第1章アイゼンガルド統一編 第4話発現
宴会の次の日、洋輔が目を覚ましたのは昼過ぎであった。
空き部屋とはいえ、マッシュが用意してくれた部屋はとても立派なものだった。
ベッドはキングサイズだし、本棚にはびっしりと本が詰まっている。
(後で使えそうな本があったら読んでおこう。)
そんなことを考えながら洋輔は眠たい目を擦りつつ、昨日の出来事を思い出す。
昨日はだいぶ盛り上がった。
ミレーユとティナは先に寝たみたいだったが、宴は夜通し行われ、その間俺はずっとマッシュの相手をしていた。
デスゲーム初日の緊張感と久々のオールナイトで心も体も相当疲れていたようだ。
昼まで寝たのなんていつ以来だろうか。
つい昨日までのサラリーマン生活がなんだか少し懐かしく感じられた。
洋輔はふとテーブルの上に目をやると、そこには両手ほどに収まる大きさで中身がパンパンに詰まった布袋が置いてあった。
なんだろう? そう思いベッドを出ようとすると、ノックの音がした。
「洋輔さん?お目覚めになりましたか?」
どうやらティナのようだ。
俺が返事をすると、ティナが笑いながらおはようございますと言って中に入ってきた。
「皆食事はもう済ませてますので、洋輔さんの分を持ってきましたよ。」
俺はその言葉に少し焦った。もしかして自分だけお寝坊さんですか。
少し恥ずかしい。
「あっ、でもお父様はまだ寝てますけどね。」
さすがマッシュ・ガンドール。あの人とは少し気が合いそうだ。
洋輔は気になっていることをティナに尋ねた。
「そういえば、テーブルの上に置いてあるこの袋は何?」
洋輔は見た目とは裏腹にずっしり重たい布袋を手に取った。
「あっ、それはガンドール家から洋輔さんへのお礼です。
袋の中には金貨が入っています。換金すれば、しばらくは不便なく生活していけると思います。
少ないですけど受け取ってくださいね。アリスさんにも同じだけ渡していますので、そこに置いてあるのは洋輔さんの分です。」
そういうことか、文無しの俺にはとてもありがたい。
ありがたく受け取っておこう。というか、アリスの分まで用意してるとは、さすが貴族。
「ありがとう。大切に使うよ。ところでアリスはどこにいるんだ?」
「アリスさんなら、朝早く起きて護衛3人の稽古の様子を眺めてましたよ。多分今もあの3人と一緒にいると思います。」
(なるほど、彼女もこの家に馴染んでいけそうだな。そうなると俺がわざわざ手間をかける必要もないか。)
とりあえず、しばらくの寝床も確保できたし、金もある。
ならば俺がわざわざ彼女にくっついている必要もないだろう。
それぞれ自由に行動して、夜にでも情報を交換し合おう。
そうなれば、まずはこの本棚にある本でも片っ端から読んでいくか。
洋輔はティナが持ってきてくれたサンドイッチを食べながら本棚に向かう。
「あのー。1つ聞いてもいいですか?」
洋輔がサンドイッチを食べながら、本をペラペラとめくっているとティナが話しかけてきた。
「なに?」
「洋輔さんとアリスさんは本当にその……なんでもないんですか?」
「なんでもないっていうのは、その、、、恋愛的な何かかな?」
俺は鈍感系主人公ではないので、ティナが何を気にしているのかはすぐにわかった。
ティナはもじもじしながらも頷いている。
正直とても可愛いと思った。だがこれはゲームだ。
俺は2次元には興味ない。正確にいうとこれも3次元なのだが、それはどうでもいい。
だが可愛い。
「何にもないよ。たまたま昨日会って、それでたまたま同じ境遇だっただけだよ。」
「そうなんですね!」
洋輔の返答にティナの顔がパッと明るくなり、また夕食の時間になったら呼びますね。と言い残し、上機嫌で出ていった。
なんて罪な男なのだろうか、洋輔は現実世界で味わうことのなかった状況に少し感動しながら、
夕食の時間まで、本棚の本を読み漁っていた。
◇◇◇◇
夕食の時には皆揃っていた。
マッシュは結局夕方まで寝ていたらしい。
仕事しなくていいのかと思ったが、俺が気にすることではない。
アリスは隣で何かを言いたそうな目をしながら、こちらを見てくる。
一応紳士として何があったのか聞いておこう。モテる男は辛いぜ。
「アリス、今日は何してたんだ?」
洋輔がそう聞くと、アリスは待ってましたとばかりに今日あったことを話し始める。
「今日はジョー君とクリス君とヤン君とで剣の特訓をしたんですよ!
あっ、あと、私、レベルが2になったんです!すごくないですか?
レオンハルトさんからも筋が良いって褒められたんですよ!
それに私、、、あっ、これは後で言います!!」
えっ、ちょっと待って、全然ついていけないんですけど。
レベル上がったとかってみんなの前で言っても良いことなの?
てかレオンハルトって誰?なんかアリスたん俺よりこの家に馴染んでないですか?
少しさみしいんですけど。
でも俺は慌てない。モテる男はこんなところで慌ててはいけないのだ。
「そうなのか。そしたら食事の後また話そうか。」
「はい!そうしましょう!」
洋輔は平常心を保ちつつ、アリスに笑顔で答える。
ふとティナに目をやると、ティナが自分の方をじっと見つめている。
洋輔は見つめるティナを負けじと見つめ返したが、結局自分が耐えきれず目を逸らした。
なんだかそわそわする。もうやめようこんなの、これからは普通にしよう。
洋輔は早々にモテ男の道を諦めた。
「ほー。レオンハルトが他人の剣を褒めるとは、アリスさんには本当に剣の素質があるんですね!!」
洋輔がしょうもないことを考えていると、マッシュはアリスに向けてそう言った。
てかレオンハルトって誰だよ。
「レオンハルトさんというのはどなたなんですか?」
洋輔は気になったので質問した。
仲間外れにはなりたくないでござる。
「そうでした! 洋輔さんは会ったことがないんでしたね!
レオンハルトは元々このアイゼンガルドで騎士団長を務めていたお方ですよ。
今はやめて、新たな騎士の育成や、貴族の家で剣術の稽古をつけているんですよ。
剣の実力は今の騎士団長よりも上ではないのかな。」
「そうなんですか。是非お会いしたいものです。」
洋輔が適当にそう答えると、
「そうだ!! 明日も朝の稽古をつけに来ますし、洋輔さんもお手合わせしてみてはいかがですか?
ワイバーンを一人で撃退した洋輔さんのことです、もしかしたら良い勝負が期待できるかもしれません。」
「そんな、恐れ多いですよ。」
ちょっと待ってください。
なんか話が変な方向に向かってませんか?騎士団長ってきっととっても強いんですよね?
俺なんかが勝てるわけないじゃないですか。
魔物を撃退したって、あれ嘘だし、剣とか振ったこともないし。
これは明日もお寝坊さん決定だな。
なんだかマッシュがウキウキしている。
ティナの方を見ると、今度は俺が目をそらされた。
メルビンの方を見ると、あれ、さっきそこにいたよね。
逃げやがったな。
アリスの方を見ると、なぜか期待を込めた目で俺をみている。
そういえばこの子には何も話してなかったな、きっと俺がレベル1であることすら知らないんだろう。
◇◇◇◇
なんだかんだで夕食も終わり、俺は部屋に戻った。
ひとまず明日のことを考えるのはやめて、今日本で得た情報をまとめておく。
と言っても、本は魔物や魔法、アイテムなどの図鑑ばかりで、これと言って話すことはないが。
すると少しして、アリスが部屋に入ってきた。
アリスは風呂上がりなのか、少し顔が赤くなっていた。
正直とても可愛い。そしてこの子は人間である。
俺が良からぬことを考えていると、アリスは夕食の時の話の続きを語りだした。
「私、夕食の時は言えなかったんですけど、スキルを手に入れたんです!!見てください!これです!」
そう言ってステータスウィンドウを見せてきた。
(へー、ステータスウィンドウって他人のも見れるんだ。)
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種族:人間
Lv:2
HP:212
MP:190
力:25
体力:23
精神:24
速さ:28
運:7
SURVIVOR:79/100
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スキル:【英雄の力】レベルアップ時にステータスが飛躍的に伸びる
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洋輔はアリスのステータスウインドウを見て目を疑った。
どれも自分より、圧倒的にステータスが上である。
買ってるのは運くらいだ。どうやらこの新しく手に入れた【英雄の力】というスキルの影響みたいだな。
というより、アリスたんこの前は疑ってごめんなさい。
本当にスキルを持ってなかったんだね。
そしてもう一つ、SURVIVOR。それはもうすでに21人のプレイヤーが死んだことを示している。
ゲームが始まって、2日。俺らの知らないどこかで常に殺し合いは行われているんだな。
そう思うと、今のこの状況はとても恵まれている。
情報を得ようと思えば得られるし、ご飯にも困らない。
何よりプレイヤーには決して見つからないであろう場所に匿ってもらっている。
このままプレイヤーが少なくなるまでここにいればいいのだ。
アリスのことはとりあえず考えないとして、このままここにいれば安全なのではないか。
洋輔はふとそう考えてしまう。
でもそれでは最終的な解決にはならない。
戦闘経験もなく、ずっと逃げて生きていたプレイヤーが百戦錬磨のプレイヤーに勝てるわけがない。
俺も強くならなくてはならないのだ。
「俺も明日からレベル上げでもするかな。」
「それがいいです!たくさん鍛えてダンジョンにも挑戦しましょう!」
ダンジョンか……どうやらまずは情報の共有が先みたいだ。
お互いに今日得た情報を話し合うことにした。
まずステータスについて、NPCにもステータスがあるようで、そこは自分たちプレイヤーと変わらない。
違うことといえばスキルの有無。ごく稀にNPCにもスキルが付与されることがあるらしい。
あとプレイヤーの方がステータスの初期値とレベルアップ時の伸びが高く設定されているらしい。
ジョー達のステータスを見せてもらったみたいだが、レベル10で俺の初期値より少し高いくらいだった。
ちなみに俺のステータスウィンドウはこれ
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種族:人間
Lv:1
HP:100
MP:100
力:10
体力:10
精神:10
速さ:10
運:10
SURVIVOR:79/100
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スキル:【神の手】その手で触れただけで人を生き返らせることができる。
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アリスと比べると半分以下のステータスである。
明日レベルを1上げてみてどれくらい上昇するのか検討しよう。
一般的なNPCはだいたい1か2くらいずつしか上がらないらしい。
そう考えると、アリスのスキルの力がどれだけのものなのかが分かる。
アリスのスキルだがレベルが上がったと同時に発現したらしい。
もしかしたら、レベルアップ時にスキルが付与されることが今後あるかもしれない。
そこは、レベルを上げてみないとわからない。
ダンジョンについてだが、このゲームにもダンジョンが存在するらしい。
存在理由は不明で未だに謎が解き明かされていない。
世界にいくつダンジョンがあるのか正確には解明されていないが、
アイゼンガルドの街にも1つ存在しているようだ。
全部で何階層あるのかはまだわかっていないが、今のところ28階層までは踏破されているらしい。
ダンジョンには魔物が潜んでおり、階が進むにつれ、魔物の力も強くなる。
ダンジョン内には宝箱も設置されており、店では買えないような貴重で強力な武器なども手に入る。
そのためダンジョンには常に果敢な冒険者達が挑戦しており、日々その謎が解明されつつある。
どうやらレオンハルトも冒険者の一人であり、ダンジョンについてはレオンハルトから話を聞いたみたいだ。
レベルを上げるなら魔物と戦う方が良いということでレオンハルトに紹介されたようだ。
アリスは完全にダンジョンに興味を持ってしまっている。
自分がデスゲームに巻き込まれていることなど忘れてこのゲームを楽しんでいる。
でももしかしたらその方が良いのかもしれない。
実際のところダンジョンに行くのが強くなるための最短ルートのようだし、
ゲームの世界を楽しむことで、デスゲームの恐怖も少しは和らぐ。
でも万が一、プレイヤーと鉢合わせする可能性も無いとは言い切れない。
俺は頭の中で葛藤しながらも、保留という考えに至った。
アリスはそれで満足みたいだ。
でも行くなら俺も一緒じゃないと行かないと言っている。
可愛い。
そんなこんなでアリスの情報はとりあえず共有した。
有益な情報ばかりだったな。本を読んでいるより、外に出ていた方が情報は集まったかもしれない。
少し後悔しながら、次は俺の持っている情報を話した。
まずはじめに俺の能力について話した。
本当は話す気など無かったのだが、アリスがステータスウィンドウまで見せてくれたので、
俺も話さざるおえない。
俺の特殊能力について話すと、アリスはすごーいって言ってくれた。可愛い。
あとはこの世界における、魔法の種類や、魔物の種類。人種による身体能力の違いなど
本棚にあったのが図鑑ばかりだったため、口で説明できることはほとんどなかった。
やはりニートしてないで、外に出ていた方がよかったかもしれない。
何はともあれ、お互いに話し合うことで、当面の目標は立った。
まずはレベル上げである。そのために明日少し危険ではあるが街に出て武器や防具を買うことにした。
幸いお金はたんまりある。自分の身を守るものだ、ケチケチせずに使おう。
そしてレベル上げと武器がある程度整ったら、ダンジョンに向かうことにする。
ダンジョンでさらなるレベル上げと、装備の獲得をする。
だいたいこんな感じで決まった。
というわけで、俺も明日からレオンハルトによる稽古を受けることにした。
ちょっと緊張する。
でも背に腹は変えられない。
生き延びるためには、耐えねばならないのだ。