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0802

作者: さかなのほね



部屋の一角に放られているダンボール。上部のフタの部分は開けられていて、中に何かがごちゃごちゃと入っているのが見える。

いったいいつからあったのだろう。思い出せない。

それでも長らく置きざらしだったのは、丸みをおび始めた箱の角や、庭に植えられた桜の葉のふちのようにギザギザに削られたフタを見れば明らかだ。

私は近づいてみる。そして中を覗いてみる。

ぐしゃぐしゃに丸められたビニールのごみ、色んな形をした枯葉、なんだ、ただのごみじゃないか。

まるで臓物を引き出したように力なく伸びたテープを絡ませたビデオ。どうしてこんなものを取っておいたんだろう。

空のCDケース、紙くず、またビニールのごみ。

指先に何かが触れた。これは何のごみだ?私はダンボールの中身をあさり続けた。


頭蓋骨だ。人の頭蓋骨が、ビニールのごみの下から姿を現した。

わずかな肉の破片すら付いておらず、血のような汚れも一滴も付いておらず、真っ白なツルンとした人の頭の骨が、いきなりわたしの手の中に落ちてきた。


なんだこれは。

どうしてこんなものがこんなところにあるんだ。

私は混乱した。これは夢だろうか?

この頭蓋骨は本物だろうか?誰のものなのだろうか?

どうしてこんなものを私が持っていた?

暗く沈んだ眼窩が私を見つめてくる度に、私の理性は少しずつ奪われていくようだった。



とりあえず警察に連絡をしなければならない。

わずかに灯る冷静さを消さないように私は両の手で小さくなるばかりの心臓を包んだ。

玄関近くの電話機へと歩いていく。

一歩踏み出す度に心臓は大きな鼓動をうつ。耳のそばで脈打っているように、もう自分の鼓動の音しか聞こえない。

早く。早く。一刻も早く連絡しないと。

緊張してかたくなった指でボタンを押す。何だか感覚がない。受話器を耳にあてる。呼び出し音が聞こえ始めた。先ほどまでの鼓動と入れ替わるようにして、無機質な呼び出し音が私の鼓膜を震わせる。


「はい、もしもし」

「あ、もしもし警察ですか。」

「どうかしましたか?」

「あの、人の頭蓋骨を見つけたんです。それで連絡したんですが…」

「分かりました。それでは次の質問に答えてください。」


次のうち、あなたの状況に最も近いものに番号で答えてください。

1 最近やる気がなくて、気力がわかない。

2 今まで好きだったものへの気持ちが冷めてきている。


これは何の質問なんだ?

私は警察に電話をしたはず。


3 些細なことですぐに苛立つようになった。

4 最近食欲がない。または食欲がある。


私はどこに電話をかけた?

もしかしたらボタンを押し間違えたのかもしれない。


5 朝、起きるのがつらい。

6 夜、寝つくまでに一時間以上かかる。


でも私は確かに警察に連絡したはずだ。

この指は確かに3回、たった3回のボタンを押したはずだ。押したはずなのに。


7 生きる気力がわかない。

8 生きる気力がわかない。


受話器の向こうから聞こえた声が、今は抑揚もない、温度も感じられない無機質な声に変わっていた。

また心臓の脈打つ音が聞こえてきた。受話器のそばで大きく脈打っているのに、私の心臓はんどん小さく縮んでいくようだった。

何がどうなっているのか分からなくなっていく。

電話機のそばには先ほどまで抱えていた誰かの頭の骨。ぽっかり開いたふたつの小さな暗闇がこちらを覗いている。


生きる気力がわかない。

生きる気力がわかない。

生きる気力がわかない。


私はもうどうしたらいいのか分からない。

暗闇に吸い込まれていくようだ。残るわずかな理性の糸も切れてしまいそうだ。この糸が切れてしまったら。こわい。


生きる気力がわかない。

生きる気力がわかない。

生きる気力がわかない。


私はもうどうしたらいいのか分からない。

ふたつの小さな暗闇がこちらをいつまでも覗いている。















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