30.Old days・1
8/11~8/16の間は、更新が不定期になる予定です。
「うるせぇ、お前らきぞくがしっかりしねぇから、オレらみたいなのがふえるんだろうが!」
「なにを言う、父上たちはよくやっていると、この前、王さまからじきじきにしょじょうをたまわったんだぞ!」
「紙きれがなんだよ! そんなものより、せんそうを何とかしろよ!」
「だからたんさいぼうはこまるんだ。かんたんにどうにかなるなら、とっくにへいわになっている」
「はっ、何だよあたまでっかちが!」
「また来たのかよ、きぞくのボンボンのくせに。またオレらをわらいにきたのかよ」
「こじいんへのいもんは、ノブレスオブリージュなんだ」
「なんだそのヘンテコな名前!」
「これ! あなたがこの前坊ちゃまに暴言を吐いたのに、またわざわざ訪ねて来てくださったんですよ!? 相変わらず何て口の利き方ですか!」
「オレわるくねーもん。こいつだってきぞくのくせに口がわるかっただろうが」
「年上のくせに大人げないぞ」
「オレまだ大人じゃねーよ! 10さいだ!」
「ボクだって7さいだ!」
「ガキじゃねーか!」
「ガキ大しょうはきみじゃないか!」
「なんでそんな木刀をふり回しているんだ」
「お前かよ。よくあきないな」
「しっかり見ておけと、父上や兄上がおっしゃる。ボクも大きくなれば、せんそうを止めるたちばになるのだから、知っておけと」
「あーそうかい。でもな、お前じゃなくてオレがせんそうを止めてやる」
「君一人でできるとでも思っているのか?」
「ばかじゃねーの? オレは強くなって、なかまをたくさん作って、その先頭に立つんだよ」
「そんなうで前じゃ、とてもトップには立てないだろうけどね」
「なんだよ、ボンボンのくせになまいき言いやがって!」
「じゃあ、ここでボクとしょうぶしてみるかい?」
「おい! ボン、今日こそリベンジだ!」
「まだあきらめないのか。けんじゅつを習っているボクには勝てないって言っているだろう」
「オレは強くなるって言っただろ! こいつらを守るためにはいくらでもどりょくしてやる」
「っしゃ! ボンにようやく勝ってやったぞ!」
「ガキ大将のくせに。こんなにすぐ、ボクが負けるなんて思わなかった」
「何でいまだにガキ大将よばわりなんだよ、ボン」
「君がボクをボン呼ばわりする限り、ボクは君をガキ大将と呼ぶと決めたんだ」
「何だよ、しつけーな」
「ほら、これ」
「何だい、これは」
「俺の親の形見」
「なっ……そんな大事な物を、ボクに見せていいのか?」
「お前は戦争を止めるんだろ。俺たちだけじゃなくて、死んでいった俺らの親のことも知っておけよ」
「……分かった。ボクは……たとえ大きくなって軍をしきする立場になっても、できるだけ人が死なないように、どりょくしよう」
「おう、それでこそボンだ」
「あっ、こら、かみをぐしゃぐしゃにするな! ボクはガキ大将の弟分じゃないんだぞ!」
「弟分だろうが。俺より3つも年下だ」
「もう、ここには来れない」
「は? ノブ何とかはどうしたんだよ」
「兄上から苦言をもらった。あまりに平民に染まりすぎていると」
「何じゃそりゃ。貴族はやっぱり勝手だな」
「……そうだな」
「あ? 気が抜けるな。どうしたよ」
「申し訳ない。ボクの勝手に振り回して」
「別にどうってことはねーよ。ボンのお陰で俺も強くなった」
「本当はボクも、まだまだここに来たい」
「じゃ、こっそり来ればいーじゃん」
「いくら四男でも、一人で市井に出るわけにはいかない」
「しせい? あいかわらずむずかしい言葉を使うな、ボンは」
「ガキ大将とは受けている教育が違うからな。頭でっかちにもなるさ」
「んだよ。まだ覚えてたのかよ、しつけーな」
「君こそ。言われた方はともかく、言った方は忘れるものかと思っていたよ」
「あー。……俺もキツい言い方して悪いと思ってたからな」
「気が抜けるな。傍若無人のガキ大将なのに」
「君かい? 弟と仲良くしているというのは?」
「……あんたがあいつのいう『兄上』か」
「うん、話は聞いているようだね。あの子、釘を刺されたのにまだここへ来たがってね。そろそろ勉学の時間が増えて、あまりここへ入り浸る訳にもいかない。正直に言って、君の影響だと思っている」
「ま、否定はしないけど」
「もう、関わらないでくれるかな?」
「……一度だけ。あいつと話をさせてくれ」
「私の立ち会いの下で良ければ、一度だけ許可しよう」
「……済まない」
「謝るなって。俺もそろそろここを出て、もっと剣の腕を磨くつもりだった」
「そう、だったのか?」
「だからよ、大きくなったら、俺を使ってくれ。いつかお前の役に立つように、ずっと努力し続けてやるから」
「それじゃあ、ボクも今以上に勉学に励もう。君を戦場で死なせないように」
「約束だぞ……マーク」
「あぁ。……ロイ」
「君はああ言ったけれどね。マーカスは四男だ。実際に軍に関わるとしても、精々が書記官止まりだろう。あの子を変に惑わせないでくれ」
「そんなつもりはない」
「……これを」
「何だよ、この封筒」
「もう二度と、あの子に近付かないのであれば、これを君に渡そう。同額を、孤児院にも寄付する」
「馬鹿にすんなよお貴族様! 俺とマークは友達だ、何で将来友達に会うのにあんたらに制限されなきゃならねぇんだよ!」
「これだから困るんだ。平民の、しかも孤児の一人が、ベルフォーム家と同等だと錯覚でもしているのか?」
「何がベルフォーム家だよ、あいつは貴族である前にマークだろうが!」
「ふん。――せいぜい、戦場で死なないことだな。私にはどうでもいいことだが」
「うるせぇ! せいぜい、後で吠え面かきやがれ!!」




