56.出張気分のフィールド移動
風邪で体調不良まっただ中ですが、なるべく月水金のペースを保てるように頑張ります。
ダメだったらごめんなさい……。
おはようございます。渡辺美和です。
私、ただいま、馬に揺られております。
馬に乗ったのは、メーヴへ向かう道中、キャスパー王子の馬に乗せてもらった時以来です。
あの時はボロボロだったこともあり、馬に乗るのは大変だなあ、という印象が強かったのですが、今こうして再び乗ってみると、案外気持ちいいことが分かりました。
天気が良く、風が爽やかなのもポイントですね。
乗せてもらっている馬は、美人さんで、とても優しい雰囲気です。たぶん、賢さも併せ持っているんだと思います。気になるはずの獣臭さもほとんどありません。
一見のどかな遠駆け――速く走っているんじゃないけど――のように見えますが、実情は全く違うのが残念です。
「ふっ」
ザシュッ!
馬の首を巡らせて位置取りをしてから、長剣でバッサリ一撃。
うん、のどかとは程遠い世界ですよ、ここは。
私の後ろで手綱を捌いている兄さんのお陰で、いくら魔物が出ようと安心なんだけどね。
「さすがだねー」
「やっぱり、ミワには刺激が強すぎるか?」
「いや、なんかもう、ほとんど慣れた」
この世界に来て最初にエンカウントした時も、今日ここまで何匹かをロイが切って捨てている時も、そこまでのショックはなかった。
最初のアレは、命の危険を感じて感覚が麻痺しているだけかと思っていたけれど、そうでもなかったみたい。やっぱり繊細さとは程遠いね、私は。
「ビックリしてるのは、どちらかというと、ロイに対してかな」
「俺か?」
「そんな軽装でフィールド……じゃなくて、城の外に出るなんて驚きだったから。てっきり敵……魔物を避けて進むのかと」
「ん? これでも避けてるぞ?」
「マジですか」
「そりゃ、ミワを危険に晒すのは最小限にしたいからな。
それに、ミワだって、着ているものを汚されたくはないだろ」
そうなんだよ、着ているもの!
今日はかろうじて長剣を携えているけれど、ロイの格好は街歩きとほぼ変わっていない軽装なんだよ。
黒ジーンズに、黒い半袖Tシャツ、臙脂色のジャケット。
スタイル良いから何着ても似合う気もするけど、やっぱりこの人、お洒落が好きでしょ。戦う職業の人って服に無頓着、というのは私の偏見だったのか。
ちなみに私は、城表で買ったスキニージーンズに、ざっくりしたVネックシャツ。城表は城下町よりも少し物価が高いから、服は実用性重視でお洒落さは二の次。
絵を描く用の画材やら何やらを買いたいから、服への投資が少ないって理由もある。
最悪、ドロドロになったらポイっとできる程度の服だけれども、汚れないならそれに越したことはない。
だから、気にすべきは私の服よりも、お洒落なロイの服、じゃないかな。
「私の服はともかくとして、魔物を避けててもこれだけ遭遇しちゃうのかぁ」
「遠回りしすぎて移動に時間がかかるのもマズいし、その辺は適当に加減をしているからな」
ははあ、なるほど。
「このままのペースなら、何とか休憩なしで、森まで辿り着けそうだな」
そう、私たちが馬に揺られている理由。
それは、デイ森へと赴くためなのだ。
事のあらましは昨日の午後。
******
「うーん……」
つい数日前に、医務室で先生に引き合わされた薬師さん――トニーさんと言うらしい――が、書類を眺めながらワシャワシャと頭をかき回して、唸り声を上げる。
正式にお師匠様に引き継ぎが終わったらしいロイに、一通りの説明を終わったのがさっき。
お昼を挟んで、先生と薬師さんと私たちとで、ミーティング。
個人的には、彼にはもっと長く「アロマオイルプロジェクト代表代行」を務めていてもらう算段をしていたんだけどなあ。
ソニア様の指示からして、どうやらそう悠長にさせてもらえないようで。
仕方なく、私が再びプロジェクトリーダーとなりました。
まだ字の書けない私の代わりに、ロイが諸々書類に纏めてくれたのはとっても助かった。
戦士に何をやらせてるんだ、と、心の中でツッコミ入れたけどね。これじゃ完全に私の秘書ポジションじゃないですか。
ロイがまんざらでもなさそうな顔をしていたのが救い。
「薬師室に来た通達を見た時にも思いましたが。どう考えても時間が足らないんすよねぇ」
びっしり書き込んである手帳と、ロイの纏めた書類を交互に捲りながら、トニーさんはペンを指でくるくる回す。
口調といい仕草といい、徐々に地が出てきているようだ。
紅茶をがぶ飲みしながら横から覗き込んでいた先生が、
「ごちゃごちゃ考えるよりも、奥様が動いてくれる部分は全部丸投げして、アンタらは現物を作っちまえばいいんじゃないのかい?」
と、アドバイスをくれた。
「エルフとやりとりをしてる分だけでも、余計な時間がかかるだろ。ミワが直接動けるんなら、実際に向こうへ行ってさっさと物を決めてきたらどうだい」
デイ森へ行って、作れるだけ作って、持ち帰ってくる。
それがあるだけでも、最低限、交渉の席には出せる。
「やっぱりそれが一番かなぁ。あ、でも先生、前に『全部作るところまではエルフにお願いできない』って感じのこと、言ってませんでした?」
「だから、作るのはアンタら薬師だっての」
「あー……ん? え、じゃあ自分ら薬師室からも、誰かが森に行く!?」
先生と話していたトニーさんの目が、急に輝き出す。
「っしゃ! 早速室長に話をしてきます!
あ、ミワさん、そういうことで、続きはエルフの森に行ってからにしましょう!! 大丈夫です森行きは絶対自分が勝ち取りますから改良も中規模生産も自分に任せてください明日中には森に向かいますそれじゃ!」
机の上を大急ぎで片付けながらマシンガンのように捲し立てたトニーさんが、あっという間に医務室から出て行った。
………………。
あ、うん、何だか、なし崩し的に方向性が決まったね。
「侍女さんに、ソニア様への伝言をお願いしよう……」
明日から数日、デイ森へ行ってきます、ってね。
******
で、薬師さん(トニーさん来られると良いね)とは現地集合ということで、私とロイが馬で森へと向かっているわけで。
「それにしても、ロイだから、これだけアッサリ倒してるんだろうけどさ。薬師さんは敵に対抗できるのかな」
「魔物除けの薬か何かを引っ張り出してくるんだと思う。普通は貴族向けの道具だが、昨日の様子を見たら、それくらいはやりそうだな」
あー、あのアイテムか。それなら大丈夫、かな?




