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RPGの世界で生き残れ! アラサー女の恋愛戦線  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
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29.それぞれの仕事



 考えておく、と言葉を濁したら、また苦笑したマークが「ミワの好きにすればいい、俺は君が決断するまではノータッチでいよう」と約束してくれた。


「初対面の時にミワが言った、『勝利のために口を挟まない』という言葉。つまり、俺の取る行動、俺の練る作戦は、きちんと勝利へ繋がるものなんだろう? それが分かっているだけでも心強い。

 君が、自分も何かしたいと言ってくれるならば、ありがたく手を借りよう。それで何か不味い展開になれば、きちんと報告してくれるとも思っている。

 だから俺は、無理強いしようという気はない。もっとも、ソニア様やトム様が君をどう扱うかまでは保証できないがな」

 

 こめかみと後頭部を解すためにマークの横顔を窺うと、本当に穏やかな顔をして目を閉じていた。うん、顰めっ面していると頭痛も酷くなる。できればいつもそういう顔をしていてほしい。


「ところでミワ。これからも昼間、時間の空いている時でいいから、ここまで来てマッサージを頼めるか? 俺が休憩を取れない時であれば無駄足になってしまうが」

「ん? いいよ、特別何かしている訳でもないし。オイルの話は先生や薬師さんたちとの共同作業になりそうだし、あとは図書室で勉強しようかと思ってるくらいだから」

「助かる」

「ふふ、これも軍に関わることかもね」

「……そうだな。軍師の補佐だ」

「それは重要な仕事だなぁ」



 こんなに穏やかに、マークと話ができる日が来るなんて、城に来た当初は思ってもみなかったよ。




 ******




 もうそろそろ内紛イベントが起こるかな、というある日。私は再び、ロイと城下町へ遊びに行くことになった。

 ちゃんと買ってもらった服を着てきたよ!


「悪いな、今日は無理に休みを合わせてもらったみたいで」

「いや、だって。ロイ、明日から戦いに行くって聞いたから」


 今回のイベントでは、ロイは傭兵隊隊長ではなく、ラルドたち斥候工作員の護衛とお目付役ってところ。クルスト軍からは、傭兵隊第三部隊が救援に出るはずだ。テオさん頑張れ。


「ん。まぁ……フェイファーじゃなくて身内ってのがなぁ。もうちょっとお偉いさん方で、戦わず何とかしてくれりゃ良かったんだが」


 そう言って、どこか眩しげに目を細めて、遠くへ視線をやる。

 その様子を少し離れて眺めていて、はっと気付く。

 真っ白なTシャツに腕まくりした水色のジャケット、黒のダメージジーンズ、赤いベルト。

 これはもしや……。

 自分の格好を見下ろす。水色のノースリーブシャツ、黒のレザーパンツ、赤いネックレス。

 ぺ、ぺ、ぺ、ペアコーデというやつじゃないですか!?

 っていうかロイ、なんでそんなお洒落服持ってるのさ!? いや似合ってるけど、格好良いけど!!

 気付いた途端に挙動不審になってしまった。


「フェイファー相手じゃなくとも皆無事ってわけにはいかないだろうが、何とか被害を……ん? どうしたミワ」

「や、いやいやいや、え? 何でもないよ!?」


 落ち着け私!


「まあいいや。シケた話してないで、どっか行こう。今日はどこか行きたい場所、あるか?」

「あー、えぇっと。侍女さんに教えてもらった、美味しいお菓子のお店に」


 店の名前を告げると、「じゃ、今日はそこから前回行けなかった所を回るか!」と、ニコニコして歩き出してくれた。

 深く聞かれなくて良かった。


 

「そういや今日はいつもより何か良い匂いがするな」

「あ、気付いた?」


 今日は仕事がないから、朝ゆっくりとマッサージして出てきた。

 香りが残っていたんだろう。

 

「戦場では嗅覚も重要だからな。植物の匂いか?」

「うん、レモングラスっていうんだ。最近、エルフの皆さんや薬師さんたちに手伝ってもらって、マッサージオイルを試しに作ってて」

「なんだそれ?」


 街を歩きながら、ロイに経緯をざっくり話す。


「まだ私以外に使ったのは一人だけなんだけど」


 と、マークとのことを話そうとしたら、その前にロイがずいっと顔を覗き込んできた。


「面白そうじゃねえか。俺もお願いしてもいいか?」

「え、うん。構わないけど。でもロイ、肩凝りとか無縁そ――」

「うっし、じゃ、街歩きは早めに切り上げるか! 次の休みにまた来よう。約束だ、ちゃんと戻ってくるさ」

「ちょ、まっ! おっ、お菓子! お菓子だけは買わせて!!」


 話を聞かずそのまま引き返しそうだったロイを何とか留めて、お菓子屋さんと昼食だけ食べるショートコースで城下町を巡らせてもらった。はぁ、外に出られる貴重な機会を逃すところだった。



「ロイには本当はティーツリーがあればいいんだけどなあ。手元にないから、うーん」


 部屋に戻り、ついでだからそのまま上がってもらって(少し躊躇されたけど、そんなに部屋は汚くなかった……はず)、香りのチェックをしてもらう。ラベンダーだけ無理みたい。

 ロイは仕事柄、怪我が多い。今日も腕にいくつか切り傷が残っている。

 ティーツリーは確か抗菌作用があるはずだから、それを使いたかったんだけど。えーと、レモングラスは……筋肉の凝りと集中力アップ以外に、何か効果あったっけ?

 あぁ、うろ覚えすぎる。こうなったら、それぞれの作用に関しても、エルフの皆さんと薬師さんと先生に確認してもらおうかな。

 レモングラスとミントで悩んだ結果、「ま、効能はこの際置いておくか」と開き直って、ミントを手に取った。


「はい、じゃあジャケット脱いでね」


 相変わらず素晴らしい筋肉ですねお兄さん。


「おう、シャツも脱ぐか?」

「んー……いや、今日は腕と手を中心にしよう。無理したら私の手が壊れそう」


 笑いながら却下する。筋肉の塊に挑むには、私は力不足すぎる。せめてマークくらいの相手なら、ねぇ。

 ぐいぐいと頑張って、肘より先と手のひら、指をマッサージしていく。


「白いシャツは、な」


 私の手の動きをじっと眺めていたロイが、不意にぽつりと呟いた。


「俺にとっては、平和の象徴なんだ。返り血もなく、自分の怪我もなく。これを毎日着られる日が来るといいと思っている。……傭兵のくせにな」


 ま、戦がなくなったその時には、また別の仕事を探すのもいいかもな、と笑うロイに、私はとても、とても、胸が締め付けられた。


「いつか俺たちの仕事が必要なくなって、こうしてのんびりとできる時間が続くように。力を持たない人を守るために。俺は全力を出すさ」


 マッサージが終わり、肌をタオルで拭ってあげながらへにょりと笑った私に。やっぱり頭ぐしゃぐしゃはされず、代わりにゴツゴツした指の背で、そっと頬を撫でられた。

 まるで、私が泣いていたかのように。



(絶対に無事に仕事を終えてくる。約束だ、ちゃんとここに戻ってくるさ)

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