表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RPGの世界で生き残れ! アラサー女の恋愛戦線  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
63/136

63.感動、不安、困惑



 完成品のうちの一瓶と、ロイが纏めてくれた何枚もの書類を前にして両手を合わせる。

 後ろには、多くの瓶が既に荷物に纏めてある。

 拝んでいるような形になっているけれど、これは単純に感動しているだけです。


「いかがでしょうか?」


 (たお)やかで麗しいエルフのお兄さんが、にっこり微笑んで私の顔を覗き込む。

 うんうんと満面の笑みで頷くと、エルフ集団とトニーさんがドヤ顔を決めた。え、エルフもそんな表情するんだね。意外だけど、何だかキラキラしいだけじゃないんだって、少し親近感。

 

 それにしても、この短期間でここまでやってもらえるなんて、ホントに頭が下がる。


「私たちがここでやれることは、ここまでかな」

「俺の方で事務的なアレコレは進めておいたからな。後は奥様に任せちまえ」


 肩を揉みつつ首をコキコキと鳴らして、ロイが頷く。


 よし、それじゃ。


「戻りますか、戦場へ」

「あ、オレはもうしばらくここにいるんで」


 力強く握り拳を作ったのに、トニーさんにニコニコ笑顔で手を振られた。


「オレの出張目的の中に、エルフとの薬の共同研究・製作があるんでね。

 来た時と同じく、ミワさんとロイさんで戻ってください」


 ああ、そういうこと。

 私たちは顔を見合わせて、そっと溜息をついた。




 ******




 城へ戻るのは、何人かのエルフや大量の荷物と共に、馬車の旅路となった。

 ロイは重要書類を纏めて持ち、一足先に城へと単騎駆けていった。


 帰り道、人の耳がないところで、私なりの結論を話す心積もりだった。当てが外れたな。

 いつロイに打ち明けようか。



 空はここ数日見なかったくらいどんよりと曇っていて、雨が降る前の匂いがする。


 馬車に乗るのは初めて。もっと揺れるのかと思いきや、電車くらいの振動だった。

 電車の振動は線路の継ぎ目で、馬車の振動はサスペンションが効いた車輪の振動、かな。どちらも、ウトウトと眠気を誘う。

 焦って車を走らせて荷物を壊すわけにはいかないからか、振動は一定で心地良い。馬車周りに焚きしめている魔物除けのお香が、余計に睡魔を誘う。


 ふわりと酔うような、ぼんやりと取り巻かれるような、そんな感覚に陥りながら、また夢に紫音が出てこないかな……と思ったけれど。

 何の夢も見ないまま、「メーヴ城が見えてきましたよ」とエルフ薬師さんに起こされた。



 ゲーム内で何度も見てきた城塞都市を、改めてフィールドから眺める。綺麗で、重厚で、様々な場面が思い浮かぶ、懐かしい景色。

 フィールドからこのビジュアルを仰ぐのが大好きだった。オープニングムービーではBGMと相俟って、ゾクリと興奮が駆け巡るワンシーン。


 いつも見ていた景色にアドレナリンが出そう……な、タイミングで、窓から吹き込んできた少し湿った風に、ゾクッと震える。今にも泣き出しそうな空が、丘に広がる広大な街の上に重くのし掛かる。


 なんとも言い表せない不安が広がる。

 好きかもしれない、と自覚した途端に、無性に会いたくなった。同時に、会うのが怖くもあった。

 会談を成功させなければならないというプレッシャーが、それに乗っかる。


 外城門が小さく確認できる距離まで近付いたところで、複数の馬が勢いよく走り出ていくのが見えた。

 その後を追うように、更にいくつもの馬車が飛び出していく。


「何かあったようですね」


 私と同じように城を眺めていたエルフのお姉さんが、困惑の表情で馬の影を見送る。

 

「まさか、開戦……?」

 

 興奮とは別の意味でアドレナリンが出た。そう、これは緊張。


 確かに、前線では未だ睨み合いが続いているはず。

 レオナルド様やマークは、戦闘回避が失敗した時のことだって考えているはずだけど。

 

「マッサージオイル、間に合わなかったかな」

「それならそれで、ビエスタ国内各地からの資金調達に使えばよろしいのですよ」


 薬師さんだとばかり思っていたエルフのお姉さんは、どうやら書記官さんだったらしい。

 ピ、と指笛を吹いて、上空を舞っていた鳥を呼び寄せ、何やらメモを書き付けて城へと放った。


「それに、早とちりはいけません。本当に開戦したのかどうか、分かりませんよ?

 今、メーヴ城へ確認をしているので、少々お待ちくださいな」


 う、それもそうだ。

 もしかしたら、開戦ではなく、別の何かがあったのかもしれない。

 ……別の何か、ねぇ……自分で言っておいてなんだけど、一体どんな可能性があるのかね。


「あら?」


 鳥の行方を目で追うために城を眺めていたお姉さんが、


「ロイさんがこちらへ馬を走らせて来ていますね」


 と、少し緊張した面持ちとなった。


「ミワ!」


 程なく馬車の横に馬を付け、手綱を操るロイが窓から私に声をかける。


「状況が動いた。……安心しろ、悪い話じゃない」


 私の顔色が悪かったのを見てか、ロイが咳払いして声のトーンを元に戻した。


「予定以上にすんなりと、和平交渉が行われることになった。というより、今から始まる」

「今からぁ!?」


 開戦じゃなかった。開戦ではなかったし、戦闘回避ができて良かった。

 それにしても早すぎないか!?


「荷物は後から追いつけばいい。とにかくミワ、必要な物だけ持って向かうぞ。馬に乗れ」


 馬に引き上げられた私の鼻の頭に、ぽつり、と雨が当たった。

 これから、何が起こるんだろう……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ