おかしな学校
……いない。あの子がいない。
いるはずの場所に目を向けても、その場所には、見知らぬ子がいる。慌てて隣の席の子にあの子のことを聞いてみようとして、そして息を飲む。
隣の席の子も、いつもと違う。全く知らない子だ。……もういいや。聞いてみよう。
『遠野成美って、このクラスにいる?』
紙に書いて、隣の席の子に見せてみた。しかし、何の反応もしてくれない。見えてないのかな、と肩を叩いてみたけど、無言のまま。
「——ねえ、無視しなくたって……」
小声で声をかけてみても、何の反応もない。
「——ねえ!」
次の瞬間、花が散った。
……ように見えたのは、もちろん見間違いで。
隣の席の子が持っていたのは、血のついたカッター。そしてその血は、うちのもの。
カッと熱くなる腕の切り傷が、そして痛みが、それが本当にあったことだと教えてくれる。
「せ……先生! 今、隣の席の子が……カッターで……腕……」
視線が一気に、腕に集まる。
「……上条さん、やったの?」
先生の問いに、上条さんと呼ばれた彼は首を振る。
「そんなの、やってません」
(は?)
真剣な目で、嘘なんてついてないって声で、彼は語る。
「突然自分で切りつけていたの、僕見てました」
(な、何でそんなこと……)
「僕の手は汚れてないし……」
彼が見せびらかす手は、確かに汚れていない。だけど彼の机の上は、私の血の雫が飛んでいる。
「ほら、カッターも、山本さんのところにあります」
そんなわけはない、と思ったけど、カッターもいつのまに動かしたのか、うちの机の上。でも、私はカッターなんて持ってなかった。
うちはそれをちゃんと話した。
なのに。
なのに。
だあれも、信じてくれない。
うちに突き刺さるのは、憎悪の目。先生も厳しい目で「自分でやったことを人に擦りつけてはいけませんよ」なんて言う。
その後から、とんでもないことが起こった。
教室中から手紙が回ってきて、その全てに「嘘つき」「死ね」などと書かれていたのだ。
先生に紙を見せても取り合ってくれない。
——怖い。
この部屋の中にいる人たちが、恐ろしく感じられ、肝試しの罰ゲームなんて、もうどうでもいいと思えた。
授業が終わるや否や、教室から飛び出した。
——予想だにしなかった。部屋の外まで学校になっているだなんて!
しかも、廊下のあちこちでいろんな子が首を吊っていて、死んでいそうなのに、怨めしそうな目でうちを見る。
その光景に呆然となったうちの耳元で、
「——オマエラノセイダ」
氷よりもはるかに冷たい声が囁き、うちの耳は凍りそうになった。
振り返るが、後ろには誰にもいない。楽しそうな、でも闇の広がる教室が広がっているだけ。
キーンコーンカーンコーン♪
「あらー山本さん? 授業を始めるわよー?」
その声を聞いた途端、何もかもが恐ろしくなって逃げ出した。
「紙はいらないのー? 戻ってきなさーい」
耳にこびりつくような先生の声を振り切り、走りに走った。
めちゃくちゃに走っていたら、いつのまにか家の前に来ていた。
「はあ、はあ……」
がくがくと震える足。思わず倒れ込んで……そして、気付く。
「傷……消えてる」
腕の傷が無くなっていたことに。
「夢……だったのかなあ」
突然スマホの通知音がなったけど、それどころじゃない。もう、今日は寝ちゃおうかな……。
ピロンッ♪
[ひより:みんな、ミッションをこなせなかったね?]
ピロンッ♪
[ひより:みんな帰っちゃったみたいだから、罰ゲームは明日からね!]
ピロンッ♪
[ひより:みんな逃げられないからね?覚悟しといてよ?]




