狂ったHR
──これはなんの代わりもない私立高校で起こっている”狂ったホームルーム”
俺は、その全てを。全貌を。
包み隠さず、ありのままでこれからこの腐った日本に、世界に配信していく。
さぁ、平和に目の眩んだ人々よ。これが「平和主義日本」の本来の姿だ。
『可笑しい』『狂ってる』
本当に?
本当に、俺達が、狂っているというのか?
本当に狂っているのは
平 和 に 目 の 眩 ん だ お 前 達 じ ゃ な い の か
さぁ、余談は終わりにしようか。
これが俺達なりの正義だ。
4月。それは多くの人が希望を抱いて新生活を始める。それは俺も同じだ。
とは言っても、2年目の高校生活は慣れてきて、面白みも何も無い。
「このクラスの担任、今野凪沙です。1年間宜しくね」
去年も俺の担任だった今野先生。若手の教師という事もあり、生徒に人気がある。
一通りの自己紹介が終わり、委員会決めが始まる。
一番最初に決めるのはHR委員。
面倒だから誰もやりたがらない。
どうせ長引くのだろう。
「僕、委員長に立候補したいのだけれど。良いかい?」
挙手をして立ち上がったのは、茶髪の人目を惹き付ける容姿の奴。
「あら、白川くん。他に誰もいないならいいわよ」
いやいやいや…誰が自分から進んで委員長なんてやるかよ…どんな変人だ。
「…どうやら誰も居ないようだね」
だろうな…?
「じゃあ、白川くん、お願いね」
「…星凜くんやるの…?なら葵、副委員長やる」
「今年はすんなり決まるわね…いいわよ」
いや、星凜くんがやるから…とか動機が不純…
まぁ、これで今日決めるものは終わりだろうし、帰れる…。
「あ、クラスの仲を深める為の提案なんだけど…クラス全員、先生も含めてニックネームを付けないかい?」
…は?なんだこの委員長。やっぱり自分から立候補するんだ、変人だな、うん。
「おや?不満かい?赤沢潤くん」
…なんで俺の名前…
「ふふ、まるで”なんで俺の名前知ってるんだ”とでも言いたげだね?」
…コイツ気持ち悪っ。去年同じクラスだった訳でもないのに。
「まぁ、席順と、名簿の名前見たら覚えるの当たり前だろ?」
いや、普通覚えねぇよ!?
「…私も覚えてないのに…」
ほら見ろ、お前の後ろで今野先生落ち込んでるだろ!?あれどうやってフォローすんの!?
そんなこんなで俺達はなす術なく、委員長の言うままクラス全員と担任のニックネームを決めた。
「…さて、全員のニックネームが決まったみたいだね」
お前が決めさせたんだろ…。31人分とか疲れるわ…。
「なんでニックネームを決めたかと言うと…」
大袈裟に手を広げて委員長はそこで言葉を切った。
「ニックネームを決めた理由…それは、”明日の標的”を決めるためだ!」
意味がわからない。
「…どーゆー事か説明して欲しい。な、美羽」
「…そうだね。意味がわからない。ね、悠羽」
「ふふ、いい質問だね、ユウ兄、ミウ姉。これはね、簡単に言うと、明日、標的にする人…要はイジメを受ける人を決めるんだよ」
クラス全員が息を飲んだ。
当たり前だ。俺達は、イジメはしてはいけないもの。そういう風に教えられて来た。なのに、こんな馬鹿げたこと…。
いや、何かが可笑しい…。
そうだ、先生…。先生もさっきニックネームを付けられていた。つまり…
「私も標的に含まれるわ」
平然と。当たり前のように先生は言った。
「は…?アンタ仮にも教師だろ?」
誰かが言った。
「そうよ?教師よ?」
先程と同じように答える先生を見て、
「教師がイジメに参加するのかよ…」
「…ねぇ、おかしいと思わないの?」
「1番狂ってるんじゃない?」
そんな声が次々と上がった。
「はいはーい。これを提案したのは僕だよ?」
能天気に委員長が言う。
「だから先生を責めるのは違うんじゃない?」
誰も、何も言えなかった。
「…さて、文句はもう無いかな?じゃあ、また明日。明日から標的を決めていくから…覚悟してね?」
先程までとは打って変わった声色で委員長が告げる。
明日から…。
その唐突過ぎるHRに俺はついていくことが出来なかった。