79.恋愛相談(現実)
あけましておめでとうございます。更新お待たせしました。
ひいいえぇぇぇーーー。ひぃやぁあああぁぁぁーーーー。
ベッドでゴロゴロ悶えている。
どうやってマークの部屋から戻ってきたのか、記憶が曖昧になっている。だいぶボーッとしていたらしい。お酒の飲みすぎで記憶をなくしたような感覚。
初キス、しかも頬とか手とかじゃなくていきなり唇!
うあああああ、思い出すだけで頭を抱えちゃうんですけど!?
どうして、さしたる抵抗もなく受け入れたんだろうね!? 雰囲気? 油断? 勢い? なんなの自分。どれだけテンパってるの。ええそうだよ、混乱してるよ!?
……いや、うん。結局マークのことが好きだから、自然と受け入れたんだけど。心のどこかで期待していて、それがさっきだったんだろうね。
ファーストキスの感触は、あんまり残ってない。指で唇をそっと押してみても、何だか違う気がする。
でも、あまり覚えていない中でも、マークが「仕方ないな」って苦笑して、それから優しい顔になったことは、印象に残ってる。
説教してたのに甘いな! でもカッコイイ!!
くそう。惚れた弱みだよ。今までの片恋人生でも惚れた方が負けってのは分かってるけど、今回のそれは桁違いの威力だよ!
一旦落ち着こう。
えーと、無事に私の気持ちがマークに伝わって、これからお付き合いが始まる、んだよね。
――あれ。付き合うって、具体的にどういうことをするの?
何となくぼんやりとしたイメージだと、例えば二人で気兼ねなく食事をしたり一緒に出掛けたり、何かあってもなくても他愛なく話をしたり。お互いが違う相手といちゃついたら文句言う権利があるとか?
無理やり取らせている休憩時間、マッサージの時に他愛ない話はしている。要は今までと同じだよね。
マークが女性と仲良く話をしている姿はそもそも見かけないし、マークの方は前から周囲を牽制しているみたいだし。これも今まで通り。
デートねぇ。ゲーム内でお気に入りのスポットとか、一緒に行ってみたい場所はいくつもあるけれど、今このご時世で行くなんて無理だよね?
一緒に食事、とは言っても、そもそもマークは忙しすぎてゆっくりと食事の時間を取っていないように見える。執務室に私の分もお弁当作って持って行く?
(ダメだ、一人で悩んでいても結論出ない)
ふんす、と息を吐いて、部屋を出る。お風呂でのんびりサッパリしたら、紫音に明日のアポを取るんだ!
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丸一日かけた会議によって決められた新たな方針の下、メインメンバーは各地へ散ることになった。
とはいえ、すぐに動けるわけじゃない。首脳陣が更に細かく話を詰めた後、メーヴ城内での各種手続き、引き継ぎ先の人員選抜、国内各所への極秘通達、必要物品の手配、現在展開中の戦陣営への連絡、などなど。表面上は見えないけれど、やることは山積みらしい。
それが完了するまでは私たちは待機。
レオナルド様やシヴァたちは忙しそうだけど、紫音はウキウキと滞在計画を練っている。ラルドたち主人公組は、少しでもレベルアップに励むらしい。
私といえば、アロマオイルの仕事はあるけれど、切羽詰まった状態は脱した。一つ肩の荷が下りたね。
感覚としては、次のイベントが始まるまでの自由時間、ってところか。
最近、怒濤のイベントが続いていたから、この休息時間はとてもありがたい。今後の英気を養うためにも、遠慮無くまったりすると決めた。
「というワケで、紫音、予定がなければ明日一日、付き合って?」
「え、全然いいよー」
あっさり。
「シヴァもハーミッドさんも忙しいみたいだし、美和ちゃんとも久しぶりにゆっくり話したいし。美和ちゃんが忙しくないなら、明日と言わず、明後日もその次も、色々案内してほしいしね!」
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翌日、私たちは食堂で向かい合って座る。今日は一日ここに陣取るつもり。長時間居座れるお洒落カフェなんてもの、残念ながらこの城にはないからね。一応それっぽい雰囲気にしたくて、見晴らしの良い窓際を確保。
今は朝食後の朝カフェタイム。紫音は甘さ控えめレモネード、私の前にはホットのブラックコーヒー。昔はブラックコーヒーはさほど得意じゃなかったけど、最近はマークの甘味好き隠蔽工作に付き合っているせいで、普通に飲めるようになってきている。
それにしても、どこか既視感を覚える状況だなぁ。
よく分からない感覚を振り払う。まずは私の恋愛相談だ。
マークにはあらかじめ告白されていたけど、返事を保留にしていたこと。私の気持ちが定まった後、打ち明ける間もなく会談の場で再会したこと。勢い余ってマークの彼女面したけど、マークは本気にしていなかったらしいこと。ハーミッドはそれに気付いていたこと。でも今は両思いだと確かめ合えたこと。
身体中ポカポカする。温かい飲み物の効果だけじゃないね、これ。恥ずかしいからだね、うん。
「なるほど、だからハーミッドさんに『軍師と深い仲ではない』って言われてたのね。だけど実際は、既に半分付き合ってるような状態になってた、と。そして今は両思い! 良かったね、美和ちゃん」
ふむふむと真面目に聞いてくれた紫音は、私の恋愛経験値が少ないことも知っているし、私の性格も把握している。
「で、美和ちゃんの現在の悩みとは」
「付き合うって、具体的に何すればいいの?」
一瞬間が空いた。
「いやね、ほら、初めてのことだから。どうしたらいいのか、分からないんだよね。紫音先輩、ご教示くださいませ」
「うーん。そもそもね、美和ちゃん、誰かと付き合ったら、どうしたいと思ってた? イチャイチャしたい?」
「えっと、うーんと。どこかへ遊びに行ったり、一緒にご飯食べたり、えーと」
「エッチしたり?」
「ええ? えー、あー、まあ、うん、私も大人ですし。結婚するまで絶対純潔、っていう思想も持ってないし」
やっぱり既視感。
「って、裸の付き合い的な話は私にはまだ刺激が強すぎるし、ちょっと置いといて。
何となくこんなことするのかなー、と思ってたアレコレは、一部はもうやってるし、残りは今すぐには難しそうな内容なんだよね、って悩んじゃってるの」
「なるほどねー」
レモネードを一口飲んだ紫音が、少し口を尖らせて思案する。
「今から挙げるのは、あくまで参考例だからね? 美和ちゃんとあたしじゃ、恋愛に対する姿勢は違って当然だから。……そうだねー、思いつくのは、マーカスさんに甘える」
「甘える」
「そ、甘える。例えばさ、ちょっとしたおねだり。お揃いの軽いアクセサリーが欲しいな、とか。別に品物じゃなくてもさ、それこそ、食事を一緒に取りたいな、とか。
無理なら無理って、ちゃんと言ってくれるタイプなんでしょ?」
そうか、これもエルフさんたちにアロマオイル原液をお願いした時と一緒。できるかどうかは相手が決める。まずは言ってみないと始まらない。
「んー、あと、美和ちゃんにとってハードルが低そうなのは、愚痴を聞いてあげることかな」
「愚痴」
「いつもあたしの愚痴、聞いてくれたでしょ? 美和ちゃんはね、感情的に肯定否定するだけじゃないし、理詰めで諭すだけじゃないし、バランス良く聞いてくれるんだよねー」
あたしはさー、ほら、分かるーとかウッソーとかサイアクーとか、相槌打つだけなのが多いでしょ?
そう言って紫音がチロリと舌を出す。
「あとはね、二人で秘密を共有すると、特別感が出るよね!」
「秘密」
「そ、秘密。あたしも知らない、誰も知らない、美和ちゃんの秘密を、マーカスさんだけにそっと教えるの。マーカスさんの秘密も打ち明けてもらえれば、なおヨシ」
なるほど、勉強になります。
「付き合うスタイルだって、人それぞれだよー。端から見るとただの友人みたいな付き合い方をする人もいるし、周囲を気にせずイチャコラしまくる人もいるし、付き合いたてでも何十年連れ添った老夫婦のようなまったり感を醸し出す人もいるし。どちらかに依存してグズグズになるのだって、それは一つの付き合い方だろうし」
二人でいれば、何となくどんな関係になるのか見えてくるんじゃないかな、と紫音は微笑んだ。




