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SURVIVOR  作者: MHSホールディングス
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第1章アイゼンガルド統一編 第8話イレギュラー

古池洋輔は平凡な男である。

生まれも裕福ではなく、ごく一般的な家庭。

顔も平凡だし、頭も平凡、運動神経も平凡だ。

だからこれといって自分が今まで運が良かったなんてこと、

生まれてこのかた思ったことはない。

毎年買っている宝くじだって一度も当たったことがないし、

たまに晴丘にパチンコに連れて行かれることがあっても、すぐに数万円溶かしてしまう。


だけど今だけは言える自分はとても運の良い男だ。

これはこのゲームにおける運を極めし者だけが体験できる運の良さだ。

たしかに洋輔はあの時大穴に落ちた。

高いところから落ちるのは現実世界も含めて、これが2回目である。

このデスゲームが始まる前に1回、スノボーで調子こいて崖から落ちて以来だ。

おかげで洋輔はこんなデスゲームに参加する羽目になってしまった。


洋輔は今ダンジョンの奥深くで見たことも聞いたこともない魔物に追いかけられている。

幸いその魔物は体がでかいだけで足は遅く、洋輔の素早さを持ってしても逃げ切ることができそうであった。

洋輔が落ちた先は魔物の腹の上だった。

トトロみたいな魔物のお腹の上で、落ちた時は正直なところ少し痛かった。

でも決して死ぬことはなかった。お腹のトランポリンで跳ね返った先が泉のような場所であったのも幸いした。

泉から出た洋輔を、トトロのような魔物に見つかり、数秒間見つめあった後に追いかけられて、今に至るのだ。


でも洋輔はまだ生きていた。生きているって素晴らしい。

洋輔はトトロもどきを物陰に隠れてやり過ごした。

それにしてもすごい形相だった。あの名監督でも絶対に思いつかないような顔をしていた。


にしてもここは一体どこなのだろうか。

ダンジョンの中ってのはわかるのだが、一体何階層なのであろう。

階層が深くなる毎に魔物の強さが増していくこのダンジョン。

おそらくだいぶ深い階層に落ちてしまっているはずだ。


きっとあのトトロもどきから一撃でも食らっていたら即死していたことだろう。

洋輔はステータスウィンドウを確認してHPが残り5であることに気づいた。

この世界に回復魔法はない。回復アイテムもない。

だが回復を助けるアイテムならある。この世界ではHPは一定時間が経つごとにわずかに回復する。

そしてその回復量を増やしてくれるアイテムがある。

洋輔は冒険者なので当然持っている。レオンハルトに言われて買っといて本当に良かった。


洋輔はカバンから緑色の液体が入った小瓶を取り出し口に含んだ。

なんだか少しみなぎってくる気がした。いろいろと。

精力剤としても使えるかもしれないな。


洋輔が今日こんな状況下でもいつもより少しテンションが高いのには理由があった。


まず一つは生きていたこと、次に見慣れぬ土地でアドレナリン全開なこと、

そして最後に一人で寂しいからである。


洋輔は精力剤を飲んで、少し冷静に考えることにした。

さてさて、これからどうするか。


敵を避けながら上の階層を目指すにしても、階層守護者に出会ってしまう。

レオンハルトが言ってた話を参考にすると、ここはおそらく50階層くらいであるはず。

となると最低でも階層守護者を4体は相手にしなくてはいけないだろう。


おそらく今の洋輔の力では10階層の守護者も一人では倒せないだろう。

そうなるとまず初めに戦うであろう40階層の守護者なんて倒せるわけがないのだ。


かと言ってここで他の冒険者の助けを待つことは不可能だ。

最前線の冒険者パーティでも28階層までしか来れていないみたいだし。。


それではどうするか。幸いこの階層は魔物が少ないようだ。

トトロもどきにもさっき追いかけられて以来会っていないし。。


となるとしばらくはこの階層で生活し、生きていかなくてはならないようだ。

洋輔は少し考えて立ち上がった。

今洋輔が身をし潜めているのは10m四方くらいの部屋だ。

ひとまず部屋の中を探索してみることにした。


その部屋は石造りの壁で覆われていて入り口は一つしかない。


何か落ちていないかと、壁伝いに部屋を回っていると、

壁の一箇所だけ少し周りとは違う色をした石があった。

洋輔がその石を引っこ抜くとそこには小さな空洞があり、中に丸まった布のようなものが入っていた。

洋輔はそれを取り出し丸まった布を広げた。



「これは!」



思わず声が出てしまった。


それもそのはず、その布には地図のようなものが書いてあったのだ。

しかもその地図の右下には第49階層と書いてあった。

まさかこの階層のマップをいきなり手に入れられるとは、なんて運が良いのだろうか。

洋輔はそう思わずにはいられなかった。


しかし同時に自分が49階層にいるということに少しショックも受けた。

もしかしたらここが28階層くらいかもと少なからず考えていたからだ。

それにしてもこの地図、何か普通の地図とは違うようだ。


地図にはこの階層の詳細なマップが記されているのだが、

ところどころに赤い丸印があり、そしてそれは地図上を動いているのだ。

そして青い丸印もあった。しかしそれは動いていなかった。

洋輔はもしやと思い、部屋中を動き回ってみた。

すると地図上の青い丸印は洋輔の動きに応じて地図上を動いていた。


どうやらこの青い丸印は地図上における地図の位置のようだ。

それすなわち自分の位置。そうなると赤い方は魔物だろう。

となると49階層はこんなにも広いのに魔物が3体しかいないということになる。

少し希望が持てた。この地図さえ持っていれば魔物と遭遇することはないだろう。

地図上には他にも黄色い丸印があった。

洋輔はひとまずこの記号がなんなのかを確かめるためにダンジョン内を探索することにした。


途中トトロもどきが近くにいたので試しに確認してみたのだが、赤い印は本当に魔物の位置だった。

洋輔は地図を頼りに魔物を避けながら目的地を目指して進んだ。

途中で次の階層に進む階段を見つけた。

この先にはきっと50階層の階層守護者がいるのだろう。

恐ろしくて、今の洋輔にこの階段を降りる勇気はなかった。


洋輔は歩きながら地図を見て、ふとあることに気づいた。

さっき見た次階層に進む階段は地図にも階段の記号で記されていた。


しかし少しおかしい。この地図上には階段マークが一つしかない。

すなわち上の階層に戻る階段が地図には記されていないのだ。

製作者のミスか?まあいい、今はとにかく目的の場所へ急ごう。

洋輔は余計なことを考えるのをやめ、ひたすら歩いた。そしてその部屋に辿り着いた。

部屋の大きさは先程地図を見つけた部屋と同じくらいの大きさの部屋であった。

一つ違うところがあるとすれば、床一面に何やら魔法陣のようなものが刻まれていた。

洋輔は魔法陣の中央に立ってみる。すると頭の中から声が聞こえた。



》魔法陣を起動しますか?



「起動します。」



洋輔はとりあえず敬語で即答してみた。するとまた頭の中から声がした。



》魔法陣を起動するにあたりプレイヤーのステータス確認を行います。

》ヨウスケフルイケ、人間族、Lv10・・・・・・照合しました。

》HP、MP、力、体力、精神、速さにおいて魔法陣発動適正なし。

》運100MAX値を検出しましたので魔法陣発動適正ありとみなされました。

》魔法陣を発動します。



その言葉が終わると、突如、床一面に刻まれた魔法陣が光り始めた。

洋輔は慌てる間も無く大きな光に包まれ、目を覆った。

やがて光は消え、床に刻まれていたはずの魔法陣も消えていた。

代わりに目の前の壁には今までなかったはずの扉が現れていた。


洋輔は恐る恐るその扉を開け、中を覗いた。

ダンジョン内にはごく稀に秘密の隠し扉があるというのを、本で読んだことがある。

中には貴重な宝石や武器があるが、同時に強い魔物も潜んでいるらしい。

もしここでやばい魔物と遭遇したら完全に終わりである。


洋輔はいつでも外に出られるように慎重に部屋の中に足を踏み入れた。

しかし、その考えは杞憂に終わった。中に魔物は存在しなかった。

中にあるのは机と椅子。壁には錆び付いた剣が一振り飾られていた。

そして奥にはさらにもう一つ扉があった。


一体この部屋はなんの部屋なのだろうか、かすかに昔この部屋に人がいた名残がある。

洋輔が机の上に目を移すと、そこにはこのゲームにおける世界地図が広げられていた。

そしてその上には封筒が置いてあった。


間違いなくここには誰かがいたのだろう。このゲームの隠し要素か何かか。

洋輔は封筒を手に取り表面の文字を読んだ。



『英雄の意志を継ぐ者へ』



そう書かれていた。

おそらくこれは洋輔へ宛てた手紙ではないのだろう。

ダンジョンを正規ルートで進み辿り着いた冒険者に向けてのものか。

洋輔はそんなことを考えながら封を開けた。

中には手紙と鍵が1つ入っていた。

洋輔はひとまず鍵を机に置き、入っていた手紙を読んだ。



『この部屋に辿り着きし我が意志を継ぐ者よ


 汝己の武を極めるか、或いは知を極めるか


 汝其の力を持って何を求めるか


 来たるべき日は近い、平和は決して磐石ではないのだ


 選ばれし100人の英雄よ、鉄の意志を持って世界を治めよ


 我が出来る事はもはや少ない


 この部屋を訪れし者よ


 せめて其方に道を示そう』


 

手紙は読み終えると同時にそれは消えて無くなった。

それと同時に奥の扉からガチャリという音が聞こえた。

洋輔はその音に導かれるまま奥の扉を開けた。



奥の部屋は薄暗く辺りに物が乱雑に置かれていた。

暗くてよく見えなかった。

洋輔は元居た部屋にあった火のついた蝋燭を灯りに薄暗い部屋の中に入っていった。

本棚のようなものがある。いくつか宝箱のようなものもあった。

あとは武器や防具、アイテムなども乱雑に置いてあった。

洋輔は試しに一つ宝箱を開けた。

中には金や宝石、装飾品などがいっぱいに入っていた。


すごい数だ。全部売ったらいくらになるのだろうか。

まあそんなことを考えたところでダンジョンを抜け出せなければなんの意味もないのだが。

洋輔は悲しくため息をついて、部屋の隅々を調べる。

すると突然物音がした。




何事かと思い、灯りを音のした部屋の角の方へ向ける。

するとそこには鉄格子で覆われた牢屋があった。

そして中で何やらガサガサと動いている。


何かいる。


洋輔は恐る恐る灯りを鉄格子に近づける。

すると、そこには人がいた。手と足には錠をかけられている。

洋輔は灯りをさらに近づけ、その人間の顔を確認する。



「おい、嘘だろ。」



洋輔は声を出さずにはいられなかった。

洋輔はその顔に見覚えがあった。


なんで彼がここにいるのか全く理解できなかった。

もしかしたら別人なのではないか。

洋輔は目を凝らしその男の顔を見る。

しかし、何度見ても彼は彼だった。



「晴丘なのか?」



自分で言って笑えてくる。そんなこと有り得るはずがないのに。

しかしその男はこちらに顔を近づけて



「洋輔!!」



自分の名前を確かに呼んでいた。



この世界で出会うはずのなかった二人が、

今、出会ってしまったのだ。

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