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女神様、お手柔らかに  作者: 鷲尾空
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「よし、イベント発生!」

ディスプレイに映し出されているのは、隠しキャラ「魔王メールト」。

魔物の王のくせにキラキライケメンだ。いや、乙女ゲームだから攻略キャラは皆揃ってキラキラしているけれど。

『貴様が新たな女神候補か、面白い。』

「いやーそれにしても中の人、いい仕事してるわー」

そう、うっとりと、低く甘い声を堪能するのであった。もっとも、初対面イベントだから、会話内容は全く甘くないけれど。




「おはよう、マール。そろそろ起きなさーい!」

「……。おはよう、母さん」

窓の戸を開けられ、日光が差し込むことで強制的に起こされます。

まださっき見た夢……記憶?が、頭に残っていて、なんとも不思議な気持ちでいると

「ほら、ぼーっとしてないで水を汲んできてちょうだい」

と、言われて布団をはぎ取られました。おかげで寒くて目が覚めます。

そうでした、今の私の生きている世界はここ。ここで生きるためには仕事をしなくてはならず、まだ小さい私の仕事は近くの水場へ水を汲みに行くことです。この世界、水道なんて便利なものはありません。さらに言うと井戸もありません。前世だったら、子供に仕事をさせるなんて幼児虐待という意見もありましたが、水がないと私も家族も困りますからね。必然的に、近くの水場へ水を汲みに行くことになります。

空桶を吊るした天秤棒を肩に乗せ、同じように水を汲みにいく子供たちで集まります。

人さらいに遭わないように、危険な獣に襲われても誰かが大人に知らせに行けるように複数人で行くのはいつものことです。

もちろん、一緒にいく面々には、昨夜一緒に夜更かしをしたアークもいます。

昨夜はあれから大変でした……。

オーロラが降り注いだことを大騒ぎしたおかげで、大人に見つかって大目玉をくらってしまったのです。

そして、大人にはあの現象そのものはたまに起こることだと認識されているようで、「女神さまのお力ね」で済まされてしまいました。


「ふぁあ……やっぱりまだ眠いなー。マールは大丈夫だったか?」

「うん、私はあのあとすぐに寝たから」

往路は桶が空なので体力に余裕があります。だから、かっこうのお喋り時間なのです。

アークが心配して声をかけてくれました。こういうところはほんとイケメン予備軍なんですよね。

「それにしても昨日のあれ、すごかったよなー」

「……とっても、綺麗だったね」

思い返すのは、昨夜の不思議なオーロラ現象。

ゲーム中では女神が地上を育てるべく、その力を降り注ぐときに現れる現象だったはずです。ゲーム中の画面で見たときと比べ、実際に目にした現象はとても荘厳なものでしたが。

あの後、私たちの夜更かしを叱った大人たちは、「女神さまのお力のおかげで、今年の豊作は約束されたな!!」と大喜びしていましたが、一晩で収穫できる農作物を育てているのに豊作もなにもあったものではないと思うのが正直なところです。


それにしても、これは本当にあのゲームの中と同じ世界ということでしょうか。

少なくとも、私の前世の知識ではオーロラという現象は、ああいう不可思議な動きをするものではないと認識しています。あれに該当し、そして大人たちが度々口にする「女神さまのお力」。……私の覚えている中で、一つのゲームの内容が最も近いと言えるのです。




そのゲームは、乙女ゲームと呼ばれるジャンルに属するもので、プレイヤーは「女神の卵」と呼ばれ、ゲームの世界で力を増やし、女神となることを目指すのです。その途中で登場する数々のイケメン達と恋を育み、いくつかの分岐を経て、最終的に途中の選択や努力に見合ったエンディングを迎える……というものだったはず、です。


そのゲームの世界だとすれば、私のいるこの場所は、女神の卵が力を注ぐ場所の一つということでしょう。「女神さまのお力」という言葉にも納得がいくものです。正しくは「女神の卵のお力」なんでしょうけれど。だとすれば……今後の私の生活は女神の卵の行動にかかっています。

なぜならば、女神の卵が力を注ぐ地域は広く、農耕や鍛冶、商売など、それぞれに特化した地域に力を注ぐことで、『何の』女神さまとなるかが変わってくるのです。

私の暮らすこの村を考えると、おそらくここは「農耕地域」。この地域を贔屓にしてもらえば、女神の卵は「農業の女神さま」となるはずです。

ただ、ここで問題なのが、贔屓にされすぎても困るということです。一つの地域だけが繁栄しすぎると、貧しい地域から難民が押し寄せて混乱が発生したり、他の地域から略奪という名の攻撃を受けたりします。「ほどほど」の贔屓でないと困るのです。前世ではこの匙加減は初めてのプレイでは難しかった記憶があります。




「おい、マール!マール!!大丈夫か!?」

「え、ああ、なに?」

ずっと、女神さまについて考えていたら、ゆっくりしすぎたようで皆と随分距離が開いてしまったようです。

水は汲み終わって、既に帰路。よいしょ、と天秤棒を担ぎなおし、声をかけて待ってくれていたアークへと歩を進めます。

「ごめんね、ぼうっとしてた」

「寝不足か?昨日連れ出したせいだよな。ごめん……。」

「アークのせいじゃないよ。ちょっと匙加減のことを考えてたんだ」

「匙加減……?朝飯のことか!朝一の水汲みは腹減るもんなぁ~」

違う!!


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