夜の学校
キーンコーンカーンコーン♪
軽やかなチャイムの音とは対照的に、私は少し疲れていた。あれだけ昼間動き回れば、そうなるわね。そしてそれは、2-1のみんなも同じようだった。
「みんなお疲れね」
「そりゃそーでしょ、櫃本先生」
「昼間にあんだけ動き回ったんだもん」
「特に、今回たくさん動いてもらったひよりちゃんなんかは寝ちゃってるよ」
「しょうがないわねえ。今日の1時間目は休憩タイムにしよっか!」
「やったあ!」
みんなは疲れているなりに騒ぎ、嬉しそうにしていた。
1時間目にみんなが休んでいる間に、私は今回あったことをまとめておこうと思う。
まず、一昨々日のこと。
一昨々日、生徒たちみんなが手紙を見つけた。そう、あの「たすけて、ください」で始まる手紙。その署名は、2-2で23番の遠野成美ちゃん。誰もその名前に聞き覚えはなかったし、2-2にも遠野成美ちゃんはいなかった。そこで2-2の担任の先生に相談したところ、先生は昼の学校の生徒かもしれないと言った。昼の学校の2-2は夜の学校の2-1の位置にある、とも。なるほど、と思った私は、一昨日の昼にこの教室を訪れた。すると確かに、そこには遠野成美ちゃんがいて、いじめている6人グループがあることも判明した。そのことを生徒たちに報告すると、成美ちゃんを助けたい、と言った。成美ちゃんに夜の学校には来てほしくない、と。私もそう思っていたから、彼女を助ける為に一芝居打とうと思ったのだ。そのために、状況が分かったあとは昼間中、この計画を練り続けた。
まず、いじめっ子たちにいくらダメだダメだと言っても効かないのは分かっていたから、一度成美ちゃんの立場を知ってもらおうと思った。
そこで、今回はひよりちゃんに頑張ってもらった。まずはあの6人にひよりちゃんが友達だという誤認をしてもらった。そして、昨日の夜に6人を7丁目の幽霊屋敷と称した学校に呼び出して、「肝試し」をしてもらった。これには2-1だけでなく、2-2や2-3、1年生にも協力してもらった。学校の見た目のカモフラージュは教頭先生にお願いして。
しかし、最後まで体験せずにみんな逃げたしたから、翌日——つまりは今日の昼、逃げられない場所で——昼の学校で体験してもらった。結果、6人とも改心したらしい。昼間もひよりちゃんには頑張ってもらったから、彼女はだいぶ疲れただろうに……。
逆に成美ちゃんには頑張りすぎなくてもいいこと、たまには逃げてもいいこと、味方になってくれる人がいることを教えようと思った。そこでこちらは私が頑張った。
最初は彼女の夢の中に出て彼女の愚痴を聞き、頑張りすぎなくてもいいことを伝えた。そして学校内で保健の先生に扮し、彼女に逃げる場所があって、味方になってくれる人もいることを伝えた。そのおかげか、教室内での彼女の表情は、前に見た時よりも明るく見えた。
最後に、昼休みに声を上げればちゃんと誰かに届くことだけ伝えて、私はその場を去った。多分これで彼女は大丈夫だろう。
また、今回は「7丁目の幽霊屋敷」や「ひよりちゃんが友達だという誤認」、「櫃本先生は保健の先生だという誤認」などの細工を教頭先生にお願いした。本当に感謝している。
2時間目は、私が授業をやらない時間だった。なので、今回のことについての報告書——1時間目に仕上げたものだ——を校長先生に提出しに行った。
「——はい、ちゃんと受け取りました。あとで読ませていただきますね」
笑顔でにこにこと笑うその人は、私たち幽霊とは違い、死神なのだという。また、教頭先生は魔女の末裔だという噂があり、だから誤認の細工などができるとも言われている。
「……にしても、よかったですねえ。夜の学校の生徒が増えなくて」
「ええ。夜の学校の子供達は、自分達のように、苦しんで自殺する人がいることに耐えられないのでしょうね」
「そうね。でも、それは櫃本先生もでしょう?」
「そうですね。生きている間、生徒達に嫌がらせをされている時……教師である前に、1人の人間だったのかもしれませんね。ひたすら怖くて……苦しかったです」
そういうと、校長先生は笑った。
「——いじめに苦しみ自殺してしまった子供達が、幸せに学校で過ごすための夜の学校。でも、皆が本当に望んでいることは、夜の学校がなくなること——いじめがなくなることでしょうね」
「ええ、そうですね。私もそれを望んでいます」
私は校長先生に微笑んでみせた。
(生きている人が、幸せでありますように)
そう、それが私たち夜の学校の願いなのだ。




