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RPGの世界で生き残れ! アラサー女の恋愛戦線  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
27/136

27.残業は推奨されません



 話は変わって、最近の戦況や情勢の話に移った。

 当たり障りのない部分が主だけれど、三人の話を聞く限り、国からの援軍がなかなか編成できない状況らしい。貴族がらみだということで、話が拗れて厄介だとか。

 なるほど、内乱紛いの一悶着イベントがそろそろ発生するのか。

 であれば、ラルドは下っ端から斥候工作員に引き立てられた頃かな。

 傭兵隊を率いるロイとも、こうして和気藹々とした飲み会をするのは徐々に難しくなってくる。

 

「せっかくこうやって知り合いになれたのに、ロイも、マリクさんやテオさんたちも、もうすぐ本格的にお仕事なのかなぁ」

 

 寂しく思うけれど、飲み会よりも仕事が大切。そして私はマリクさんやテオさんの無事を祈ることしかできない。

 あ、ロイは無事だって知ってるからね。怪我が少ないといいなぁとは思ってるよ!


「傭兵さんに、『生きて帰ってきてください』って、言っちゃダメですよね」

「望んでくれるのはぁ嬉しいよおぅ? ただねぇえ、自軍に勝利をもたらすのがぁ、ボクらの仕事だからぁ。作戦次第では、ねぇえ」

「マークのことだから、殊更に兵を使い捨てる作戦は立てないとは思うが、断言はできないからな。俺から進言したところで、全体を見て決めたと言われちゃ、黙るしかない」


 そういえば、気になっていたことが。


「ロイ、マーカスさんのこと、だいぶ知ってる口振りだよね。いつから知り合いなの?」


 私と出会った当初でも、ロイはマーカスのことをよく知っている雰囲気だった。だけど、二人の接点はゲーム内にも設定資料集にも書いていなかった。


「ああ。まだガキの頃だよ。あいつの実家、ベルフォーム家の近くの孤児院で、俺は育ったからな。……まぁ、あの頃のことはあんまり思い出したくないんだが」


 苦笑するロイを見て、慌てて詮索する気がないことを伝える。

 ちょっと気になっていただけで、ロイの古傷を抉るつもりはない。


「少しでも戦況を良くして、俺ら傭兵自身の生存率も上げるのが部隊長の仕事ってやつだ。ここにいる俺らは、なまじ強いだけじゃねぇんだぞ、嬢ちゃん」


 最近ロイがやってくれなくなった頭ぐしぐしを、テオさんにやられる。

 慌てて撫でつけて、絡まった髪を直す。

 ぶーたれながらお酒のお代わりをしようとしたところで。


「ミワ。少しいいか?」


 食堂兼酒場の入り口で、マーカスがちょいちょいと指先だけで『こっちへ来い』と合図していた。




 ******




 マーカス自身がわざわざ私を訪ねてくるなんて何事だ、と驚いた私は、ロイたちに一言謝ってから席を立つ。

 思わぬ場所に思わぬ人が立っていた衝撃が強すぎて、マーカスが私の名前を初めてまともに呼んだことに気付いたのが、彼の横へ並んだ時だった。


「一体全体どうしたんです、マーカスさん。色々驚きなんですけど」

「いや。部屋に訪ねたら、近くのやつから、酒場じゃないかと聞いてな」


 うん、いつもお隣さんとは晩ご飯の前後で会う。飲む時には会わないから、ここにいるんだろうと分かったんじゃないかな。

 それにしたって、部屋を訪ねた上に酒場にまで来るとは。本当に何が起きた。


「頼みがあってな。その……」


 珍しく歯切れ悪く、なかなか言い出さない。マーカスの歩き出す方向へ合わせて横に並びながら、整った横顔を見上げる。この人も、ロイほどではないが背が高い。


「……この前の、オイル。また、肩周りのマッサージを……してもらえないか?」


 目を泳がせたマーカスが、小声で申し出てきた。

 もしや。


「やっぱり頭痛、少しマシになりました?」

「あぁ、だいぶ助かった」


 おぉ、被験者その一は効果を実感してくれたらしい。

 私自身もその後毎日使って楽しんでいるとはいえ、他の人も良いと思ってくれるなら単純に嬉しい。多少のお裾分けなら喜んでしよう。

 オイルの量がそんなにないから大勢に配ることはできないけれど、これなら先生や薬師さんにお願いして、見積もりを出してもらってから正式に購入しても良さそうだ。


「いいですよ。それじゃ、一旦オイル取りに私の部屋に戻りますね。また医務室行きます?」

「いや。できれば私の執務室でお願いできるか?」

「どこでも構いませんよ」


 二つ返事で引き受けた。



 久しぶりに入ったマーカスの執務室。前は縛られた上に机から遠い、入り口近くまでの入室だったけれど、今日は中程にある応接セットまで招き入れられる。


「いいんですか、こんな奥まで」

「目に入ってもいい書類しか出していない。それに、あまり遠いと明かりが届かないだろう」


 部屋全体が煌々と照らし出されている訳ではない。明るいのは執務机の近辺くらいだった。ちょっと意外。

 

(でもさ、目を悪くするとか肩が凝るとか、こういう環境にも一因があるんじゃないの……?)


 む、と口を尖らせて周囲を眺める。

 私の心の中を読んだのか、


「夜遅くまでかかっても仕事をするように、とレオナルド様から指示されているのではない。だから、軍資を自分のために見境なく使うのは良くないと思ってな」


 言い訳のように頬を掻いている。

 城内の明かりは基本的にアルコールランプのようなものか、蝋燭か。高級なところだけ、火の魔術を一定時間封じ込められる、耐魔術の水晶玉のようなものが設置されている。魔術を常に使いつつ他の仕事をする、なんて芸当は、きっと簡単にはできないんだろう。

 マーカスの部屋にも当然水晶玉もどきが置いてあったが、今は明かりが点っていない。代わりに、倒れないように固定されたアルコールランプもどきが数個、部屋を少しだけ明るくしている。

 書類仕事をするんだから、燃えないように水晶玉もどきを素直に使ったらいいのに……。


 肩凝りの原因説や火事の危険性を口にするも、


「どちらにしろ、今日はそろそろ切り上げるつもりだったんだ。これが頭痛にも繋がるのなら、今後は少し考える」


 と苦笑いされただけだった。

 少しじゃなくて、真剣に考えてください……。

 


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