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魔王城

目の前にそびえる暗い城。灰色のレンガが積まれた重苦しいその城の名は魔王城、そう呼ばれていた。

その大きな門扉の前に立つは勇者とその仲間たち。



稀代の天才魔法使いリタ



半魔の獣人ヴァルファル



遠い東国の浪人アキト



神子の巫女姫フィニア



最強の魔剣士ゼノ



光の勇者アルマ



勇者の隣に寄り添うように魔剣士ゼノが立ち、その後ろを勇敢な仲間たちが支えるように静かに立つ。勇者が長く息を吐いて門に手をかけた。その震える手に重ねるように魔剣士が手を添える。緊張で強ばる身体から余計な力が抜けて、勇者は門を押した。


軋むような錆びつくような音をたてて大きな門が開いていく。目の前に広がるのはとてつもなく長い回廊。そこに満ちる濃厚な魔の気配。それに臆することなく勇者は力強く一歩を踏み出した。


一歩進むごとに重苦しくなっていく空気。一つ目の大きな扉を開ければそこには大きな体躯の悪魔。下品に笑ってこちらへ駆けてくる。異常なほどに早い突進は半魔によって受け止められた。


二回りほど小さな身体の獣人が悪魔の突進を受け止めた体制のまま先へ行け!と叫ぶ。大きな声とともに獣人の筋肉が膨れ上がり悪魔を向かいのドアから離れた方向へ弾き飛ばす。悪魔も彼を獲物と認めたようで彼以外は眼中にないらしい。おぞましい鳴き声を上げながら真正面からぶつかり合う。


勇者は獣人へ視線を向けた後ぐっと強く目を閉じて扉へ走り出した。



*



「我が名はガヴェル!魔族公爵第四位である!汝名を何という!?」



「我が名はヴァルファル!誇り高き獣人のヴァルファルだ!」



___



扉を開けるとまた回廊、しかし最初より長いことはなく短い。数回曲がるだけで次の扉にたどり着く。そしてその扉は黒い。奥から漏れ出す魔の気配が濃すぎるために黒く見えているに過ぎないがそれはこの向こう側の悪魔の強さを示していた。


フィニアがすっと前に出て手をかざすと彼女から神気が漏れ出して、扉にまとわりついていた気配が薄れ扉に触れることができるくらいの濃度になる。勇者がまた前へ出て扉を開く。



大きなホールのど真ん中でこちらをにやにやと笑いながら見ている悪魔。その悪魔はニヤついた顔のまま右手に持った、悪魔の身長ほどもある杖を振るう。その杖に従うように炎の渦が高い天井を埋め尽くした。しかしシャボン玉のように水の玉が浮かび、それは一つの大きな水球となって炎の渦を消し去る。水の方も蒸発したため部屋中に水蒸気が広がっていく。


魔法使いが悪魔の方にタクトのような短いステッキを向けて、先へ進むように告げた。勇者は歯を食いしばって先へ進む。


悪魔が勇者へ攻撃を仕掛けようとしていたようだが勇者は振り返ることなく扉を抜けた。


勇者たちが抜けた扉が閉まった音を合図にするように始まる魔法の応酬。炎が舞い水が弾け雷が落ち風が渦巻く。大ホール全体を崩すかのような勢いで魔法使いたちは、その場から動かずに戦いを繰り広げる。



*



「くひひ、私は魔族公爵第三位ヴァリド。下等種族、お前は?」



「私は最強!正義の!魔法使い!リタ・チーニャ!」



___


扉を抜けると体がふわりと浮くような感覚がした。博識の侍によるとこれはおそらく転移だと言った。彼自身も体験したことはないが先ほどの悪魔の濃い気配が遠ざかっているから空間を移動したとしか考えられないと教えてくれる。


その言葉を肯定するように足元には魔法陣があり、目の前にはすでに次の扉があった。



勇者が扉を開く。目にもとまらぬ速さで侍が前に出た。


金属のぶつかる音が前方で発生する。勇者の数歩先に刀と呼ばれる切れ味を重視した剣を合わせる男と女。女の方は随分と長い刀身の刀、大太刀を振るっている。本来こうして刀をぶつけ合うと刀身が歪んでしまうらしいが彼らはそれが当然というように何度も衝突を繰り返す。


一見小柄な少女にしか見えない女が大太刀を振るう姿がアンバランスで、人形のように美しい見た目も相まっていっそう不気味に見えた。燃え上がるような髪を漂わせて挑発的な笑みを浮かべて侍に切りかかっていく悪魔。


侍もその少女に劣らない。真正面から大太刀と刀を合わせては細い侍の刀が限界を迎えてしまう。だから力の乗り切らないうちに大太刀の刃の根元を流すようにして刀を振るう。


目にもとまらぬ足運びでホール全体を使って動き回る男女。互いに自分の体に切っ先を届かせることはなく流れるように刀を捌く。



何度目かの衝突の後、離れた反動でバックステップ。

勇者の前まで下がってきた侍が背を向けたまま先の扉を指さした。

無言のまま戦いを再開、相手の悪魔の女の持つ大太刀と侍の刀がぶつかり合う。


勇者は大きく呼吸をして次の扉へ走る。



*



「ん~、魔族公爵第二位のヴァルヴァラ様についてくるのねぇ~」



「うむ、これでも侍。我は心巌流奥義継承者、耶薙暁人である!」



___


扉を走り抜けて次は曲がることのない一本道。遠くに次の扉が見える。遠くと言っても走ればすぐにたどり着いた。驚くほどに静かな扉の向こう。それでも勇者は止まることなく扉を開く。


ホールの真ん中に浮かぶ悪魔。モノクルをつけた黒い服の悪魔は空中で足を組んで座るようにこちらを見下ろしていた。


モノクルの悪魔が鼻で笑って足を組みなおした瞬間。


ハッと姫巫女が息をのむ。悪魔が感心したように息を漏らした。



両手のひらを合わせて指を組むと、目を閉じて神気が漏れ出すほどに集中させる。悪魔は笑いながら指を鳴らす。姫巫女の前で何かがはじかれるように空気に溶けた。しかしモノクルの悪魔は白く長い指を姫巫女へ向けて次なる攻撃を行っている。


姫巫女も組んでいた指を解いて両手を前に突き出した。こちらを見下す余裕の表情を消して素早くその手のひらの前から逃れる悪魔。


目視可能なほどの神気が道のように次の扉へ続いていた。


姫巫女は勇者を静かに見つめて微笑んだ。

勇者も泣きそうな顔で笑い返して白い道を駆ける。


黒い靄が勇者の足にまとわりつこうとするが姫巫女の力がそれら全てを弾く。



「・・・行ってしまわれましたか」



水面に落とすような静かな声と、場違いにも勇者が抜けた扉に向けて頭を垂れて右手を肩に添える敬礼。姫巫女には見えない表情、故にモノクルの悪魔が何を思うのかは誰にも分らない。



*




「…魔族公爵第一位、魔王様側近グラントーリア」



「護国の姫巫女、勇者の友フィニア・マーレ」


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