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木々は陽を浴びて  作者: 村上博厚
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木々は陽を浴びて

7 木々は陽を浴びて

 「何か食べて帰ろうか。」

 「私、疲れたわ。」

 青木達と別れて朋子と二人で街を歩いていた。

 「私、帰るわ。」

 「帰るって…。」

 朋子には、どこか入り込めないところがあった。一緒に暮らしてもこうなのだろうか。

 「話があるんだ。僕のアパートまで来てくれないか。」

 朋子は振り返ると、悲しく微笑んだ。

 「私、やっぱり帰るわ。さようなら。」

 朋子はそう言うと歩き出した。私は自分でも不思議なくらい、躊躇なく朋子の手を掴むと、強引に引っ張った。

 「来るんだ。」

 私の部屋に帰ると、朋子の兄が椅子に座り、我々を待っていた。我々に気が付くと、朋子の兄は煙草を消し立ち上がった。

 「朋子、戻って来るんだ。一緒に東京へ行くんだ。」

 優しい兄になっていた。

 「お兄ちゃん一人で行って。私を自由にして、お願い。堀さん、私と一緒に北海道で暮らそうと言ってくれてるの。私、堀さんについて行きたいの。」

 「朋子、忘れたのか。おまえは人並の生活で幸せになれるとまだ思ってるのか。今までの生活を考えてみろ。諦めるんだ。お兄ちゃんと東京へ行くんだ。」

 「……。」

 「堀さん、朋子の事は忘れてくれ。お互いの為だ。我々は普通の兄妹と違うんだ。生きるためなら何でもした。妹のポン引きもした。第一、妹の最初の男は、実の兄のこの俺なんだ。それも仕事で。シロクロショウってやつだ。」

 「もうやめて。」

 朋子はそれだけ言うと、部屋を飛び出した。

 私は後を追おうとした。その時、朋子の兄に殴られ気を失ってしまった。

 気が付いた時はすでに手遅れだった。朋子の行方はそれ以来杳として掴めなかった。私は仕事を辞め朋子を探し歩いた。しかし、朋子の事は何も知っていないという事実を思い知らされただけだった。彼等兄妹は、法的にはこの街には存在していなかった。

 私は最後のチャンスに賭けることにした。身辺整理をし、現金に換えれるものは全て換え、退職金と多少の貯金とを合わせて全て新聞社に持ち込んだ。新聞の一面を全部買取り、朋子へのメッセージを書いた。

 『朋子、八月二十日午前十時三十分、東京行、五八三便だ。空港ロビーで待ってる。』

 出発当日、空港ロビー。青木と陽子そして佐竹が来てくれていた。十分前、最終搭乗案内があった。朋子はついに姿を現さなかった。私は諦め、航空券を二つに分けると一つをカウンターに差し出した。

 「不器男、気を落とすな。彼女おまえの行く先は知ってるんだろう。きっと会えるさ。俺の方でも探してやる。それとこれを取っとけ。」

 飛行機の中にもやはり朋子はいなかった。目の前が暗くなった。気力が全く失せていた。羽田では接続の千歳行には乗らず、東京で一週間程飲み続けた。青木が空港で渡してくれた封筒には百万入っていた。その後、汽車で北帰行を始めた。仙台、盛岡、青森そして函館。行く先々で酒に酔い潰れた。札幌では、三週間友人のアパートに転がり込んでいた。有沢の勝利の声が聞こえるようだった。

 時間とは残酷なものだ。二ケ月も経つと、朋子への思いも薄らいで来た。飲む金ももうなかった。石勝線に乗り、占冠へ向かった。一時間半程で到着した。

 黄葉が始まっていた。澄んだ秋空に黄金色に色づいた木々が夕陽を浴びて輝いていた。バスを降りしばらく歩くと、木立に囲まれた丸太小屋が見えてきた。

 「山崎さん、遅くなりました。」

 「堀、おまえ、どこうろついていたんだ。心配させやがって。」

 「すいません、俺一人です。」

 「聞いたよ。青木さんから電話があった。新聞一面全部買ったそうじゃないか。無駄金使いやがって。何だ、しけた面して。もっとシャキッとしろ。ここではただ飯は食わせないぞ。嫁さんの方がずっとしっかりしている。これ以上嫁さんに心配かけるな。」

 「えっ……。」

 「トモちゃん、旦那のご到着だ。」

 十メートル程先にある倉庫の扉が開き、ジーンズ姿の女性が現れた。長い髪をうしろで束ねた頭がこちらを向いた。小麦色に日焼けした朋子が夕陽を浴び立っていた…。私は涙が溢れてきて止めようがなかった。

30年以上前に執筆したものを少し手直ししたものです。

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