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寂しい魔王様


暗い部屋、淡いシャンデリア、それらを天蓋付きのベッドに座ってぼーっと見つめる魔族の男が一人。



「・・・」



美しすぎるその男の顔に浮かぶのは空虚。

すべての魔族を背負うその背中はとても小さく見えた。


彼の名を知らぬものはこの魔族の住む大陸には存在しない。

もしいるのならばそれは、乳飲み子、もしくは外界を知らぬ変わり者の魔族だろう。



彼は現魔王、ゼノ・ヴァルグランド・アルファーシア


静寂に包まれる魔王の部屋、そこに落ちる音。



コンコン



分厚い扉が鈍い音を響かせる。


無言でちらり、魔王が扉に目を向けた。

音を立てずに開いていく大きな扉、その向こうから臣下の礼をとる男。


目線を下げ首を垂れ、左手は体に沿って伸ばし、右手を肩に軽くあてがう。


目線を下げるのは魔法を使う意思がないことを示すために。

左手は何も隠していないことを示すために開いて主に見えるように。

右手は武器を使わないことを示すために。


これがこの魔族の国【ヴァルグランド】の礼である。



「魔王様、勇者が誕生したようです」



いつもならば要件を話す許可と顔を上げる許可を貰ってから話を始める優秀な側近の男は、少し焦りが滲んだ顔でそう告げた。



「・・・話すのを許可していない」



静かに、纏う空気を変えることなく魔王が口を開く。

長年側近として仕える男に対して向けたのは無感情の瞳と冷たい言葉。


側近の男は謝罪する。



「申し訳ありません、無礼をお許しください」



「・・・許そう」



「ありがたきお言葉」



何かの台本を読むように、淡々と会話をする。


側近の男は先ほどの言葉の詳細を告げた。

曰く、勇者が誕生したのは魔族の大陸より最も遠い人族の大陸にある国だと。

そして、その勇者は生まれてからずっと隠されてきたためこちらも情報を手に入れるのが遅れたと。

そのせいで勇者が成人し、その力を手に入れるのを防げなかった、と。


報告を終えた男は片膝をつき、深い臣下の礼をとる。



「申し訳ありませんでした。私の力不足でございます」



声に表れる懺悔と恐れ。

それを見つめる魔王は、ゆらり、立ち上がった。


魔王が動いても微動だにせず臣下の礼を取り続ける男の横を通り過ぎて、魔王はこの部屋を去る。




魔王がいなくなった広い部屋で跪き続ける男は、伏せているせいで誰にも見られることのない顔を悲しみで歪ませていた。



「・・・ゼノ様・・・・・・」





孤独しか知らない魔王は、孤独しか知らないが故に孤独を知らず、自身を支配する感情に気が付かないまま、魔王城と呼ばれる場所を出た。


何のためかわからない、けれど世界を滅ぼす為に。

邪魔になるなら殺してしまおう、自分が死ぬならばそれは仕方の無い事だったと諦めよう。そのために、勇者に会いに行こう。



*


何も感じられないけれど

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