第1章アイゼンガルド統一編 第3話ガンドール家
アリス・オールストレーム。スウェーデン代表、女、年齢24歳。
彼女が現実世界で植物状態になってしまったのは、交通事故が原因であった。
休日に家族3人で車で出かけていた際に、対向車線から来た大型トラックが操縦を誤り、正面衝突してしまったらしい。
らしいと言うのも、彼女には事故前後の記憶があまりない。多分そのあとずっと眠っていたのだろう。
彼女が目を覚ましたのは、このデスゲームが始まる少し前。
突然誰かに起こされるように目を覚ますと、
そこが前まで生きていた世界とは全く違う場所であることがすぐにわかった。
その場所は真っ白が永遠に続く空間だった。
そして一人の人間らしき形をしたシルエットがずっとこちらのことを見つめていた。
最初は死後の世界だと思った。
でもそこにいた人間らしきものが教えてくれた。
彼女がこれからゲームに参加すること、彼女が寝たきりになってからもう2年の時が経過していること。
彼女の両親は共にその時の事故で命をなくしてしまったこと。
その人間らしきものは彼女に向けて次々と情報を与えた。
彼女もその人間らしきものに聞きたいことがたくさんあった。
しかし、声はおろか、口を動かすこともできなかった。
彼女はただその人間らしきものの言葉を聞いていることしかできなかった。
しばらくするとまた目の前が真っ暗になり、次に目が覚めたのはこのゲームの中であった。
洋輔とアリスは、ガンドール家に向かう道中で、
現実世界の頃の自分たちについてお互いに話し合った。
洋輔はいけないとは思いつつも、少なからず彼女に情を抱いてしまった。
二人もいずれは殺し合わなくてはいけないのに、持ってはいけない感情を持ってしまった。
「私は、このゲームに勝って現実世界で目を覚ますことができたら、お父さんとお母さんのお墓詣りに行きたいんです。
もしかしたら私がいないことをずっと心配しているかもしれないから。」
洋輔は複雑な気持ちになった。
このゲームのプレイヤーにはみんなそれぞれにこのゲームに勝たなくてはいけない理由がある。
半信半疑ではあるが、無の状態から得た一つの希望に、みんな一縷の望みを託しているのだ。
俺の家族はどうなんだろう。父親や母親は俺の今のこの状態を知っているのだろうか。
弟は元気にしているのだろうか。晴丘がちゃんとみんなに伝えてくれているのだろうか。
そんなことを考えたが、すぐにやめた。
洋輔にも現実世界に戻らなくてはならない立派な理由がある。
でも今はこのゲームをクリアすることに頭を使おう。
いずれこの女の子とも戦わなければならない状況がくる。
でもそれは今じゃない。
今は少しでも二人で協力しあって他プレイヤーの数を減らすことに集中しよう。
それが俺のこのゲームにおける当面の目標だ。
洋輔が神妙な面持ちで歩いていることに気づいたアリスは、心配そうな顔でこちらを見ている。
それに気づいた洋輔は、慌ててこの場の空気を払拭しようと試みる。
「そういえば、アリスの特殊能力ってどんな能力なの?」
「、、、、言わなきゃダメですか?」
その言葉に洋輔は、ハッとなった。迂闊に聞いてはいけないことを聞いてしまった。
このゲームにおける特殊能力、それはまさしくプレイヤーの心臓部分だからである。
その心臓部を相手プレイヤーに晒すことは、自分自身の死に直結することである。
「ごめん。つい気になって聞いちゃった。答えたくなければ答えなくていいよ。」
「いえ、別に気にしないでください。。。でも洋輔さんになら話してもいいかなって思います。」
(えっ、いいの?なんだこの子チョロすぎるだろ。あまりにチョロすぎておじさんこの子のこと心配。)
「と言っても、話すような能力は持ってないんですけどね。」
「どういうこと?」
「言葉の通りですよ。私のスキル欄には最初から何も書いてないんです。能力が何もないんです。」
洋輔はその言葉に耳を疑う。
そして笑いながらそのことを平気で話すアリスのことを本気で心配する。
このゲームにおいてプレイヤーの持つ唯一のメリットをアリスは持っていない。
それはこのデスゲームにおいて絶対的不利である。
もしかしたら、アリスが嘘をついている可能性もある。
ステータスウィンドウは本人にしか見えないし、本当のことを言うメリットもない。
でもアリスが嘘をついているようにも見えないし。
「そうか。」
洋輔はその言葉を軽く受け流すことにした。
もしこのまま一緒に行動をともにすることになれば、嫌でもその能力を見ることになるだろう。
ゲームマスターは確かに言っていた。このゲームのプレイヤーにはそれぞれ一つずつ特殊能力を与えていると。
「洋輔さーん!こっちです!」
洋輔が呼ばれた方を見ると、そこにはジョーとクリスとヤンが門の前に立っていた。
どうやら話をしている間にガンドール家に着いたようだ。
(にしても、すごい屋敷だな。貴族ってこんなところに住んでるのか。)
とても大きな門だった、そしてその奥には大きな庭があった。
これを庭と呼んでいいのかわからない。どちらかというと大きな公園だ。
その庭は夜だからか、綺麗にライトアップされていて、噴水も見える。
「遅くなってごめんな。ずっと外で待ってたのか?」
洋輔がそうたずねると、それが我々の仕事ですからと言われ、少し申し訳なくなった。
洋輔が到着したことをジョーが内線電話のようなもので伝えているようだ。少し待つと、中から馬車に乗ったメルビンが登場した。
敷地内で馬車かよと洋輔は思ったが、そんなことにいちいち突っ込んでいたらキリがないんだろうなと思い、やめた。
アリスのことも説明すると、メルビンは快くそれを受け入れ、馬車へと案内した。
馬車の中でアリスについて聞かれたが、適当にはぐらかした。
メルビンは、洋輔さんも隅に置けませんねとか言ってたけど適当に頷いといた。勘違いしてくれるならその方が都合がいい。
屋敷の前に着くと大きな家の扉の前にティナがいた。
「洋輔さん、お待ちしていました。中で父上と母上が洋輔さんのことを心待ちにしております。
あの、、洋輔さん、、、、そのお方は?」
ティナはアリスのことが気になったのか、洋輔に質問する。
「紹介するよ。アリスだ。わけあって一緒に来ることになった。」
ティナがメルビンの方を一瞥すると、メルビンがティナに近づき何やら小声でコソコソと話している。
話が終わるとティナの顔が少し青ざめていた。
そしてティナはアリスのことを少し見つめた後、ハッと、思い出したように家の中に案内した。
中に入ると洋輔たちは、食堂に通された。
その間に何人のメイドを見ただろうか、10人はいた。
さすが貴族ともなると、メイドとかも雇っているんだな。洋輔はボケーっとそんなことを考えていた。
途中ティナが案内をしながらちらちらと俺の方を見てきたがあれはなんだったのだろうか。
食堂に着くと、大きな縦長のテーブルがあった。
そしてそこには、二人の男女が席についていた。
男の方が洋輔の顔を見るなり席を立って近づいてきた。
「あなたが、洋輔さんですか?」
男は洋輔の手を掴んで、目を輝かせていた。
「はい。そうです。古池洋輔です。洋輔と呼んでください。」
「そうですか!!すいません自己紹介が遅れました。私はマッシュ・ガンドールこの家の主です。
そこに座っているのは妻のミレーユです。この度は私の大事な娘を助けていただき本当にありがとうございました!
つきましては後でいくらかのお礼を差し上げたいと思っております。でもまずはその前にガンドール家自慢の料理にて洋輔さんをおもてなししたいと思っております。
食事でもしながら洋輔さんの旅のお話も伺いたい。ま、そう言うわけで席の方に案内します。」
なんだか忙しない人だったが、同時にとても気さくな人だった。
貴族というともっと固い人間なのかと勝手に思っていた。
まあでも話しやすいならそれに越したことはない。
というより、俺は旅人という設定か。
メルビン達には記憶を失ったということで話を通していた。
なんだこの旨そうなステーキは、ゲームの中とはいえ口の中のよだれが止まらない。
メイドが運んで来た料理を見て、洋輔の口の中はすぐに唾液でいっぱいになった。
そういえば、ゲームの中では味覚とかはどうなっているんだろうか。
空腹で餓死とかするのだろうか。
そんなことを考えながら切り分けたステーキを一切れ口に運んだ。
めちゃくちゃ美味い。
ちゃんと味覚もある。しかもリアルだ。
まるで現実世界で食事している時とほとんど変わらない感覚であった。
豪華な食事を堪能しながら、マッシュの俺に対する質問責めが止まらない。
マッシュも洋輔が記憶喪失であるということについてはメルビンから聞いているようだったので、過去の話はあまり触れなかった。
どちらかというと、料理の味についてや、ティナについてどう思うか、そしてこれからどうしていくのか、
あとはアリスについても少し聞かれた。
アリスについては正直に話した。酒場での出来事がきっかけで仲間になったこと、彼女も記憶をなくしてしまっていること。
マッシュはその話になぜか目を輝かせていた。
「洋輔さんは本当に人が良いのですね!見ず知らずの人を一日に2度も助けるなんて!!」
「たまたまですよ。偶然その場に居合わせただけですから。」
「それでもです!! いやあ本当に良いお人だな~。。
洋輔さんは結婚などはまだお考えになったりはしていないのですかな~」
「さすがに結婚はまだ考えてないですよ。今は記憶を取り戻すことだけ集中したいと思ってますんで。」
「そうでしたね!記憶を取り戻さなくてはなりませんからね~。
ん?記憶がないというと自分の家もどこにあるかわからないということですよね?」
「そうですね。その件に関してマッシュさんに相談したいこともあるんです。」
「なんでしょうか?」
「単刀直入に言いますと、記憶が戻るまで、僕とアリスをこの家に住まわせて欲しいんです。
もちろんちゃんとした部屋でなくとも構いません!
空き部屋か何かがあれば、一部屋だけ貸していただければそれで構いません!」
俺のその言葉に黙って座っていたミレーユの目がキラーンと光ったように見えた。
ティナに関しては、2人で1部屋、、、、2人で1部屋、、、。
と青ざめた顔でボソボソつぶやいていた。
「洋輔さん!!!そういうことでしたら私にお任せを!!なっミレーユ?」
「はい。もちろんでございます。あなた方は私たちの恩人でございます。
2人で1部屋と言わずにちゃんと2部屋ご用意いたしますよ。確か空き部屋がいくつかありましたから。」
ミレーユは隣に座っていたティナの頭を撫でながら、満面の笑みでそう言いメルビンに部屋の準備をしておくように指示した。
「本当にありがとうございます。」
俺とアリスは二人で礼を言い、その日の宴を安心して楽しむことにした。
酔っ払ったマッシュは終始ティナの結婚相手にどうかと聞いてきたり、俺が記憶を失くしたことについて涙を浮かべて悲しんでくれたりと、とても愉快だった。
アリスはというと、ティナと仲良く? 何かを話していた。
途中からジョーとクリスとヤン、メルビンも参加し、派手な宴に移っていった。
ひとまず、これからの寝床を確保することができたという安心感に、
洋輔とアリスはこれがゲームの中の世界であるということを一時忘れ、ガンドール家で盛大な夜を過ごした。