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悪役令嬢は騎士団長と結婚をして、婚約破棄された騎士団長子息が義理の息子となり、婚約者を奪ったパン屋の娘(ヒロイン)と嫁と姑の関係になりました

作者: 桜草 野和

「ロゼリッタ、あなたは太りやすい体質なのですから、お肉は食べないようにと言っているでしょう」


 私が目で合図すると、メイドのアイルが、ロゼリッタからローストドラゴンが盛られた皿を下げる。


「母上、何度も申し上げていますが、ロゼリッタは太りやすい体質ではありません。それに、ローストドラゴンは低カロリーの料理です。俺が狩ってきたドラゴンの肉をロゼリッタに食べさせてやりたいのです」


 騎士団長子息で、私の義理の息子となったルドリーが、嫁のロゼリッタをかばう。


「なりません。代々騎士団長を務めるレーオン家の嫁がスライムのようにぷにぷにになってしまっては困ります」


「……ごちそうさまでございました」


 7種の季節の野菜を贅沢に使ったサラダを食べたロゼリッタが席を立つ。


 私はロゼリッタの分も、ローストドラゴンを食べる。美味だ。


「ユーリ、俺が君と婚約破棄したからって、いつまでもロゼリッタにあたらないでくれ。もう、昔の話だろ?」


「ええ、そうよ」


「だったら」


「私はただ、レーオン家のことを思ってロゼリッタに厳しくしているだけです。それから、ルドリー。あなたが言うように、私たちはとっくの昔に婚約破棄しているのです。そして、私は今はあなたの母なのです。今度、私のことを名前で呼んだら承知しませんよ」


「……父上のご病気も母上の仕業なのでしょう?」


 ルドリーはそう言って、乱暴にナイフとフォークを置くと、ワインをがぶ飲みして席を立った。




 伯爵令嬢の私は、幼馴染だった騎士団長子息のルドリーと婚約した。

 ところが、ある日突然、


「本当の恋をした」


と言って、ルドリーに婚約を破棄された。


 そして、ルドリーはパン屋の娘のロゼリッタと結婚をした。




 ほどなくして、私は妻を早くに亡くしていた騎士団長のヒュードリー様と結婚をした。


 ルドリーは義理の息子となり、ロゼリッタとは嫁と姑の関係になった。



 私と結婚してすぐに、ヒュードリー様は原因不明の病を患ってしまった。





「あなた、お薬をお持ちしましたわよ」


「ゴホッゴホッ。ありがとう、ユーリ。ゴホッ」


「口移ししましょうか?」


「君に病をうつすわけにはいかないよ」


「せっかく、あなたと久しぶりにキスができると思ったのに」


「ユーリ、ルドリーとロゼリッタのことを頼むよ」


 バシッ。私はヒュードリー様をビンタする。


「あなた、バカ言わないで。弱気になることなんて許しませんよ。それに何より、私を一人にしないでください」


「もう一度、君にキスしたいな」


「そう、その意気です。騎士団長なら、病ごとき退治してくださいませ」


「そうだな。愛しているよ、ユーリ」


「……おやすみなさい、あなた」






 カキーン! キーン!


「キャッ」


「ロゼリッタ、これくらいで倒れてどうするのです」


「大丈夫か、ロゼリッタ」


 ルドリーが、ロゼリッタを抱きかかえる。


「ルドリー、そこをどきなさい」


「嫌です。なぜ、ロゼリッタに剣術の稽古をさせるのですか?」


「レーオン家の嫁なら、そこらへんの男にやられるようでは困るのです。ルドリーは祖国『レドアンタ』を守る騎士団長になる定め。ロゼリッタが人質にとられて、ルドリーの弱みとなるようなことは許しません。自分の身は自分で守るのです。さぁ、ロゼリッタ立ちなさい」


「ウォーーー!」


 カキーン! ロゼリッタが私を、殺す気で切りかかって来る。


「それでいいのよ。私が憎いでしょ。殺してしまいたいでしょ。だったら、私より強くなってみせなさい!」


 ドンッ! 私はロゼリッタのお腹に蹴りを入れる。


「ウグッ……」


 ロゼリッタが膝をつく。


「母上、卑怯ですよ!」


「卑怯? 戦場でその言葉が通用するとでも?」


「……いえ」


「強くなりなさい」






 まもなく、隣国の『ソフィリディア』と戦争になり、ルドリーはヒュードリー様から騎士団長を引き継ぎ、祖国『レドアンタ』を守るために最前線に向かった。





「残さず食べなさい」


 ロゼリッタは、ドラゴンシチューを食べようとしない。


「……ルドリー様が、戦地で戦われているときに、私がこのようなものを食べるわけにはいきません。ウゴッ」


 私はフォークにドラゴンの肉を刺すと、ロゼリッタの口に投げてやった。


「だから、食べるのよ。ここも、いつ戦場になるのかわからない。いつ、食べ物がなくなるのかもわからない。食べれるときに食べて、戦いに備えておくのです」


「ゴクンッ。おいしい……。こんなときなのに、おいしい……」


「泣くのは、ルドリーが帰ってきてからにしなさい。無用な涙は不幸を呼ぶ」


「……はい、お母様。モグモグッ」


 ロゼリッタは、ドラゴンシチューを頬張る。







 バシッ! 私は病院のベッドで寝ていたヒュードリー様にビンタをする。


「看護師たちのお尻を触りまくっているみたいじゃない。すっかり元気になったみたいでよかったわ。家に帰るわよ」


「おいおい、やっと歩けるようになったところなんだぞ」


「ここには、これから大勢の兵士たちが運ばれて来るわ。自分で歩ける人は、ここにいてはいけないのよ」


「……ルドリーから手紙は?」


 私は首を横に振る。


「ルドリーなら大丈夫よ。歴代最強の騎士団長と言われたあなたの息子なのだから」


「ヒュードリー様、調子はどうですか? キャッ、ごめんなさい」


 やけに露出の多い、看護師は私を見るなり、謝ってそそくさと逃げて行った。


「あなた、ごめんなさい、ってどういうことかしら? なぜ、あの女が私に謝るわけ?」


「そ、それは……。あっ、この間、ユーリが持ってきてくれた花を花瓶から落としていたっけかな。そうだ。きっとそのことだよ」


「言い訳はもういいわ」


 私はヒュードリー様にキスをする。


「さぁ、帰るわよ」






 ルドリーに婚約破棄されて、弱りに弱っていた私を、根っからの女好きのヒュードリー様が励ましてきた。下心ありありで。


 自暴自棄になっていた私は、ヒュードリー様に「抱いて」と口にしていた。



「ユーリ、私は大の女好きだ。だから、女が心底傷つくことはしない。ユーリ、そのときが来るのを、2人でゆっくり待とう。時間が忘れさせてくれるまで」



 ヒュードリー様にそう言われたときにはもう、私は恋に半歩落ちていた。





 2年後――


 『レドアンタ』の首都、『フレンデ』の近くまで『ソフィリディア』の軍隊が侵攻してきていた。


「今日のスープは一段とマズいわね。アイル、責任を持って自分で食べなさい」


「しかし、奥様、昨晩も……」


 貴族でも食事は1日1食。豆のスープを食べるのがやっとだった。


「お母様、私の分をお食べください」


「いいや、俺の分を食べるがいい」


 ロゼリッタとヒュードリー様が、私に豆のスープを譲ろうとする。


「あなたはこのレーオン家の当主なのです。しっかり、食べてもらわないと困ります。それから、ロゼリッタ。あなたも、いつルドリーが帰ってきても、子供を授かれるように体力をつけておくのです。レーオン家の血を絶やしてはなりません」



 すると、屋敷の外が騒がしくなる。



「旦那様、大変でございます! ソフィリディアの兵士たちが、攻め込んでまいりました」


 執事のロイドが報告する。



「アイル、すぐに支度を!」


「はい、奥様!」



 私たちは鎧を身につけ、剣を持つと、屋敷から出て、ソフィリディアのクソヤローどもを倒しに行く。

 勇敢なレドアンタの戦士は盾を持たない。


 プシュッ。


「まずは1人」


 やっとソフィリディアの兵士を殺すことができた。我が息子、ルドリーの敵であるソフィリディアの兵士をどれだけ倒しに行きたかったことか。


「ドリャドリャドリャ!」


 ヒュードリー様は実に生き生きと戦っていた。次々とソフィリディアの兵士を倒していく。


「ウォーーー!」


 剣術の稽古を続けただけあって、ロゼリッタも女だと思ってなめてかかってくるソフィリディアの兵士をすでに5人も倒していた。



 ヒュッ! ヒュッ!


 ソフィリディアの兵士たちが弓矢に撃たれる。


 屋敷の屋上から、メイドのアイルと、執事のロイドが弓矢を放っていた。


 レーオン家に仕える者は皆、戦闘に長けていた。



「お母様。私、お母様に隠していたことがあります」


「後にして。今、私は楽しいのだから! 18人目!」


「私、実は太りやすい体質なのです」


「ロゼリッタ、あなたがルドリーのことを想って、食事制限をしていることを知っていたわ。ライバルだった頃にね。実家がパン屋だけにさぞ辛かったでしょうね。19人目! あなたのおっぱいが、右のほうが少し大きいことだって知っているわよ。20、21人目!


「お母様には敵いませんわ……。レーオン家の人間として、全力で戦います! ウォーーー!」




 ろくに歩けもしない兵士たちも病院から出てきて戦い、私たちは首都『フレンデ』を『ソフィリディア』のクソヤローどもから守り切った。





 ルドリーはこの機を逃さなかった。


 軍本体は首都『フレンデ』を守るべく前線から撤退したが、ルドリーは騎士団を率いて、『ソフィリディア』の軍隊が侵攻している間に攻撃に打って出た。


 そして、『ソフィリディア』の首都、『ソフィロー』をたった半日で攻め落とした。まさか、攻め込まれるとは夢にも思っていなかったソフィリディア軍は、ろくに武装もしておらず、お酒を飲んでいる兵士も大勢いたとルドリーから聞いた。




 ルドリーはソフィリディア国王を討ち取り、無事に凱旋した。



 さすがは、ヒュードリー様と私の自慢の息子だ。





 50年後――


 カキーン! キーン!


「ルシオン、これくらいで倒れてどうするの! あなたはレーオン家の当主となるのですよ! 未来の騎士団長が泣き虫だなんて恥ずかしいわ」


 カキーン!


「そうよ。今の太刀筋はなかなかだったわよ」


 私は玄孫に剣術の稽古をつけていた。幸せな時間だった。


 ヒュードリー様、私はまだそこに行けそうもないわ。女神たちと浮気していたら、絶対に許さないからね。女神ともどもお仕置きしますわよ。


 カッキーン!


 私が空を見上げて、よそ見をしていると、その隙をついて、玄孫のルシオンが全力で切りかかってきた。これはこれは将来有望だわ。素晴らしい資質を持っているようね。




「卑怯者と呼ばれても、守るべき者を守り、愛すべき者を愛すのよ」

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[良い点] タイトルが酷いざまぁ風なのに良すぎる内容じゃないのぉぉぉ・・・・・・!!!ついて行きます!お姉さま!的な。←
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