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満天のオーロラを仰ぎ見た時、私はやっとこの世界というものを確信することができたのです。
あ、ども。主人公です。
マールといいまして、齢九つ。乙女ゲー転生系……だと思います。
と言うのも、とある有名乙女ゲームをプレイしてた、と言う知識はあるんです。
だけど、前世で私が何者だったのか全く思い出せなくて。
生まれた時から大人と同じ思考をしていた私は、この知識は一体何なんだろうかと思い悩んだものです。
そして大切なことですが、この世界、日本じゃありません。
名前もヨーロピアンですが、異国でもありません。全くの異世界です。
だって、農作物の種蒔いて翌朝収穫できるとか、謎すぎます。
今よりも小さい頃、父や母に「どうして?」と訊ねたら、「女神様のお力だよ」と謎の答えが返ってきました。なるほどわかりません。
その疑問が解消されたのは、昨日、幼馴染のアークから夜の探検に誘われた時のことです。
私が生まれ住んでいる小さな村は、親も農家、周囲も農家。集落の周りは畑だらけの場所なんです。
近くに大きな町があるわけでもないので、夜になると真っ暗になります。
そんなところに遊びに行こうと言われても、渋って当然ですよね。
でも「昨日の夜、流れ星がたくさん流れて行ったんだ!一緒に見ようよ!」というのは大変魅力的なお誘いでした。
「うわ、何だこれ!!すっげえー!!」
連れてこられたのは、集落からかなり離れた休耕地。日中、私たちがよく遊ぶ場所です。
そして、頭上の輝かしい光の帯はいわゆるオーロラというもの……のはずです。
かなり寒い場所でしか見ることのできない天体現象だったと思いますが、うちの村、気候もいいですしなぜ見ることができるのか、また一つ疑問が増えました。だけど、せっかくなのでこの天体ショーを満喫してしまいましょう!
「流れ星じゃなかったけど、これもすごく綺麗だね!」
これも誘ってくれたアークのおかげです。感謝を込めて、繋いでいた手を、ぎゅ、と握りました。
どれほど、そうしていたでしょう。ゆるゆると波打つ光の帯が、球状に集まるように変化していきます。
……ん?オーロラってそんな動きするものですかね?
光は球体のまま、ゆっくりと、そしてだんだん速さを増して渦を巻き出しました。
これ、何か危険だったりしないのでしょうか。逃げた方がいいんじゃないんでしょうか。
「アーク、何か変だよ、お家に帰ろう?」
ぐいぐいと繋いだ手を引っ張りますが、アークは動く気配がありません。
「何で?綺麗だよ!」
このガキ、危機回避能力が欠如してるんじゃないでしょうか。
できるだけ遠くに逃げようと、留まろうとするアークの腕を強く引くのですが、踏ん張って動いてくれません。
もたついてる間にも光球は激しく渦巻き……ふわっ……と弾けました。
優しい光がタンポポの綿毛のように揺蕩い、降りてきます。
先ほど見ていたオーロラとは違う、そう、まるで綿雪のようです。でも、雪のように冷たくはなく、掌で受けると、ふわり、ふわりと踊るかのよう。そして、地面に落ちた光は、すうっと溶けるようになくなるのです。
まだ、降ってくるのでしょうか。空を見上げた時、また、元のようにオーロラが空に棚引いていたのです。
そして、私はやっと確信したのです。
ここが、私が前世でプレイしていた育成系乙女ゲームの、その育成されている世界だということに。