53.部隊長への説明
体調不良のため、更新が変則的になっています。
(月水金→次回は火曜日の予定です)
私は今、軍師補佐官としての仕事が一応、一応あるので! しばらく代行としてこの話を進めてくださいお願いします!!
……と薬師さんに頼み込んで、ようやく医務室を後にした。
期限を明言しなかったのはわざとだよ。ごめんねお兄さん。
うん、まあ。当初の目的の頭痛薬の他に、新しい試作品のサンプルが貰えたのは良かった。
アロマオイル市販化の話が思った以上に動き出してしまっているのは少し困ったけれど、如何せんソニア様が噛んでいる。腹を括って、本格的に取りかからなきゃまずいな。
部隊長の集まる作戦会議が終わったら、ソニア様に面会して、状況報告をしないとなぁ。
マークのところへ戻った途端、会議室へと促された。
え、もう? 心の準備ができてないんですけど?
「ミワはひとまず、俺の隣で澄ました顔でもしていればいい」
「それは助かる。軍のお歴々に対して堂々と発言する勇気はないからねぇ」
「登城早々、俺やレオナルド様に向かって啖呵切った人間とは思えない言葉だな」
「いやいや! この前の、ケインやマリクさんとの話し合いだって、内心めちゃくちゃビビってたんだからね!?」
「だと思っていた」
「こんなんでも小心者なんですぅ。
だってさ。最初のあれは、自分の命しかかかってなかったから。……今度のは、兵の皆さんや、下手したら多くの一般人の命運もかかってくる、重要な作戦会議だし」
「だから、俺がいる。ミワが気負う必要はない」
並んで歩くマークを見上げる。
それに合わせてこちらを向いたマークは、少し目元を緩めて微笑んでいた。
――だからっ! 不意に向けられるイケメンの微笑みは、心臓に悪いんだってば!!
ドギマギしてさっと顔を逸らせたのに、今度は手を繋がれた。
「告白した夜、黙って待つ、とは言ったが。俺が何も仕掛けないとは言っていないぞ?」
うん。もう私の処理能力を超えました。
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「さて、多少は緊張が解れたか?」
会議室の近くまで来て、ようやくマークが手を離す。
いや、確かに会議に対する緊張は消えたけれど、別の意味でガチガチだったよ。誰ともすれ違わなかったのは幸いだった。
「お待たせしました」
それこそ澄ました顔して、マークが会議室へ入っていく。なんか悔しい。
とにかく平常心、平常心っ! またレオナルド様に変な誤解を与えちゃうから!
深呼吸して、顔が熱くなっているのをパタパタと冷ましてから、ようやく私も入室する。
部屋には、既に国軍7番隊隊長さんと、ラルド、エマちゃん、ケイン、赤女史セリアが揃っていた。
ラルドとセリアは私の顔を見て怪訝な顔をしたし、エマちゃんに至っては「ミワさん? どうしてここに?」と直球で質問してきた。
曖昧に笑って誤魔化し、マークの横へ座る。
それだけで、国軍隊長さんだけは一つ頷いて、私への関心を失った。合流して日の浅い彼にとっては、私の存在はさほど奇異な物でもないらしい。
私が着席した後に入室したキャスパー王子は、私を見て僅かに眉を上げたものの、すぐに穏やかな笑みに戻って着席した。彼は私が異世界人だってことまでは知っているから、その辺に理由があると判断したのかもしれない。
残るは、ロイとマリクさん。
王子が優雅にお茶を飲み出してからさほど経たないうちに、二人は到着した。
「なんでミワがここにいるんだ」
私の顔を見て、ロイが開口一番問いただしてきた。
ですよねー。私が忙しくしていることまでは知っていても、人事までは知らなかったよねー。
これまた曖昧に笑って誤魔化す。大丈夫、すぐに話があるから。
全員揃ったのを確認して、レオナルド様が口を開いた。
「揃ったな。
ビエスタ国王へは早馬を走らせているが、時間がないため、国軍隊長のロバート殿に名代となってもらう。
キャスパー王子も同様。デイ王に知らせは持って行っているが、この場では王の代理として参加してもらう。
セリアも、本来ならウォーカー家当主のサミュエル殿か、セリアの兄上のディーン殿に出席してもらいたかったが、時間がない」
名指しされた三人が、何となく視線を交わしている。
そう。彼らには、それぞれに早馬で知らされた内容を補完するため、ここで話し合った内容を伝えて貰う役割がある。ラヴィソフィ国の秘密を知る、重要人物たちへ。
ぐるりと場を見渡したレオナルド様が、結論を言い放つ。
「作戦を大幅に変更だ。我々は、今のフェイファーと事を構えるのが不可能となった」
各々から、声にならない息が漏れる。
「理由は聖女の存在だ」
レオナルド様が話し出す。
フェイファー国とビエスタ国に封じられた邪神のこと。
邪神の復活が近いこと。
それに合わせて、邪神に対抗できる聖女が現れること。
聖女と、ビエスタ国に保管されている杖が、邪神の封印に必要なこと。
聖女なしでは、戦の結果がどうであれ、早々に皆が滅ぶこと。
だから、聖女が戦場に出てきているのであれば、万が一を避けるためにも、戦いを回避する必要があること。
そして、民の不安を煽らないためにも、この話はそれぞれの主君以外には口外しないこと。
ビエスタ国王、デイ王、ウォーカー家当主は、邪神の存在を知っているため、この決定を知らせて、今後の協力を仰ぎたいこと。
――ラルドやクルスト王家の話を上手く誤魔化しながら、レオナルド様は話し終えた。
「具体的な策は、私から説明します」
レオナルド様の後を引き取って、マークがスッと立ち上がって話し出す。
話されている内容は、現場に出たこともない、軍の動きを知らない私には、大部分がよく分からなかった。ゲーム内での戦争ターンは、もの凄く簡略化されたものだったんだなぁ、と、机上に広げられた地図を眺めながら、ぼんやり思う。
一通りマークの説明が終わった後、再度レオナルド様が口を開く。
「今までの私の予想では、エマが聖女だった。確信に近かったと言ってもいい」
「私!? ……ですか?」
慌ててエマちゃんが語尾を整える。最近はラルドたちと行動することが増えていて、口調が砕けたままだったんだね。
「聖女の条件に、回復魔術を扱えることが挙げられる。
邪神の封印に回復魔術の一端が必要となる、と伝えられているからだ」
コクリ、とエマちゃんの喉が鳴る。
エマちゃんにとっては青天の霹靂だよね。いきなり自分が、世界を救う重要人物だと知らされたんだから。それも、共に戦う、ラルドという存在を知らされないまま。
大きな脅威に一人で立ち向かわなければならないと思っているはずだ。
ラルド自身はどうだろう。ケインからもう事情は聞いたのかな。
私にはそこまで分からないけれど、彼らの対面に座っている私には、机の下でラルドがエマちゃんの手を握っているのが見えた。
「それでは、フェイファー軍にいる聖女とやらは、偽物なのですかな」
国軍隊長さんが、皆を代表するかのように質問する。
「それは分からない。だが、エマの他にも聖女が存在する可能性は捨てきれない。エマが聖女ではない可能性だってある。
だからこそ、現時点では双方の聖女の安全を確保した上で、聖女の証であるティアラの見極めが必要となる。
――そこで重要な役割を果たすのが、この、軍師補佐官のミワ・ワタナベだ」
場の視線が、一気に私に刺さった。
着席していたマークが、ラルドと同じように、そしていつかの会議の時と同じように、私の手に手を重ねてくれる。
そして、離れた場所に座っているロイは、戸惑いと心配をその目に乗せて、私をじっと見ていた。




