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RPGの世界で生き残れ! アラサー女の恋愛戦線  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
72/136

72.ひとつめ、情報共有



 朝食は、部屋に持ち込んだパンと紅茶で済ませた。

 正直、あまり食欲がない。でも食べなきゃ絶対途中でお腹が鳴るから、食欲がなかろうと、いつもと同じくらいの量は押し込んだ。


 昨夜のハーミッドの会話で、腹を括った。

 全部話す。紫音を怒らせることになっても、悲しませることになっても、これは私が責任を持つべきことなんだって、皆に話さなきゃ。



 レオナルド様の執務室に隣接する応接間へと足を運ぶ。

 今日呼ばれているのは、フェイファー三人組とレオナルド様の他、ラルド・ケイン・エマちゃんのゲーム主人公組。マークとロイ、そして私。

 えーと、10人。あれ、結構多いな。

 それでも、先日の軍議で同席した亡国家臣四家の代表がレオナルド様以外出席していないんだから、たぶんフェイファー側に配慮してる。


「おはようございます」


 既に席に着いていたレオナルド様とフェイファー組。紫音、はっちゃけすぎて飲み過ぎなかった? 二日酔いしてない? ちゃんと寝て朝ご飯食べてきた? ……と少し不安になったけど、ツヤツヤ肌で元気そうな様子を見て、杞憂だと悟った。そうか、そんなにリフレッシュになったのか。


「おはよう、美和ちゃん」

「おはよう、紫音」


 高校時代に戻ったかのような挨拶を交わす。

 その紫音の手元に書類があるのに気付いて、不思議に思う。


「紫音、それは?」

「うん? あ、これはね。私もフェイファーの状況を全て知ってる訳じゃないから、昨日のうちに書き出しておいてもらったの」


 遠目に見ても分かる。どう考えてもこっちの世界の文字だ。


「その文字、読めるの?」

「え、もしかして。美和ちゃん、こっちの文字の読み書きって」

「できない。勉強中」

「……ね、シヴァ。これってどういうこと?」


 眉を寄せた紫音が、横に座るシヴァを見上げる。


「これも聖女の加護ではないか?」


 ()()()


「まあまあ、ミワ、座りなさい。その辺りの話も皆が揃ってからだ」


 レオナルド様が執り成す。大人しく口を噤んで、末席に腰を下ろす。

 程なくしてメンバーが揃った。ロイも私の隣に着席。


「今日は警護じゃないの?」

「ああ。この部屋だけなら大事が起きない限り問題ないだろ。レオナルド様の管轄下だからな」


 ああ、なるほど。「影」か。


「主にフェイファーの三人を守る命を受けてるだろうから、いざという時は俺なのは変わらないんだが」


 こそこそと話していると、レオナルド様が咳払いをした。慌てて前を向いて背を伸ばす。


 長い一日が始まる。




 ******




 最初にこちらの状況の説明。主に先日の作戦会議で話されたこと。

 ただし今回は、亡国の話やラルドたちの立場・役割にまで言及された。

 ラルドやエマちゃんは、既にケインが話したって言ってたな。となると、知らないのはロイだけ……と思って横を窺うけれど、何の動揺もしていない。あらかじめ知らされていたのかも。

 難しい顔をしているのはフェイファー組、特にシヴァとハーミッド。ハーミッドは忙しくペンを走らせている。


 説明が終わり一息ついたレオナルド様は、ピッチャーからコップに水を注いで、一気に呷った。

 ちなみにコレ、毒殺防止のためか、魔術で直接ピッチャーに注がれていた。飲用水にもなるのか、水魔術……。初めて知った。



「さて、それでは次はこちらの番か」


 シヴァがちらりと紫音を見てから、口を開いた。


 フェイファー家は、かつて、王家に権力集中しすぎているのを危惧していた。

 聖女に神との契約も担ってもらってはどうか、という意見を、主家のジルベルト家にも進言したが、王族追従だったために黙殺された。

 前回の邪神復活は、フェイファー家としても予想外のタイミングだった。結果、聖女を支援することで邪神の封印を成した。そのため、聖女のティアラはフェイファー神聖国に捧げられた。

 現在のフェイファーは、聖女はティアラの伝わる神聖国にこそ必要な人物だと考えている。

 邪神復活の折には必ず出現する聖女に、邪神の封印を託す心積もり。叶わなければ、以前と同様、賢者シャイン――どうやら大魔術師シャイニー様は、フェイファーで「賢者」として扱われているらしい――に助力を願う予定でいた。

 回復魔術を使う少女がいるという情報を得たため、彼女を聖女と目して、ラヴィソフィ領への宣戦布告を行った。

 しかし、アルバーノ大神殿祭壇に紫音が出現したことで、聖女は紫音だと認定された。

 聖女を得た神聖国は、近く起こる邪神復活に対抗するため、神との契約の場・聖女の戴冠の場であるユタル神殿を奪取する方針となる。

 紫音に一目惚れしたシヴァが、それ以外の方法はないか模索し始めた。しかし有効な手立ての見つからないまま、総司令官である彼の出陣が決まった。

 紫音は皇都に置いていくつもりが、本人の希望により従軍。

 とてもとても置いていきたかった。安全に待っていて欲しかった。凄く凄く心配だった。紫音に何かあったらと気が気でなく――


「シヴァ、その話はもう良いです」


 はあっ、と大きな溜息で話を遮るハーミッド。

 

「はい、質問」


 ここぞとばかりに、ひょいっと手を挙げて口を挟むことにした。


「昔のフェイファー家は、邪神復活のいざこざに乗じてクーデターを起こしたんじゃ?」

「順序が逆だ。さすがに邪神が復活していれば、そんな手段を講ずることはなかっただろう。()()()()()()()()()()()()()()()、そのためにフェイファー家は()()()()()()()、と判断したそうだ」


 それじゃ、クーデター後に聖女が現れた、っていうのは、半分本当で、半分違っていた?


「レオナルド様。ジルベルト家現当主は、その情報を知っていたんですか?」


 マリクさんには、当時の真実が伝えられている。


「聖女降臨やクーデターの詳細は伝えられていないようだ。

 マリクから聞いたのは、おおまかに言うと、『フェイファー家によって王家が解体された』『当時の王族の中でただ1人生き残った王位継承者である王子と、幼馴染みで側近のジルベルト家次男が、宮廷魔術師シャインの手によって眠りについた』『王家の復活とラヴィソフィ国の復興を4家で支える』『以前のように、ラヴィソフィ国で邪神封印の役割を担う』といった情報だな。

 クルスト王家とラヴィソフィ国再興に必要な情報が重点的に伝わっている、と考えて良いだろう」


 ううん、真実が伝わっていると言っても、一から十まで全部知っているわけじゃないのか。ちょっと私と似ている? ……いや、情報量が全然違うか。


「じゃ、もう一つ。なんでわざわざクーデターなんて真似を?」

「それは、私には知らされていない。皇王と皇太子のみが入れる禁書庫には当時の記録があるかもしれないが、おそらく正確には伝わっていないだろう。

 私の考察としては……当時の当主も、現皇王と同じく、武力第一主義だったのだろう、と」


 ああ、そりゃもうどうしようもないね……。




 ******




 さて、こうして両者の情報すり合わせが終わったんだけども。

 今のフェイファーには、確実な封印方法が存在しない。


 うーん、邪神封印には、『聖女は必須』『神との契約が()()()必要』って感じかな。

 この()()()、っていうのが曲者で、片や実績のあるクルスト王家の血脈、片や単なる予想。

 どちらかと言えば『神との契約を行ったクルスト王家が必要』と言った方がいいんだけど、フェイファーは、契約を新しく行えば、聖女にも邪神封印が叶うと思っている。

 いきなりぶっつけ本番って訳にはいかないよね。さて、この条件、シヴァはどう見るんだろう?

 

 


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