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SURVIVOR  作者: MHSホールディングス
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第1章アイゼンガルド統一編 第1話貴族の娘


少しすると洋輔は目を覚ました。

転移してからどれくらい経ったのだろうか、

洋輔は小高い丘の上でうつ伏せに倒れ込んでいた。

立ち上がり辺りを見回す。


(ここはどこだろう。それにしても何もないな。)


てっきり最初は街の中に転移するものだとばかり考えていたため、辺りに家の一つもないことに落胆した。

どうやら街の外に転移したようだ。と言っても丘の上からまっすぐ前を見ると10kmほど先に、大きな城と城下町が見える。

辺りは一面に草原が広がり、後ろを振り向くと少し先の方には濃い森が見えた。

舗装された道はないが、丘の上から見下ろすと、草原の中に土がむき出しになった一本道が現れていた。


(ひとまずあの道を辿って街を目指そう。日が暮れる前に街に着いておかないと危ない気がするし、早く情報も集めたい。)


洋輔は道が城の方につながっていることを目で追って確認する。

ん? なんだあれ?

道を少し行ったところに馬車が停まっている。

そして馬車の周りには人が3人ほど倒れているのが見えた。

洋輔は何か悪い予感を覚え、すぐさま馬車に向かって走り始めた。


◇◇◇◇


ティナ・ガンドール、彼女は人間国アイゼンガルドにおいて、知らぬものはいないほどの名家であるガンドール家の一人娘である。

ガンドール家がアイゼンガルドにもたらした利益は他の名家をはるかに凌ぐものだ。

先祖代々エルフ族との親交があるガンドール一族は、人間とエルフ族とのの架け橋として大きく機能している。

おそらくガンドール家が存在しなければ、エルフ族と人間は今のように良好な関係を築けていないだろう。


「メルビン、後どれくらいでアイゼンガルドにつきますか?」


ティナは馬車に揺られながら、隣に座る老人に聞く。


「ティナお嬢様、後1時間ほどで着くかと思います。」


メルビンと呼ばれた老人は、にこやかにそう答えた。

今日は今年18歳になるティナがエルフ族の国の王に挨拶に行った帰りであった。


「早く帰って、お父様とお母様に会いたいわ。」


「お嬢様は18歳になってもまだまだ甘えん坊ですね。」


「やだメルビンったら!私はもう大人です。」


「そうでございますか。これは失礼いたしました。」


2人は談笑しながら、アイゼンガルドが今日も平和であることを心底感じていた。

ティナは窓の外を眺めながら、エルフの国の思い出に浸っていた。


すると突然馬車が大きく揺れ、2人は体勢を崩した。


「敵襲!!!!!」


馬車の外にいた護衛が叫ぶ。

メルビンはすぐさま倒れていたティナを起き上がらせ、身を潜めるように指示をだした。

窓から外の様子を確認する。


「あれは、、、、まさか、ワイバーン!!」


ワイバーンと呼ばれる魔物は、ドラゴンに似た形をしているが、ドラゴンよりは一回りほど小さい。

火球を吹くこともあり、空からの攻撃を得意とする。

両手には固く鋭い爪を持っていて、その爪は加工して剣にすれば一級品の獲物に仕上がる。


ワイバーンは己の速さと、固く鋭い爪を武器にして、護衛たちを次々と亡き者にしていく。


最悪だ…。メルビンはそう思わずにはいられなかった。そう思うのも無理はない。

本来アイゼンガルドからエルフの国までの道中は、魔物が少なく、魔物と遭遇する確率は非常に低い。

もし遭遇したとしてもゴブリン2、3匹であろうと考えていた。

そのため護衛の数はいつもより少なく、ワイバーンと相性の良い魔法使いも今日は同行させていなかった。

そもそもワイバーンがこんな場所に出現すること自体がおかしいのだ。


メルビンは顔面蒼白で震えているティナを抱きしめ、自分が盾になるように覆いかぶさった。

次の瞬間、馬車は大きく揺れ、わずかな浮遊感の後、大きな衝撃に変わった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おい! 起きろ! 大丈夫か?」


しばらくして、誰かに起こされるように目を覚ます。

その青年は心配そうな顔で自分を見つめている。


(助かったのか、、、、、、!? ティナお嬢様は!!)


メルビンは目を覚まし、起こしてくれた青年など気にもせずあたりを見渡す。

そしてすぐにティナを見つけた。


「お嬢様!お嬢様!」


ティナのもとに駆け寄り必死に、ティナの名前を叫ぶ。


「その子、、もう死んでるよ。」


その青年は、悲しい目でぼそりとそう言った。

メルビンにもそんなことはわかっていた。

あの大きな衝撃の影響で、馬車は壊れ、その残骸の一つがティナの体を貫いていたからだ。


「ああ、どうして。。」


メルビンは泣きそうな声で、小さく呟く。

どうして自分ではなく、ティナが死んでしまったのか。

これではガンドール家に合わす顔もない。

そして何より小さなころからお世話をしていた可愛いお嬢様が死んでしまった。

代われるものなら自分が代わりたかったのだ。


「外にいたものは?」


メルビンは青年に尋ねる。


「みんな死んでますよ。生きてるのはあなただけです。」


自分1人だけ生き残ってしまった。若き3人の護衛、ジョー、クリス、ヤン。

彼らは幼い頃、奴隷市場で売られていたところを、ティナによって買われた。

その後護衛としての訓練を積み、今日が彼らにとって初の護衛仕事であった。

ティナと同じくらい手間がかかり、ティナと同じくらい世話をした。ティナの次に愛おしい存在。

この一瞬であまりに多くのものを失ってしまったメルビンは、おもむろに胸にしまってある短剣を取り出し、自分の喉元に突きつけた。


が、それはすぐに青年に阻まれ、短剣は床に転がった。


「おい!何してるんだ!あんたまで死ぬ気か!?」


洋輔はメルビンの行動に気づき咄嗟にナイフを振り払った。


「私はガンドール家の執事、ティナお嬢様の執事でございます!主人を守る事ができなかった今、ガンドール家に1人で帰ってもお見せする顔がありません!ならばいっそ私もここで自害し、せめてあの世でティナ様を守ります!」


メルビンは涙を流しながら洋輔に訴えた。


「気持ちはわかるよ。でもあんたにまで死なれたら俺はどうすればいいんだ…。


 それに、まだなんとかなるかもしれない。」



「なんとかなる? 」


メルビンはその青年が何を言っているのかがわからなかった。

なんとかなるわけがない。どう見てもティナは死んでしまっている。

この状況をこの青年は理解しているのだろうか。

しかし、この青年の口調と雰囲気はとても落ち着いていて、不思議な感じがした。

その不思議な雰囲気を纏わせる青年につられて、メルビンも徐々に落ち着きを取り戻していった。


「なんとかなるとはどういうことでございますか?」


青年はその質問に目だけで答えると、ティナの体に突き刺さっている馬車の残骸を引っこ抜いた。

その瞬間、止まっていたティナの血液が大量に流れ出てきた。

そしてそのすぐ後青年はティナの体に手を置き目を瞑った。

ティナのおびただしい量の血液をその青年は浴びていた。


異様な光景だったが

メルビンはそれをただ見ていることしかできなかった。

この青年は一体何をする気なのであろうか。

しかしその後、メルビンは信じられないような光景を目撃した。

ティナの体にぽっかりと空いていた傷が徐々に再生していき、やがて傷は完全に修復されたのだ。

青年はティナの脈を確認すると、ティナをメルビンに預け、壊れた馬車の外に出ていった。


メルビンは預けられたティナの脈や呼吸を確認する。

ティナは生きていた。

いや、生き返ったのだ。あの青年の手によって。

メルビンは今起きた奇跡について考えた、が頭は追いつかず、そのうちにティナが目を覚ました。


「・・・メルビン。?」


「お嬢様!ご無事でしたか!よかったです!本当によかったです!」


メルビンはその場で泣き崩れたが、ティナはぽかんとした顔でメルビンを見つめるだけだった。


少ししてメルビンはあの青年にまだ礼をしていないことに気づき、ティナを連れて馬車の外に出ることにした。


(もうどこかに行ってしまったかな。)


まだ意識が戻ったばかりのティナを抱えて外に出ると、メルビンは更に信じられない光景を目撃した。

死んだはずの護衛たち全員が生き返っていたのだ。皆一様に地べたに座り込んで、信じられないといった顔をしている。

そしてその護衛たちのそばに青年が立っていた。

彼はアイゼンガルドの方をずっと見ながら、何やら考え事をしている。

メルビンが青年に話しかけようとすると、青年は振り返りメルビンの言おうとした言葉を遮り、


「あの街まで案内してほしいんですけど、お願いしてもいいですか?」


「・・・・・はい!・・・ぜひそうさせていただきたい!!」


青年は今起きた奇跡について何事もなかったかのように、そう言ってきた。

そしてメルビンもその頼みを、快く了承した。

咄嗟にそう答えたのはまだメルビン自身、今起きた出来事に頭が追いついていなかったからだ。


「そうでした!!もしよろしければあなたのお名前を教えていただきたいのですが!!」


「古池洋輔です。洋輔と呼んでください。」


この辺では聞き慣れない名前だった。

しかしそんなこと、今のメルビンにはどうでもよかった。


「洋輔様、この度は本当にありがとうございました!感謝してもしたりないほどでございます!もし差し支えなければこのまま我らとアイゼンガルドへご同行願いたい!


 馬車が壊れてしまったので徒歩での移動となってしまいますが、是非ガンドール家にもご招待させていただきたいと考えております。よろしいでしょうか?」


正直なところ、洋輔がなんと言おうとメルビンの意思はもう決まっていた。

どういう原理かはわからなくてもティナの命を救ってくれたことに変わりはない。


「そしたら宜しくお願いします。僕はこの世界のことをあまりよく知らないので、よければ歩きながらでも色々とお話を聞かせていただけると助かります。」


洋輔の口ぶりはまるで異世界から来た人の言葉のようだった。

メルビンは不思議な感覚を拭えないまま命の恩人を案内する。


こうして、洋輔とメルビン、ティナ、護衛の3人はアイゼンガルドに向けて歩き出した。

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