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RPGの世界で生き残れ! アラサー女の恋愛戦線  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
83/136

83.雨宿りと幸せ



 小雨で終わらないかな、という期待は一瞬で打ち砕かれて、一気に本降りになった。


「こっちだ。これから行く予定の場所が近くだから、このまま走るぞ」

 

 マークが私の手を取り、駆け足になる。

 走り込んだのは、広くテラス席を設けたカフェだった。

 テラス席のほとんどが大きな軒下にあるため、雨は凌げる。でも、こんなびしょ濡れのままでは店内には入れない。


「寒いだろう。すぐ乾かす」


 どうしたものか、と考える間もなく、マークが手を振る。

 大きなドライヤーというか、低温サウナというか、何に喩えればいいのかよく分からないけれど、濡れた身体がすぐに元に戻った。エルフのデイ森で薬師(トニー)さんがやったのと同じかな。マークと私の二人揃って数秒で完了だ。


 店内は、雨で足止めされた客で賑わっている。それでも二人席が空いていて、すぐに座ることができた。

 マークはハニーミルクティーとオペラ。私はポットサイズのストレートティーとヨーグルトムースのレアチーズケーキ。半分マークにあげよう。

 窓に近い席だからか、外の雨音が程よく周囲の音を遮ってくれる。

 ゆったりした気分で、今度はマークの話を聞かせてもらう。

 ロイと出会った時の話。この世界の面白い伝承について。マークが使える魔術の話。

 仕事と家族の話が出なかったのは……わざと、のような気がする。あえて聞き出そうとは思わない。


「じゃ、マークは全種類の魔術が使えるの?」

「全種というと語弊があるな。当然ながら回復魔術は使えないし、それ以外の特殊魔術は何も使えない」

「でも、火水土風雷、全部いけるなんて……魔術師ポジションのケイン並み……」

「魔力はさほど多くないから、戦闘で主力として使うには難しい。剣術もそうだが、器用貧乏とでも言うのかな。幸い、攻撃力以外の能力があったお陰で、ここにいる」


 そうか、オールラウンダーと言えば聞こえはいいけれど、全体的に高い能力でなければ、全部中途半端という印象になるのか。

 だけど、ホットタオル作るにしても、濡れた服を乾かすにしても、便利だよね。やっぱり魔術はいいなあ。



 話し込んでいると、ようやく雨が止んだ。

 空を見ると、雲の隙間から光が差して……ああ、これは。


「マーク。あれね、私たちの世界では『天使のはしご』って言うんだって」

「天使?」

「えーと、神様の使い?」

「聖女ではなくて、か」


 私も世界中の神話や宗教を知っている訳じゃない。日本特有のふわっとしたごちゃ混ぜ文化の中で、なんとなくキリスト教関係なんだろうな、って感覚。とりあえず神様の言葉を伝えたり、色んな権能で人の役に立ったり邪魔をしたり、ってイメージ。

 こっちでは、神様の使いと言えば聖女なんだって。神官が神託という形でぼんやりと神の意思を感じ取ることはできても、神の力を分け与えられるのは聖女だけ。


「それが回復魔術のはずだったんだが」

「紫音は回復魔術を使えない。だけど聖女」

「彼女に分け与えられた神の力が何なのか、だな。

 さて、仕事の話をするつもりじゃない。天使のはしご、だったか」

「こっちでは、ああいう光のこと、何か言葉がある?」

「俺は知らないな」

「例えば、天気雨のことを『狐の嫁入り』って言ったり」

「狐?」

「狸に化かされた、とか」

「狸?」

「犬も歩けば棒に当たる」

「……犬」

「猫の手も借りたい」

「…………猫」


 天使のはしごからだいぶズレた話を展開させると、マークが目を白黒させている。面白い!


「今度また、こういう話をしようね」

「楽しみだ」


 マークの笑顔はようやく見慣れてきたけれど、それでもやっぱり綺麗で。それを私に向けてくれるのが、とても嬉しい。


 

 帰り道、スムーズに手を繋がれた。

 マークと手を繋ぐのは、三度目。最初は付き合う前、会議に向かう時に私の緊張を紛らわすため。二度目がさっき、雨宿りする前、急いで目的地に向かうため。

 三度目の今は、きっと何の意味もない。それが恥ずかしいけれど嬉しい。右手首に感じるマークのブレスレットの感触が嬉しい。温かくて大きな手がすぐ近くで守ってくれてるみたいで嬉しい。横に並んだマークがいつもより近いのが嬉しい。

 今日は嬉しいことが山盛りだ。幸せ。

 こんな日がずっと続けばいいのに。

 分かってる。今日、この数時間が特別だった。もうすぐ私たちは動き出す。世界を背負って、未来を背負って。「また今度」が本当にあるのかどうか、誰にも分からない。

 それでも願う。「また今度」っていう小さな約束が、これからも何度も続くといいな、って。

 

 第一目標、生き残ること。第二目標、帰るかどうかを決めること。

 第三目標、マークとまたデートすること。




 ******




 数日後。

 私たちの待機時間も終わった。

 

 ハーミッドは、ロイの養父兼師匠を連れて、フェイファーへ帰国。既にクーデターの下準備を始めている。ロイの師匠(ダリスさん)が抜けた後の傭兵隊隊長は、第一部隊長が兼任。

 ユタル神殿へは、エマちゃんとラルド、紫音とシヴァが向かう。

 ロイとケイン、セリアのゲームメインキャラは、それぞれ精鋭を連れて各地ダンジョンへ。重要アイテムを事前に入手する。

 ソニア様はラヴィソフィ領内の采配を嫁――長男マイケルの奥さん――に任せ、レオナルド様の代わりに首都へ。向こうでの手続きを一任されている。

 キャスパー王子は一足早く事情を知らせるため、首都の大魔術師シャイン様の元へ。

 エルフ王とウォーカー家当主(セリアの父君)は、メーヴ城へ到着してすぐにレオナルド様と協議に入っている。

 マークは軍だけでなく、全ての情報を取りまとめる。

 

 そして私は。


「だからね、ミワさん! これ、ちょっとヤバいよ?」


 医務室で、たくさんの小瓶と、興奮気味のトニーさんを前に、首を捻っていた。



 

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