85.女子会
城奥の一角、ちょっと広めの応接間に、エマちゃん、セリア、紫音、私が集まっていた。
このメンバーで集まったのは、紫音とエマちゃんが計画していた女子会を敢行するため。もう女子っていう年齢じゃないんじゃ……と言ったけど、「エマちゃんは完璧に女子だから!」という紫音に押し通された。
セリアは既にエマちゃんと仲良しだけど、私はほとんど話したことがない。ましてや紫音なんて最近ここに来たばかり。ま、例によって私は彼女のことを知ってるんだけどね。
まずはお茶とお菓子から、というエマちゃんの計らいで、少し場の緊張が解けたみたい。私の真実をセリアに伝えてくれたのもエマちゃん。積極的に橋渡しをしてくれる美少女ヒロイン、まじ天使。
そんなこんなで場が和んだところで、エマちゃんと紫音が楽しみにしていた、恋バナが始まった。
一通り、紫音とシヴァの馴れ初めが語られる。私は軽く聞いているけれど、ここでは語れない出来事も、もっとずっとたくさんあったんだろうな。
「何と言うか……シヴァさん、凄いですね」
セリアが紅茶を飲みながら紫音に言葉をかける。
「まさかの祖国を捨てる宣言だからなあ」
「うん、あれはあたしもビックリした」
「だよね……」
4人揃って苦笑する。溺愛されっぷりが激しい。まだ病んでは……いないよね。
「その点、エマちゃんたちは初々しくていいね」
「そ、そうですか?」
「ラルド君、優しそうだもーん」
「セリアさんこそ、ケインくんとどうなんですか?」
「わ、私は、まだそこまで……!」
おお、ここも初々しい。
……私も人のことは言えない、気がする。ティーンやハタチ前後の子と似たような経験値か……。
遠い目をしていると、エマちゃんがこてんと首を傾げた。
「えっと、ミワさんは、私たちのことも知っていたんですよね?」
「んー……」
知ってたと言えば知ってたんだけどね。
「いやね、私はラルドだったから」
「うん?」
「ゲームの主人公はラルドだった、って言ったでしょ? 彼を操ってたのは私なワケで。だから、私はエマちゃんと恋愛したことがあるのだよ!」
エマちゃんがはわわわーっと慌てふためき、セリアは目を瞬かせ、紫音が大笑いした。
「軽い冗談はさておいて。
実際問題、ゲームのラルドと、実物の……本物のラルドは、やっぱり別物なのよ。
だから、二人が話し合って決める未来は、私には分からないんだ。
だけどね、エマちゃんとラルドが仲良くしてるのは嬉しいし、いい未来が待ってるといいね、って応援するよ」
「え、あたしは応援してくれないの?」
「いや、紫音は完全に二人の世界が出来上がってんじゃん。あとは成熟してくばっかでしょ」
「応援してよー」
「うん、今のまま頑張れ。シヴァがこれ以上重たくならないとイイネ」
「わー棒読みー」
紫音が口を尖らせる。
「セリアとケインのこともね。そりゃ、横で見ていた形にはなっちゃうけど、だからって全部をストーキングしていたんじゃないし。
私の知識も、エマちゃんが見てることくらいだからね?」
そこは安心して欲しい。いや、それを聞いたところで安心できないか。少し眉を下げているセリア。
「じゃ、美和ちゃんも詳しくは知らない、ってことらしいから。安心して惚気ちゃって?」
紫音の催促に、まずはエマちゃんが口を開く。
「ええ、っと。そうですね。ラルドが王子じゃなくても、私が聖女でなくても、きっとお互い、気にしなかったと思うんです。
一緒にいて楽しいし、温かいし、身分なんか超えて一緒にいたいと思っていましたしね。実際はラルドの方が高い身分なんだ、って分かったら、ちょっと笑っちゃって。
私が聖女で良かったな、と思うのは、ラルドの命を繋げられることなんです。今はとにかく邪神の問題で頭がいっぱいなんですけど、全部落ち着いたら、二人とも無事だったら、その時にもう一度、今度は私から告白しようと思ってます」
赤くなりながら笑うエマちゃん。普通に恋愛するよりも障害が多いだろうに。健気。
少ししんみりしかけたけど、
「そういえば、聞いてくださいよ! ラルドってば、プレゼントのセンスが壊滅的で!」
……と、気を取り直したようにキャッキャと話をしてくれる。ああ、青春だねぇ。
とりあえず、ラルドは爽やか王子だけどちょっと抜けたところがある、と分かった。
「じゃ、次はセリアさんの番ね!」
紫音の言葉に、少し赤くなって口を開くセリア。
「ケインは元々、年齢よりも若く見えるじゃないですか。実際は私とほぼ同い年なのに。
最初に会った時には、子供のくせに、と思ってしまった自分がいます」
私とロイが廊下で見かけた、あのファーストコンタクトの時だね。うんうん、イベント潰さずに済んで良かったよ。セリアは21歳、ラルドは20歳。それを知らなかったセリアが、チクッと棘のある言葉を言ったんだよ。
「そういえばあの時、ミワさん、覗いていましたよね」
やっぱりバレてた!
「ケインは図書館でよく調べ物をしていて、とにかく知識を吸収しようという意識が高かった。今になってみれば、彼の生まれた時代と現代とのギャップを埋めようと、必死になっていたんですね。
騎士として剣術や魔術の研鑽はしてきても、勉学は最低限の物しかなかった私は、当初とは逆に少し馬鹿にされていました。ですが、私も学ぶ姿勢を取ったことで、だんだん仲良くなっていったんです」
ふんふん、勉強で距離が縮まる……年齢は少し上だけど、学校での恋愛っぽいなあ。
「なんですが、いくら距離が縮まっても、肝心なタイミングで間合いを取られるんです。
だから、もどかしくなってしまって。私から踏み込んで告白したくらいです」
ケインに対してぐいぐい行ったのはセリアの方だったのか。
なるほど、ケインはああ見えて奥手だったと。草食男子ってやつ?
「シオンさん、セリアさん、そろそろミワさんにお話してもらいましょ!」
「そう、そうだよ、美和ちゃん。いーっぱい惚気てよ!」
私の順番が回ってきた。
惚気……ノロケねぇ。紫音が昔、惚気てた話を思い出して、何を話せばいいのか考える。
「うーんと、優しいよ?」
「短っ!?」
「ああ……でも、確かに惚気かもしれませんね。彼のことは戦が始まるから知っていますが、優しい仕草はほとんど見たことがないです。こちらは領騎士で、あちらは領主付の軍師、そういった身分や役職の違いはあるのかもしれませんが」
「えー、そうだったの? あの人、美和ちゃんのこと、めっちゃ緩ーい目で見てるじゃん」
そうだったのか。そんなに分かりやすいのか。
「ええと、じゃあ」
前に、マークを好きだと確信した時の心境を、ポツポツ話してみる。
みるみるうちに三人の目が煌めきだす。
「ガチ惚れじゃん」
「う、うん」
「で、そんな彼は普段どういう態度なの? 美和ちゃん困らせてたら、あたしが直談判してあげるから」
いや、気持ちだけ受け取っとく。
「困ってるのは……顔が良すぎる」
沈黙が降りた。
「同意しよう。だけどさ、顔がいいのは四人ともよね」
そうなんだよね、ゲーム顔たちめ。
「ま、ま、確かに自分の造形が少し悲しくなるけど、今の話はそうじゃなくて。あの綺麗な顔で柔らかい笑顔向けられると、心臓止まりそうでね。最近やっと慣れてきたくらい」
「……笑うのですか?」
「皮肉っぽい顔では、ないんですよね?」
「最初はハーミッドみたいな冷たーい顔だったけどさ。私への疑念が晴れてからは、眉間のシワも減ったね」
うん、今でもたまに顰めっ面になるけれど、だいぶ穏やかな顔になったよね。
「マーク、基本は真面目だけど、ちょっとカワイイ時もあるし……」
甘い物好きな所とか。レオナルド様にからかわれて赤くなる所とか。私から抱きついたら焦っちゃった所とか。
「分かった。もう分かったよ美和ちゃん。彼はいわゆるクーデレなのね」
「レオはね、包容力があるのよね」
!?
「お母様……」
「だぁいじょうぶ、レオのこと自慢したらすぐ出て行くわ」
いや、何でさらっと参加してるんですかソニア様!?
「小さい頃、私に剣術で負けたのが悔しかったらしくて、事あるごとに手合わせしてたんだけどね。お転婆が過ぎて大怪我しちゃった時に、それはもう迅速に動いてくれて。
私に臆することないだけじゃなくて、こんなに頼もしい人なんだなぁ、って嬉しかったわあ」
うふふ、と両手を頬に当てて、にっこりするソニア様。
「私が領内の治政に関して意見を言ってみたら、『私が全面的に責任を持つから、一度自由にやってみるといい』なーんて背中を押してくれたりね」
それからしばらくレオナルド様の素晴らしい点を長々と語り、「あらいけない、こんな時間!」と慌ただしく部屋を出て行った。
相変わらず嵐のような人だ。
うん、なるほど。
シヴァは美人で溺愛、ラルドは爽やか天然、ケインはワンコ系草食、マークは冷たく見えて甘やかし、レオナルド様は若い時から大人の余裕。




