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RPGの世界で生き残れ! アラサー女の恋愛戦線  作者: 甘人カナメ
第一章 ゲームの世界へ、こんにちは
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11.生活のリズムはつかめそうです



「おはようございます、今日からよろしくお願いします!」

 

 気合いを入れて、今日から働く職場――城表の食堂のキッチンへ入る。用意されていたエプロンもキリッと身につけているよ。

 シェフはがっしり体型で、ぱっと見は兵士と言っても違和感のない人だった。職人気質の気難しい人だったら気を遣うな、と覚悟してきたけれど、案外気の良さそうなおっちゃんでホッとした。

 

「おっし、じゃあまず、お前さん、自分の朝メシ作ってみな!」


 お手並み拝見、ってとこかな。朝からあまり重いものは食べられないんだけど、どうしようかな……。

 使って良いと言われた食材を眺めながら、献立を考える。


 この世界、基本は近世欧州をモチーフにしているけれど、中身は色んな文化がチャンポンになっている。その方がユーザーには受け入れられやすかったんだろう。

 料理アイテムひとつとっても、洋食和食中華アジアン何でもござれだった。

 ゲーム内で分かっていたから、実際に醤油や味噌らしき調味料を見ても、やっぱりな、って感じだ。


 んー、でも今日は、洋風朝ご飯でいこう。本当は昨日の朝、出勤前に食べようと思っていたメニュー。ちゃんと前日から仕込んでいたのに食べられなかったメニュー!

 仕込み時間は短くなるけど仕方ない。食べられないわけじゃなし。


 ってなわけで。


「できましたー。フレンチトーストと、コンソメ野菜スープ、ベーコンサラダです」


 フレンチトーストはシナモンかけて。コンソメスープは野菜ゴロゴロ具だくさん。サラダのベーコンはカリッカリに焼いて。冷たい牛乳もつけちゃうよ!


「うん、手際いいな。ちょっと試食させてくれるか?」

「はい、どうぞ。全部食べるのだけはナシですよ」

「わーかってるわかってる。――うん、まだまだレベルアップは見込めるが、まずくはない。これならいけるな。

 よし、それじゃ出来たてアツアツのうちに早く食べてやれ!」

「はいっ、いただきます!!」

「それから、今日の朝メニューはそれでいくから、食べたら仕込みよろしくな!」

「はいっ……はい?」


 ちょっとちょっと、さすがにそれは展開早すぎないですかね!?



 よくよく話を聞くと、これを機に女性向けメニューを展開しようとしているらしい。まずは、本格的料理としての質よりも、家庭料理程度の味でいいからメニューを増やすことが第一だとか。

 朝からがっつり肉盛りだくさん! なんて、育ち盛りの少年たちやパワー溢れる兄さん姉さんオジさんたちには好評だけど、早番の事務女性や寝る直前の宿直員なんかには不評だと。そりゃそうだろう。

 でも、朝イチから入ってる料理人はシェフひとり。需要の多い方だけを提供してるのが現状。

 シェフはそれだけで手一杯、見習い君たちでは新メニューを任せるにはまだ不十分。で、選べる朝食の構想だけあったもののまだ手付かず……というところに、私が来た。


 だから朝から昼までの勤務時間を提示されたのか。納得。納得はしたけどビックリだよ。

 しばらく提供量は様子見だけど、ともあれ作れる分だけは作ってほしい、という要請により、予想以上にハードな勤務初日が始まった。



 昼の忙しい時間帯はキッチンメンバー――複数のコックや見習い君たち――も増員され、目の回る忙しさ。私は必死に洗い物。

 そしてようやく、今日の仕事を終えた。

 緊張もしたけれど、これならなんとかやっていけそう、かな。


 夜は食堂兼酒場となるため、遅い時間まで開いている。完全に閉まる前ならいつでも晩ご飯食べにおいで、と言ってもらえた。助かります。




 ******




 のんびりお風呂に入ってから、城内を散策してみる。

 とにかく広いから、数時間で見て回れるわけがない。これから数日は、仕事のち風呂、のち散策……という生活になりそうだ。



 夕食後、ふと思い立って、中庭に足を運んでみた。確か、人目に付かない奥の方に、夜ぼんやりと光る花があったはず。通称、秘密の花園。


 ここでイベントが起こるのは、主人公ラルドと幼馴染みケインが軍に入って最初の仕事を終えてきた後。もう少し先のはず。いつイベントが始まるかハラハラしながら機会を窺うより、今のうちに堪能してしまおうという魂胆だ。

 ここでのイベント、初プレイ時は綺麗な描写も相まって「主人公ロマンチック……!」ってじーんとしたものだけど。

 今考えると、それこそハイティーンの特権だったんだろうな。男の子にしては頑張った、うんうん。きっと後で思い出して、恥ずかしいことした! ってゴロゴロ転がっちゃうやつだね。……という、甘酸っぱい青春に思いを馳せる感じ。

 私はそんな青い経験ないよ。一度してみたかった。学生時代は戻らない。


 実際訪れると、空を見上げた時の星空と地表の花とで、確かにぽーっとしてしまう風景だった。知る人が少ない分、解放的にもなるし。

 心のもやもやが晴れていくような、でも少し物悲しいような、懐かしいような、新鮮なような、色んな気持ちがぶわぁっと湧き出てきて。

 ――小声で歌を口ずさんでいた。ブルフィアと出会った頃の、紫音と仲良くなった頃の、懐かしい歌。


「いい歌だな」


 一番を歌って息をついた時、後ろから声をかけられた。

 飛び上がって振り返ると、ロイが立っていた。


「ここ、知ってたの?」

「そういうお前さんこそ。やっぱり不思議なやつだなぁ、ミワは」


 今までのロイよりだいぶ小さい声量で話をしながら、私の横へ並んだ。


「不思議なやつだけど、レオ様が受け入れたんなら、間違いない人間なんだろ。

 ようこそ、メーヴ城へ」


 右手を差し出され、ほんのり嬉しくなってこちらも握り返す。

 と、急に腕を引かれた。ロイに抱きしめられる。

 静かにパニックになったせいで、


(あ、メガネ、潰れなくて良かった。てか、私も結構背が高いのに、ロイはめちゃくちゃ大きいんだなぁ。いくら設定読んでいても身長までは覚えていなかったや)


 と軽く現実逃避。

 頭の上からロイの静かな声が降ってくる。


「俺は孤児だったから、ミワの寄る辺のなさ、少しは分かるつもりだ。何かあったら頼ってくれ。できるだけ話を聞くし、手助けできるなら助ける」


 ポンポンと優しく背中を叩かれてから、身体を離される。

 あぁ、これ、いわゆるハグってやつか……。


「ありがとう、ロイ」


 軽いスキンシップ程度で赤くなってしまった顔を上げるのは恥ずかしいけれど、このくらいの明るさなら分からないだろう。

 にっこり笑って、心からのお礼を述べる。凄く凄く、心強いよ。


 頭に向けられたロイの手は、何もしないまま、躊躇うように下ろされてしまった。今回は頭クシャクシャしてくれないのか。残念。




 ******




 中庭に面する位置、秘密の花園の後上方にある窓からうっすらと光が漏れていたことに、ミワは気付いていなかった。

 窓際にいた人影が、彼女を見下ろしていたことも。

 


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