62.なんで今まで気付かなかったんだろう……!
たぶんね、たぶん。私が好きなのはマークなんだけど。
……自信ない……。
自分の気持ちなのに自信ない、なんてね。
もうちょい、もうちょいで吹っ切れる、気はするんだけど。
何て言うのかなー、今は仮説が立てられた状態、っていうか。
仮説を立てたら次に検証、それから結論なのだよ。
今はまだ、結論づけるには早すぎるというか。
「だーっ、こんなんだから頭でっかち屁理屈屋だって言われるんだよ!!」
まぁね、恋愛下手になったのは別としても、学生時代からこんな面倒臭い性格ですよ。
仕方ない、これが私なんだから。
そして、そんな私を笑って相手してくれたのが、紫音だったんだから。
そして……そんな私をのんびり待つと言ってくれたのが、マークで。
そういえば、夢の中の紫音から「これからどうしたいの?」って言われたっけ。
(これから、ねぇ)
どうするにしても、やっぱり生き残らないと。
そのためには、会談を是が非でも成功させないと。
フェイファーの目的が分からないから、このままでは和平交渉は難しいと思う。駆け引きの情報がないんだから。
だからソニア様は、この近辺では存在しないアロマオイルを、交渉の材料にしようとした。ここにしかないもの。それは強力な武器だ。
話しぶりからすると、生産権は渡さないように思えるけれど。貿易品として双国の経済連携を目指しているのかな。
ゲーム内の様子や、こちらに来て見聞きした情報からすると、ビエスタ国とフェイファー国との間に国交はなさそう。
国交がない状況で、どれくらいの交渉ができるんだろう。
国王に協力を要請しているとは言うけれど、そこまでの国の大事、いくらなんでもすぐに決められるとは思えない。
それとも、辺境伯としての権力をフルに使って、レオナルド様やソニア様が何とかするんだろうか。
(せめて、向こうの目的が分かればなぁ。こっちに有利に話を進められるかもしれないのに)
フェイファーには、既に聖女がいる。
ゲーム通りにエマちゃんを聖女として狙っているのであれば、聖女の存在を国内に明らかにするのは逆効果だ。軍の士気が落ちる。
それならやっぱり、今のフェイファー軍の目的は、別のところにあるはず。
落ち着いて考えろ。思い出せ。
ゲーム内の情報で、使えるものはないか。
フェイファーは聖女を捜し求めていた。
そして、1年ほど前にエマちゃんの情報を得て、ビエスタ国への進軍が決定される。
戦いを仕掛けてでも聖女を欲しがった理由とは。
ゲーム内で明言はされていなかったけれど、いくつかの情報がある。
ひとつ、敵将であり皇子であるシヴァが、聖女は皇国にいるべきである、という意識を持っていたこと。というより、皇室全体がそういう考え方を持っていたこと。
ふたつ、現皇王が軍事政治主義だったこと。
みっつ、過去クーデターを起こした時に復活した邪神は、時の聖女とシャイニー様の力をもって分割封印できたこと。
よっつ、今もなお、邪神の半身という爆弾が、国内にあること。
いつつ、現在のフェイファー皇国は、周辺諸国との関係が不安定であること。
こう考えると、皇国の思惑の予想がつく。たぶん、だけど。
聖女が他国で見つかった。しかし、その他国――ビエスタ国とは、そもそもが緊張状態にある。
聖女による邪神封印は行いたい。が、聖女を他国に取られたままなのは許せない。
ここで問題なのが、現皇王の軍事主義。自国へ聖女を迎えるために、外交ではなく、武力で解決しようとした。
結果、ビエスタ国へは、邪神封印の協力要請ではなく、聖女を奪うための宣戦布告が行われた。
……こんなところか。
さて、それじゃあ、実際に聖女を迎えたフェイファー国は、この後どうするか。
ゲーム内では、フェイファーが何か行動を起こす前に、ラルドたちがエマちゃんを救ってしまった。
それでは、ラルドが来なかったら?
アルバーノ神殿のティアラを聖女に授ける。そして聖女を国内に迎えたと公表する。それによって、周辺諸国への牽制を行う。
そして聖女には、封印の弱まってきた邪神を再封印してもらう。
そのために必要なのは――?
過去の封印と同じことをしたいなら、聖女の力とシャイニー様の力が必要。
現在、シャイニー様はビエスタ国首都にいる。おいそれと手は出せない。
では、もう一方、聖女の力を解放するには?
「あ……ユタル神殿」
そうだ、ユタル神殿じゃないか!
メーヴ城南西にある古い神殿。
ここは、クルスト王家が神と契約を交わした場所であり、聖女のティアラの力を解放するのに必要な場所でもあった。
ゲーム内でも、ティアラを手に入れたエマちゃんたちが、神殿で力を解放していた。それによって使える回復魔術が増えるんだ。
今、フェイファーには聖女がいる。それなら、同じ事を考えるんじゃないの?
聖女の力を解放させて、国内の邪神へ対抗しよう、って。
あわよくばビエスタ国にある邪神も再封印して、恩を売ろう、とか。
「あああ、マーク、マークに意見を聞きたい」
私だけじゃ、どうしようもない。
軍師補佐官は軍師じゃない。参謀でもない。
会談を成功させなきゃ、先はない。
成功させようと奔走するマークに、私は、私の知識は、役に立てるのかな。
パン! と両頬を叩いて、立ち上がる。
もう一度、深呼吸。
最優先事項は、これ以上悩むことじゃない。
早急にオイルを完成させて城に戻り、思い出した事柄を、マークに伝えること。
――あ、でも、せっかくの機会なんだから、トニーさんの言う通り、この清流の空気をオイルに閉じ込められないか、相談してみよっと!
それが成功すれば、それこそ、ここにしかない唯一無二の品になる。




