その異世界人も、あんたと同じように国と国が戦争をしている時にこの世界にやって来た。そして、戦争を止め、世界に平和をもたらした…らしい。どうやったかは、分からんがな。儂がその異世界人を見たのは、戦争が終結した祝いの式典でじゃ。」
「そんな…」
私は、その事実にショックを受けながらも、以前泉の中で見た2人の少女を思い出していた。それじゃあ…あの2人は、私に…
「大丈夫か?おーい。」
ハッとお爺さんを見ると、優しい表情をしていた。
「そんな事情があるなら、さぞ心細かったろう。儂にできるのは、あんたの疑問に答える事位だが…何かの縁じゃ、力になるよ。」
「…ありがとうございます。」
あぁ、私は、意外にツイているのかもしれないな。異世界に来て、恐らく大変な戦争中に、優しい人達に出会えたのだから。
「では、まずこの世界についてレクチャーしようかの。」
お爺さんが、テーブルの上に世界地図らしき物を広げた。
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