73.一つ目の結論
「質問、良いでしょうか」
初めて、ケインが口を開く。
「アルバーノ神殿の祭壇に触れたということは、シオンさんは本当に聖女、あるいはそれに類する『神の御使い』だと信じます。
だとすれば……当然、回復魔術は扱えるのですね?」
そうだ、聖女の条件。回復魔術。
ゲームでは、ボス戦――邪神との対決で、聖女エマちゃんが主人公ラルドに回復魔術をフルにかけ続けることがクリアのコツだった。周囲の雑魚の露払いは、魔術師ケイン・戦士ロイ・魔戦士セリアの役目。パーティーメンバーではないけれど、戦いの余波が外に漏れないように結界を張っていたのが、エルフのキャスパー王子。
本物の戦いが同じかどうかは分からないけれど、回復魔術がないと厳しいのは確かだと思う。
ラヴィソフィ側の視線が紫音に集中する。
それに臆することなく、紫音が頬を掻きながら、
「使えないんですよー、これがまた」
と苦笑。
「あたしが使えるのは、水と土の魔術なんです」
え?
「ちょっと待った! 紫音、魔術が使えるの!?」
「え、うん。こっち来た後に調べてもらったら、その二つが使えるって分かって」
えー、羨まし……じゃなくて。
紫音が魔術を使えるのは一旦置いといて。回復魔術が使えない聖女? それって、戦いになったら危険に晒されるだけなんじゃ……!?
「だから、私はシオンを戦場に出したくないのだ」
「なるほど」
私とケインが同時に相槌を打つ。相槌に込められた意味は若干違うと思う。
「では、シオンさんの持つティアラ、エマさんに貸していただいても?」
シヴァはケイン、ラルド、そしてエマちゃんを順繰りに見つめる。
「……いいだろう。試してくれたまえ」
後ろの荷物からティアラを取り出し、紫音に託す。
立ち上がって少し腰を落としたエマちゃんに、ゆっくりとティアラが乗せられる。
ひゅ、と音がしそうな勢いで、エマちゃんの頭にティアラが吸い付いた。磁石みたい。
やはり、とか、うむ、とか、ああ、とか、列席者から色んな声が上がる。
「シオンさんと同じく、エマさんも聖女で間違いないようですね」
「待って下さい」
ストップを賭けたのはハーミッド。
「ティアラが選ぶ、というのは私も聞いたことがあります。しかし、それだけで聖女と認定するのは」
「エマさんは回復魔術が使えます」
「我々は実際に確認していない」
「試してみますか? と言っても、ここには武器になるものはありませんね」
「引っ掻こうか?」
紫音、その格好はマラソンランナーの某猫氏……。
「いや、いいです。それより、その書類を一枚貸してもらえますか?」
机の上にあった、紫音の見ていた書類。それを指差すケイン。
ああ、なるほど。ここの世界の紙は、羊皮紙のようなものではなく、元の世界の紙とほぼ同じ。となれば、紙で指を切ることは容易い。
シュッと指に走らせ、赤く血が滲む。ひゃああ、痛そう。見てるこっちがゾクゾクする。
「エマさん、お願いできますか?」
「うん」
エマちゃんが術を使うと、跡形もなく元通り。
おお、私も目にするのは初めて。凄いな。
「もう一つ、ダメ押ししましょうか。ミワさん、こちらへ来て下さい」
ケインに呼ばれて、クエスチョンマークを浮かべながら彼らの元へ。
「さ、ミワさんの頭にティアラを乗せてみて下さい」
私の方がだいぶ背が高いから、膝立ちしてティアラを待つ。
「「え?」」
紫音とエマちゃんの声がハモる。
周囲を見渡すと、皆して私を見てる。え、まだ私、ティアラ付けてないよ? 選ばれるも何も、まだ結論出て……
「美和ちゃん、ちょっと立ってみて」
「うん」
立ち上がる。二人の手に、ティアラが、ない?
訳の分からない私に、紫音が説明してくれる。
「美和ちゃんの頭の上にね、今、ティアラがあるの。でも、浮いてる」
浮いてる?
そろりと頭上に手をやると、頭頂から5㎝くらいのところにティアラが浮いていた。
「ティアラはアルバーノの祭壇と同じように働くそうですので」
「認めるしかなさそうですね。聖女は二人」
ケインとハーミッドが頷き合っていた。
なるほど。ティアラが選ぶってのは、そういうことだったのか。普通の人は頭に乗せられない。装着できる人は、神の使い。
「これを踏まえて、提案があります」
ケインが続ける。
「シオンさんとエマさん、双方がユタル神殿へと赴いてはどうでしょうか。できれば、ラルド様もご一緒に。
シヴァさんとハーミッドさんにも同行してもらうことになりますかね」
そう言って、レオナルド様を窺うケイン。
顎髭を擦りながら一連の流れを見ていたレオナルド様が、ふむ、と思案する。
「両国で共通しているのは、聖女の重要性。
しかし、聖女が二人とも必要なのか、一人で良いのか、不明な点も多い。前回よりも前に同じような事例があったのか確認する必要はあるが、現状では両者に赴いてもらうことが最善、か」
ティアラを紫音に返しつつ、レオナルド様の話を聞く。
「聖女が神との契約を結べるのか、まだ分からない。契約ができないのであれば、フェイファーとしてはシャイン・ユジールに頼らざるを得ない。
一方で、ラルド君も彼の元で記憶を取り戻さなければならない。
ユタル神殿の後は、首都でシャイン様との面会が必要だな。調整しよう」
瞑目してレオナルド様は続ける。
「その次に必要なのは王杖。管理しているのはビエスタ国王。
これは最後、もっと情報が揃ってからだな。国王への謁見を含めて、私の方で方法を検討しておこう」
******
一旦休憩に入った。
山盛りで焼き菓子が用意され(部屋の外で毒味はされていただろうけど、毒味役にかこつけて真っ先にマークが口にしてた)、各自適当につまんでいる。
レオナルド様とシヴァ、マークとハーミッド、ロイとラルドとケイン、という固まりで何やらそれぞれ話し中。
私は、紫音とエマちゃんの女性グループ。
「はー、難しい話が続くねー」
「そうですね。私、ちゃんと理解できているのか少し不安です」
「あ、そうだ! ね、ね、今度さ、女子会しようよ!」
「女子会、ですか?」
「そ! お菓子いっぱい用意してー、恋バナとか」
「ふふ、楽しそう」
紫音とエマちゃんがマドレーヌを食べながらキャッキャしている。
まともに言葉交わすの、ほぼ初めてだよね? 二人ともコミュ力高いなぁ。
「もちろん美和ちゃんも参加だよ?」
「え? あ、うん」
急に話を振られて、思わず頷いた。
片思いだとかフラれただとか、そういう次元じゃない話は初めてだ。
なんだかちょっと、くすぐったい気分。




