心
血の道の先にいる女は美しく優しげな顔をきりりと引き締めた。
まるでそれは舞を舞うが如く、次々と私の周りにいる魔物たちを切り捨ててゆく。重そうな剣を軽々と振り回し、返り血を浴びて戦う女。
あっという間に魔物を倒し切った女はこちらに向かってくる。
そして引き締めていた顔を緩めて私に綻ぶような微笑みを見せた。
「さあ、早く逃げるわよ」
そう言って手を差し出した女。
この女は何故私に手を差し伸べるのだろうか。何故、私を助けたのだろうか。何故、私に微笑みを向けるのだろうか。
ここでこの女を殺してしまうことは簡単だろう。私が魔法を使ってしまえばいい。しかしそれはこの女がまだ脅威ではないことを示している。ならば今ここで殺さなくてもいい。
いつでも殺せるように、この女に着いて行ってみるのもいいかもしれない。
・・・何故私はこの女を殺さない言い訳をしているのだろうか?何故だろう、分からない。
「大丈夫?」
疑問はあふれるばかり。ならばこの女に問うてみよう。そうして疑問を解消すればいい。
「何故私を助けたのだろうか」
「それが私の使命だからよ」
「使命とはなんなのだろうか」
「この世界を護ることよ」
よくここまですらすら答えられるものだ。この女には何かがあるのだろう。この女を支える何かが。
どうしてそこまでこの世界を守ろうと思うのか。何故自分以外を助けようと思うのか。私にはわからなかった。
「・・・貴女は、どこへ、向かうのだろうか」
口からこぼれ出た言葉。私にも予想外だった。私は何故こんなことを聞いているのだろうか。なにも、わからない。
「・・・私は、ネフェリテの街に向かうのよ」
少し悩んだもののそう教えてくれた女。連れの娘が止めているが、女は私のほうをじっと、微笑みながら見つめるだけだった。その瞳を見つめ返すが、逸らしてしまう。あんな目は見たことがない。ただ、得体の知れない感情が恐ろしかった。
「・・・私も、連れて行ってほしい」
女は笑みを深めた。一度おろした手をもう一度私に差し出す。
その手に私は手を重ねた。
*
渦巻く感情が何か分からなくて