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SURVIVOR  作者: MHSホールディングス
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第1章アイゼンガルド統一編 第7話大穴

アイゼンガルドの地下ダンジョン第1階層の魔物はスライムである。

スライムは攻撃力こそ低いものの、確実に急所を攻撃しなくてはすぐに再生してしまう。

初心者冒険家たちは魔物との戦闘を覚えるために、まずこのスライムを何匹も狩るのだ。


2階層の魔物はインプはである。小鬼とも呼ばれる人型の魔物で、

手の爪と頭にあるツノを使い、襲いかかってくる。推奨レベルは5。

初心者冒険家たちの最初のデッドポイントである。運悪く大軍に遭遇するとそこで命を落とす危険性がある。

よって2階層から下はパーティを組んでの冒険が推奨されている。


3階層の魔物はダイアウルフ。主に2~3匹で行動しているため、

パーティ必須。動きも素早く、鋭い爪と牙による攻撃はまともに食らうとステータス次第では大ダメージとなる。

ダイアウルフから取れる毛皮はとても丈夫で暖かい、冬には衣類の素材として重宝されている。


洋輔とアリスは現在、そんなダイアウルフの群れを蹂躙していた。

ちなみに今の洋輔のレベルは9、アリスは12である。

洋輔のレベルが10になったら次の階層に進むことになっている。

どうやら洋輔はレベルの上がりが早いようである。

もしかしたらアリスが遅いのかもしれない。

ステータスの上昇値が高い分レベルの上がりが遅いのかもしれない。


遭遇したダイアウルフの最後の一頭に洋輔がとどめの一撃を与えると、ダイアウルフが横たわると同時に洋輔のレベルが上がった。

洋輔はステータスウィンドウを開く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

種族:人間

Lv:10

HP:200

MP:200

力:25+30

体力:28+25

精神:28+20

速さ:27+15

運:100(MAX)

SURVIVOR:60/100

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スキル:【神の手】その手で触れただけで人を生き返らせることができる。

    【火耐性(中)】火属性攻撃に対する耐性が上がる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


運が最大まで上がったみたいだ。

だからどうってことはない。

今まで洋輔はこの運の恩恵を受けたことがないのだから。

戦闘で役に立っている気も全くしない。



「レベル10になったね!そろそろ次の階層に行こっか!」



アリスはいつも楽しそうだ。

アリスを見ていると自分がデスゲームの世界にいることを忘れてしまう。

純粋にこのゲームの世界を楽しんでいる。

それがいいことなのか、それとも悪いことなのか、

少なくとも今の自分にとってはとてもありがたい気がした。

ちなみにアリスのステータスも見せてもらった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

種族:人間

Lv:12

HP:596

MP:485

力:132+45

体力:140+30

精神:121+30

速さ:152+20

運:8

SURVIVOR:60/100

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スキル:【英雄の力】レベルアップ時にステータスが飛躍的に伸びる

    【火耐性(中)】火属性攻撃に対する耐性が上がる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


武器や防具は洋輔よりも良いものを買っていたからしょうがないとして、何だこの差は。

ちょっと強すぎるのではないか。ステータス上昇値が自分の10倍以上も違う。

運以外は本当に何も勝ってないな。

洋輔が少し落胆していると、



「きっとこのスキルのおかげだよ!洋輔くんも周りの人たちと比べたら強い方だよ!」



アリスはそう言って洋輔を慰めた。非常に情けない。

でもそんなことでいちいちしょぼくれていてもしょうがないな。

洋輔は気を取り直してアリスと共に4階層へ続く階段がある部屋を目指した。



◇◇◇◇




4階層の入り口となる階段がある部屋は2階層にあった部屋とよく似ていた。

20m四方の部屋で、壁の一片が大穴へと続く崖となっている。

洋輔は階段を見つけその方向に歩こうとした。



「待って!!」



突然アリスが叫んだ。


洋輔は何事かと思い、振り返る。

すると洋輔の体をめがけて、光る何かが飛んでくるのが見えた。

とっさのことに反応できず洋輔は手で顔を防いだ。


カキーン!


アリスが間一髪のところで飛んできたものを剣で叩き落とした。

床に転がっていたのは何か毒のようなものが塗られたナイフだった。


アリスは洋輔の前で剣を構え身構えていた。

アリスの構えた剣の先には昨日遭遇した2人のプレイヤーがいた。

ハンナ・ミシェーレとハン・ヨンウン。


近いうちにまた会うとは思っていたがまさかこんなにも早いとは。

洋輔も剣を抜き構えた。



「何だこのステータスは! ハンナ! 女の方は相当強いぞ!」



ハン・ヨンウンが何やらアリスの方を見て驚いている。

プレイヤーサーチ。やはりあの男は相手のステータスを覗き見ることができるようだ。



「それならまずは男の方を倒すわよ! どっちみちあいつの能力の方が厄介!」



どうやら二人の標的は俺のようだ。


(まあ普通そうだよな、あいつらも俺の能力のことをある程度知っているようだし。)



「アリス!気をつけろ!女の方の手に触れられると死ぬぞ!!」



洋輔はアリスに呼びかける。



「わかった! でもどうせあの人たちは私に触れられない!」



アリスはそういうと地面を蹴った。

アリスは一瞬でハンナとの距離を詰めた。


想像以上の速さだった。どうやらダイアウルフを狩っていた時は俺に合わせていたようだ。

アリスがハンナ目がけて剣を振る。

ハンナは横に飛びその攻撃を回避した。

その斬撃による衝撃音と共に床にはクレーターができていた。

それを見たハンナの顔は青ざめている。

アリスは何食わぬ顔で追撃を行う。倒れていたハンナの顔に剣を振り下ろした。


しかし、アリスの剣はハンナの顔の前でピタリと止まった。


アリスは迷っていた。そして戸惑っていた。

この少女に向けて剣を振ることを。


魔物ではなく人間を殺すということを。

今まで自分達が殺してきたのは意思のない魔物だけ。

生きた人間に剣を向けるのは初めてだった。



そしてその一瞬の迷いのせいでアリスの反応がわずかに遅れた。

ハンがアリスに向けて放った毒ナイフである。


しかし、その毒ナイフもアリスに刺さることはなかった。


なぜならそのナイフを洋輔が受け止めたからである。

洋輔の能力ではアリスみたいに飛んできたナイフを剣で弾くことはできなかった。

しかし体で庇うことならできた。


洋輔は体が痺れて動けないことに気づく。

麻痺毒。たしかヤンがガブリエルに向けて放っていた吹き矢についていたものと同じ毒。

一定時間体が麻痺し動けなくなる。

アリスがこれを受けなくてよかった。



「アリス!切れ!」



洋輔がそう叫ぶとアリスは我に帰り、ハンナの心臓に剣を刺した。

洋輔はそれを見届けると毒の影響で立っていられなくなった体が地面に向かって倒れていくのを感じた。


ハンナが刺されたのを見て、ハンはハンナとアリスの元へ走りだす。

道中で邪魔な洋輔をハンは蹴り飛ばしアリスに向かって剣を構え突進した。


蹴り飛ばされた洋輔の体は大きく宙を舞い、壁に叩きつけられ、、、、、、、!?


しかしそこに壁は無かった。あるのは崖、ダンジョン内にぽっかりと空いた大穴だった。

そして洋輔は一瞬のうちに大穴の暗闇に姿を消した。


一瞬のことだった。あまりに一瞬でアリスは何も考えることができなかった。

少しすると意識を取り戻したかのようにひたすら洋輔の名前を叫んだ。


ハンもまさか洋輔を穴に落とそうとは思っていなかったのか突進の手を止めた。


アリスの貫いた剣によって、ハンナは生き絶えていた。

初めての人殺しと守るべき人の喪失。

二つの出来事が相まって、アリスの感情に大きな変化が生まれた。


(人を殺した。


 でもそんなことはもうどうでもいい。


 自分が守ると決めたこの世界において唯一本当の自分を知ってくれている人間。

 

 その人に自分は守られて、そしてその人は私を庇って死んだ。

 

 守ってもらったのは2回目だ。


 1回目は洋輔と初めて出会ったとき、酒場でプレイヤーに襲われたところを助けてくれた。


 しかもその後は、行くあてのない自分を一緒にガンドール家に連れていってくれた。


 洋輔にとっては何の得にもならないはずなのに。


 このゲームに召喚されてから不安でいっぱいだった。でもあの人が救ってくれた。

  

 多分その時から彼のことが好きだったんだ。)



アリスは立ち上がり、ハンナに突き刺していた剣を抜いた。

ハン・ヨンウンも腰に差していた剣を抜く。そしてアリスに向かって再び剣を振り抜いた。


バキン!


男は何が起こったのかわからなかった。

アリスに向けて放ったはずの剣は刀身が半分のところで折れていた。

そして気づくと目の前が真っ暗になっていた。




アリスはしばらくそこに立っていた。

そばには死体が二つ。

一つは心臓を貫かれた死体。

そしてもう一つは首のない死体。

しばらくしてもその死体は消えなかった。

だから二つとも大穴に投げ入れた。

洋輔がされたことと同じことをしてやった。

それでも心は晴れず、しばらくすると涙がこぼれた。

アリスはその場にしゃがみ、大声で泣いた。

しばらくすると、通りかかった冒険者に話しかけられた。

でもどんな会話をしたかは覚えていない。


けど大丈夫といってアリスはその場を力なく立ち去った。


ひとまずダンジョンを出ることにした。

帰り道は無気力に下を向いて歩いた。

頭の中は洋輔のことでいっぱいだった。

たった数日間の思い出しかない。それでも好きだった人がいなくなってしまった。

また会いたい。そう思うたびに涙がこぼれた。

きっと変な人に見られてるんだろうな。

途中そんなことを考える余裕も少しだけ生まれた。たくさん泣いたからだろうか。

みんなになんて話そう。洋輔がいなくなった今ガンドール家に自分の居場所はあるのだろうか。

それでも帰ろう。みんなにちゃんと伝えなくてはいけない。

私はこれからこの世界で一人で生きていかなくちゃいけないんだ。

でもそれ以上、他のことは何も考えることができなかった。



ダンジョンを出て、見慣れた街並みを通る。

ガンドール家は街の少し外れにある。

部屋に着いたらまた泣こう。でもその前にみんなにちゃんと説明しないと。



少し歩くと、ガヤガヤと人で栄えた街並みに入る。

商店街区だ。武器屋や防具屋、道具屋、酒場など、この街で一番人通りが多い通りだ。

その中でも一番明るく人の声のする建物が目につく。

酒場だ。洋輔と一番最初に出会った場所。

ガブリエルとかいうプレイヤーから自分を守ってくれた。

あの時は理由もわからず喧嘩を売られたんだっけな。



その時アリスはふと何かを思った。


そしてその事実を確認するためにも酒場に駆け込んだ。

酒場の中は人で溢れて賑わっていた。

アリスは目当てのものを探した。

実際に自分で見たことはないけど、洋輔は熱心に見ていた。


アリスは掲示板を探す。途中変な男に話しかけられたけど無視した。

そして辿り着いた。一筋の希望に。


アリスは掲示板を見て、また泣いた。

そこには洋輔の名前がまだ書いてあった。

あの二人のプレイヤーの名前は消えていたのに、洋輔の名前はまだたしかにそこにあった。

彼はまだ生きている。

ダンジョンの奥深く、彼はまだ生きているんだ。

そう考えるといてもたってもいられなくなった。


しかし、今の自分の力では、彼を見つける前に自分が死んでしまう。

アリスは決めた。強くなることを。そして洋輔を必ず救うことを。


でもその前に今日はガンドール家に戻らなくてはいけない。

やらなきゃいけないことが山積みだ。

アリスは酒場を出てガンドール家に向かった。

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