80.紫音の決意
その後、内容があっちへいき、こっちへいき。城内の話や城下町の話とか、食堂やキッチンや医務室やエルフの森や……と四方山話を経て、ランチタイム。
昼は特にガッツリ派のメニューが多いから、キッチンの片隅を借りてワンプレートランチを二つ作る。
元職場とはいえ今は無関係者。ホントはね、入り浸るのはあんまり良くないって分かってるんだけど。受け入れてくれるシェフやコックの皆さんに甘えて、こうしてちょいちょいと使わせてもらっている。ありがたや。
改めてゲームの話をして――元の世界の共通認識があるから、多少ゲームに疎くても話しやすい――簡単な地図を描いてみせる。
ここが現在地のメーヴ城、ここがユタル神殿、ここに邪神が封じられていて、フェイファーはこっちの方。
「フェイファー内の立地は紫音も分かってる?」
「あんまり。口頭でざっくり説明されたけど、地図見たのは初めて」
「じゃ、そっちも描こうか」
アルバーノ大神殿をこことすると、主要な神殿はここ、邪神はここ、ゲーム内で戦争イベントが起きたのはこの辺り。
「ここの神殿にある武器があってね。そのままじゃ使えないけど、ゲーム後半に手に入るアイテムと組み合わせると、ケインの最終武器になるの」
「そっかー。これが、今すぐには手に入れられないモノね」
「他にもあるけどね。このダンジョンに入れさえすれば、ケインの武器は確保できる。後半に入手するアイテムはこっちの首都にあるから」
邪神の封印場所についても、紫音は聞きたがった。聖女の大きな役目だから。
「フェイファーの封印場所は廃墟になってて。ここの地下がダンジョンで、見た目以上にだいぶ広い。当然、迷路みたいになってるから、できる限り最短距離かつトラップの少ないルートで進む方がいいよね、って考えてる」
「こっちの封印場所は……湖?」
「うん、隣のリューク領との境になる大きな湖で、リュークとフェイファーとの間にある大山脈の近く。前回の封印の衝撃で水が入り込んじゃってるから、ダンジョン攻略だけじゃなくて、この対策も必要なんだよね」
「ダンジョンは美和ちゃんが改めて地図描くって言ってたね」
「まあ、歩く攻略本だから」
今のメインの仕事はむしろそれになる気がする。アロマオイルと並行作業かな。
マークと相談しながら進めたい。結局自分で字は書けないし。
今描いたこの地図も、捨てないでマークとの話し合いに持って行こう。
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ティータイム、プリンに紅茶とコーヒーを添えて、次の話題へ。
私も紫音に聞きたいことがあるんだ。
「さて、今度は紫音の話を聞こう。シヴァとの馴れ初めを語ってもらおうか」
「うーん、それより先に、ゲームのシヴァの話を教えて?」
そっか、気になるよね。でも、今カレの過去を知るようなものだけど……。
「過去じゃないよ? あり得た未来。あたしの知らないシヴァの一面。だから知りたい」
ふわりと笑う紫音は、とても綺麗だった。
ゲームで語られる内容を伝えた後、紫音の転移後の話をざっくり教えてもらう。
ああ、これはいわゆる異世界転移恋愛ものですね。後できちんとじっくりインタビューして小説化してやろう。私に文才ないけど。うん、新たな収入源になりそうだ。
惚気混じりのストーリーは、シヴァとの婚約話まで辿り着いた。
「そうだよ、婚約者ってどういうこと!?」
「その名の通りだよ? シヴァとそのうち結婚するつもり」
いやいや、二人の間の愛情に関して口は出さないんだけどね。私には確認しておきたいことがある。
「付き合って、結婚しても良いと思った?」
「うん。……色々あったけど、私はシヴァと一緒に年を取りたいと思ったし、支えて行きたいと思ったから」
「紫音。もし現代に戻る手段が見つかったとしても、戻らないつもり? それとも、現代に戻るまでの期間限定の結婚?」
既視感。
でもそれは、私が言われたことで、紫音の答えは、多分――
「ずっと一緒にいたい、って思える人と出会えたから。色々捨てて、シヴァに付いていくよ。あたしにとっての優先順位が、シヴァだった、ってことなのよね」
「おじさんや、おばさんや、お兄さんよりも? 追っかけてたアーティストや大ファンだった俳優よりも?」
「そりゃね、悩んだよ? FROZEN H“やKAZUKIはともかく、家族に対しては何も言わない駆け落ちみたいなものだもんね。駆け落ちよりも酷いか。ここにいる限りもう二度と会えないんだもの」
両手で紅茶のカップを抱え込みながら、ゆっくりゆっくり言葉を紡ぐ。
「だけどね。家族と二度と会えないか、シヴァと二度と会えないか、天秤にかけて、あたしはシヴァを取った。
もし戻れるとしても、どっちかしか選べない。いつまでも思い悩んでも、どこかでキリを付けて、どっちかを選ぶのは一緒でしょ?
残された方の気持ちを考えたら、なんて。あたしがどちらかに決める踏ん切りが付かないのを、色んな言葉で誤魔化しているだけに思えて。それはもう、ずーっと続くよ? それをずーーーっと、比べ続けるワケにもいかない」
二人の男性に悩む私よりずっとずっと重い決断を、紫音は既に下していた。
「だからね! あたしはシヴァと一緒に幸せになるって決めたの!」
プリンを一口掬って、紫音が私の顔を覗き込む。
「巻き込んだとか、巻き込まれたとか、ホントにあたしはどうでもいいんだ。
それよりもね、美和ちゃん。あたしのことを気にしないで、美和ちゃんも幸せになるって決めてほしいな。
あたしが帰らないって決めたからって、美和ちゃんが気にする必要ないし。美和ちゃんが帰りたいなら、帰ればいいんだよ? だけどさ、美和ちゃん、まずはマーカスさんと生き残りたいでしょ?」
そりゃ、私の第一目標は、生き残ることだから。そこにマークもいてくれたら、嬉しい。
昨日、マークには先送りにさせてもらった問題。何の役目もない私は、この世界の異分子そのもので。帰りたいというよりも、帰った方がいいんじゃないか、って思うだけ。
わからない。わからないんだ。自分が何をすべきなのか、どういう選択をすべきなのか、こんがらがって結論が出せない。
「こーらー。目的を見失わない! 帰れるかどうかも分かってないでしょ? 生き残る方法を考えるのが、今の美和ちゃんとあたしたち皆の仕事。
もし、帰る方法が見つかったなら、その場で決断しなさいよ」
「えぇ? そんな無茶な」
「考えすぎなの、美和ちゃんは。締切作っておかないと、ずーっと悩み続けるでしょ」
そうだね、何度も言われたよ。自分でも理解してるよ。
「もうね、締切はあたしが決めたげる。うん。方法が見つかったならその場で決断。見つからなかったら、邪神を何とかしてから10日後まで」
「え、見つからなかったら見つけるまで探すんじゃ……」
「バカなこと言わないの。ないものを証明するのって、悪魔の証明っていうんでしょ?」
そ、その通り。
「邪神を何とかしたら、今度は後処理とか、別の意味でバタバタするでしょ? それ以上引き延ばしたら、方々に迷惑かかるよ?」
「う……」
「もうね、ここで変に悩むのは今日の主旨と違う! 今日はあたし、美和ちゃんと喋りたいこと、まだまだいっぱいあるんだから!!」
握った両手でトントンと軽くテーブルを叩いて、むくれる紫音。
そうだね、ごめん。自分の思考に入り込むのは、また自室でやるよ。




