謎の手紙
私は今日も、廊下を歩く。
(……えっと、名簿は持ってるわね。教員用のプレートもかけてる。ボールペンは……うん、ポッケの中にある。よし、オッケー)
目指す教室は、2-1。私が担任を持つ、この中学校一騒がしい、私の大好きなクラス。
ガラガラっ。
「みんな、今日も騒がしいねえ」
「あっ、櫃本先生!」
「ひつ先生! こっち来てください!」
生徒たちが一斉にこちらを見る。そしてその時、私はようやくみんなの様子がいつもと違うことに気付いた。
生徒たちが、みんなが後ろに群がっていたのだ。いつもなら教室全体に散らばってるのに。それぞれ仲の良い子と会話に花を咲かせているのに。
「みんな……どうしたの?」
「はーちゃんの——長月さんのロッカーに、こんなのが入ってました」
そう言って学級委員の男子が、はーちゃん——長月春花さんのロッカーを指差す。反対の手には、紙切れが一枚。
「私が入れたものではありません」
はーちゃんはそう言って、私の目を見る。その目は真剣そのもの。それに、このクラスの子が嘘をつくなんて思えない。
「つまりこれは……はーちゃんじゃない人が入れたもの、ってことでいいのかな?」
はーちゃんはうなづく。
「……それ、貸して」
学級委員の彼に紙切れを渡してもらう。
——その紙切れは、手紙だった。
「たすけて、ください。
わたしはもう、いきていたくないです。
しにたいです。でも、しねないです。
おかあさんたちが、しんぱいするから。
くるしいです。こわいです。
がっこうに、きたくありません。
でもいかないと、しんぱいされるから
だからわたしは、がっこうにきています。
だれでもいいです。
たすけて、ください。
2年2組23番 遠野成美」
(遠野、成美?)
そんな生徒、このクラスにはいない。この文字にも、見覚えはない。いや、そもそもここは1組だ。だけど、2組にもそんな生徒はいないはずだった。
でも、この学校に悪戯をするような子がいるわけがない。そもそもこの文字が、この手紙が悪戯には見えない。必死な思いが溢れている。
「——みんな、落ち着いて。私がこの手紙については調べて、結果を報告するから。
……さあ、席について。授業を始めましょう」
「……はーい!」
「ひつ先生、お願いします!」
「もしこの手紙が本物なら、この子を助けたい!」
みんなの思いがひしひしと伝わってくるのを感じ、私はうなづいた。
「——私もよ。だから、私に任せといて」




