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RPGの世界で生き残れ! アラサー女の恋愛戦線  作者: 甘人カナメ
第三章 ゲームのストーリーよ、さようなら
57/136

57.恋愛相談? 脳内会議?



 途中からウトウトしてしまった私は、現世でも通勤電車で常に居眠りしていたタイプの人間です、ハイ。

 ロイが守ってくれる安心感もあったんだけどね。


 そんな微睡(まどろみ)の中、懐かしい、嬉しい、声が聞こえた。




 ******




 紫音とカフェで向かい合っていた。

 カフェなのに、紫音の前には凍ったジョッキのビールが置いてあって、私の前にはブラックコーヒーが湯気を立てていた。

 

 紫音は、高校時代からとてもとてもモテるけれど、絶対に浮気なんてしないし、誰かと付き合っている時に粉をかけてくる男には、割と手厳しいしっぺ返しをするような子だった。

 そんな紫音に、私は、怒られていた。



「誠実に向き合う、なんてことを口実にして、結局二人をキープしてるってことでしょ」


「そういう訳じゃ」


「あたしにはねー、自分をチヤホヤしてくれる男の人が出てきて、調子乗ってるだけに見えるもん。誠実とは程遠いな、って」


「そりゃ、だって。どうしたらいいのか、私、分からないんだよ。モテる紫音と私じゃ、違うんだよ」


「まーね、美和ちゃんとあたしじゃ、恋愛に対する姿勢は違って当然なんだけど。

 あ、もしかして美和ちゃんさー、あたしと違って、二股も三股も平気で、好意をくれる人には誰にでもいい顔をするタイプだった?」


「どう……なんだろう。でも、二股したいわけじゃない」


「じゃ、モテようが何だろうが、どこかで『付き合いましょ』か『ごめんね』か、そう相手に伝えて、誰か一人を選ぶのは一緒じゃない」


「待ってて、って言ったのが、私の行動だったんだけど」


「相手からしたら宙ぶらりんの生殺しよね」


「う、ん」


「ねぇねぇ。美和ちゃんは、この先、どうしたいの?」


「どうって、相手を知って、それから」


「ちがーう。そもそもね、美和ちゃん、誰かと付き合ったら、どうしたい? イチャイチャしたい?」


「いちゃ……っ!? えっと、うーんと。どこかへ遊びに行ったり、一緒にご飯食べたり、愚痴を聞いてあげたり聞いてもらったり、えーと」


「エッチしたり?」


「ええ? えー、あー、まあ、うん、私も大人ですし。結婚するまで絶対純潔、っていう思想も持ってないし」


「それで、その後、いつかは結婚したいと思ってる? それとも、恋愛だけで終わって、独り身を楽しむタイプ?」


「うーん。結婚したいとは思ってる、かな」


「じゃ、二人のどちらかと、もしかしたら結婚するつもりで付き合うの? それか、結婚相手はまたそのうち見つける?」


「う、うーん。分か、らない」


「うんうん、そっかー。お見合いじゃないんだから、付き合ってみないと分からないかもね。婚活してるんじゃないもんね。

 じゃ、付き合ってみて、結婚しても良いと思ったら。美和ちゃん、現代には戻ってこないつもり?」


「っ!」


「現代に戻るまでの期間限定で付き合う?」


「……それは」


「あたしだったらね、ずっと一緒にいたい、って思える人と出会えたら、きっと色々捨てて、その人に付いていくよ。それは、あたしにとっての優先順位が、その人だった、ってことなのよね。

 さ、美和ちゃんは、この先、どうしたいの?」



 いつの間にか、明るかったカフェ店内は、最後に紫音と会ったカジュアルバーに変わっていた。

 紫音の前にはやっぱりビールジョッキがあって、私の前にはギブソンが置いてある。



「これはね、純粋に疑問なんだけど。好きかどうか分からない、って、どういう状態なの?」


「いや、それはもう、言葉の通りで」


「んーと。ドキドキしたりしないの?」


「する」


「一緒にいたいなー、って、思ったりは?」


「するね」


「自分にできることはやってあげたい、とか」


「思う」


「ねーねー。もうそれ、好きになってるんじゃないのー?」


「だって、二人ともにそう思うんだもの」


「二股したくないから、ぐずぐず先延ばしにしてるの?」


「それもあるのかもしれないけど。でも、相手のことはもっとよく知っておきたいし」


「キリがないよ? 違う人間なんだもん、どれだけだって知らないことは出てくるし、付き合ってみることで分かることもあるよ?」


「それは。

 それは、誠実に向き合いたいからで……あれ? でも、そもそもその結論に至ったのは、トムの得体が知れなかったから、私が二の足を踏んだのがきっかけで。あれ?」


「相手の好意が自分の勘違いだったら恥ずかしいし、それからの人間関係もギクシャクしちゃうのは、何となく想像つくよ?

 相手に遊ばれて傷つくのも、あたしも経験があるから分かるし。

 だけどそれって、告白して、されて、相手のことを知った結果。の、一部じゃない?

 っていうか、そっちの方が、よっぽど誠実に思えるな」


「ん。紫音の言いたいこと、何となく分かってきたかも」


「美和ちゃんが、どちらかに決める踏ん切りが付かないのを、何だか色んな言葉で誤魔化しているだけに思えちゃって」


「そう、なのかもね」


「何か嬉しいことがあったら片方に天秤が傾くかもしれないし、何か幻滅するところがあったら、やっぱり片方に天秤が傾くだろうし。

 それはもう、ずーっと続くよ? それをずーーーっと、比べ続けるワケにもいかないんじゃない?」


「うん、分かる。でも、どうしよう」


「もう一回聞くよ? 美和ちゃんは、どうしたいの? この先、どうしたい?」


「結論は、まだ出せないよ。

 こうして夢の中で紫音と話せても、本当の紫音に会いたいから、ここに残る踏ん切りはつかないし。

 でも、マークやロイを(ないがし)ろにしたいわけじゃない。好き……だから、何か選ぶ決め手ができたら、お付き合いをお願いしたいし、一緒にいたいなって思う」


(うん、そうだ、ここは夢。夢の中……)


「ふふ。案外、一度ずつ、それぞれと付き合ってみるのもアリかもよー?」


「そんなこと」


「宙ぶらりんでいるよりはマシじゃない?」

 

「そう、なのかな」


「本人に聞いてみたらどう?」


「本人に、聞ける、かな。いや、うん。聞いてみようかな」


「ふふふ。じゃ、そろそろ起きよっか。またね、美和ちゃん」


「紫音。紫音、会いたい、私は二人も好きだけど、紫音も大好きなんだよ。

 皆、選びたい、選べない、優柔不断な人間なんだ」


 


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