異変
「おはよーっ!」
「おはよ! 昨日は怖かったねえ」
「ほんとほんと。ひより、すごいよねえ。あんなことができるなんて」
「もしくはあの屋敷が、どこか異世界の学校に繋がってたのかも。ひよりはそれを知ってて、あれを企画した」
「あー、ありそう……って、んなわけないでしょ!」
「ネット小説の読みすぎじゃない?」
「突っ込まれちゃったー! ま、でもそうだよねえ」
「ならさあ……あれ、なんだったんだろねえ」
「さあ? みんなして夢でも見てたんじゃない?」
「んー、かもね」
「それが一番現実的だよねえ」
学校に行く道で、うちらはみんなでワイワイとそんなことを話していた。実は、昨日の夜にひより以外のみんなのグループを作って、肝試しはどんな感じだったか聞いてみたんだ。そしたら、みんな謎の学校に行ってて、そこで怖い目にあったらしい。
……まあ、今こんな話が出来るのは、ひよりの家の方向が微妙に違うから。まだひよりとは合流していない。そろそろ合流する頃だけど……。
「おっはよー! みんな眠れたー?」
噂をすれば。ひよりがひょっこり現れる。
「おはよ! 私は眠れたよ!」
「ひよりったら本当に元気いいねえ」
「ねえ、今日の体育、何やるのかなあ?」
——うちらは何とか話題を昨日のことにしないようにした。と言うのも、みんなで、極力罰ゲームの話題には触れないようにしようと示し合わせていたから。だって、そうしたらひよりが罰ゲームのこと、忘れてくれるかもしれないでしょう? 罰ゲームなんてやりたくないもん!
それは功を奏したようで、ひよりは罰ゲームのことを忘れたのか、最後まで罰ゲームについて何も言ってこなかった。よかった。
「じゃ、授業始めますよー」
いつもの先生がそう言えば、係の子がいつものように号令をかける。うちらはちらりとアイコンタクトをとった。
いつもの席に、あの子はいる。今日も早速いじってみよう。
紙に乱雑に「死ね」と書いた。
(そーれっと)
うちの席はあの子の斜め前。机の上に投げ入れるのならへっちゃらだ。やり慣れてるから先生にだってばれない。みんなも次々に紙を書いて回してくる。さて、今日はどんな反応を……。
カサッ
不意にそんな音がして、振り返る。
机の上に紙が置かれていた。
あの子に回すものかと思って辺りを見回すけれど、誰も反応しない。それに、あの子の机の上には大量の手紙がすでに乗っていた。
みんなじゃ、ない。
よく見たらご丁寧にも、うちの名前が書いてある。
なら、うち宛の手紙だ。何が書いてあるのかな? 部活のことかな。はたまた今度の休みの話かな?
ぴらっ、と畳まれた紙を開くと、見えたのは赤い文字で……。
『死ね』
思考が、止まる。
思考が追いついて来てからまず思ったのは、これだった。
——何で?
辺りを見回すと、ひよりがにやにやと笑っていた。ひよりが笑っている理由。それは多分、ひとつだけ。
うちの反応を面白がってる。
そして、不意に気付いた。
(ああ、昨日の肝試しの罰ゲームって、これのことなのか。なあんだ。ひより、ちゃんと覚えてたんだね、朝話題にしなかっただけで)
思わず笑ってしまった。
こんないたずら、笑い飛ばしてしまうしかない。




