結末
仲間たちが息も絶え絶え広間にたどり着いたとき、そこに屋根は存在しなかった。
二人の衝突で逃げ場を失った衝撃が上方向への強大な力の塊となったのだ。
魔族領域とは思えないほど人族領と変わらない夜空が広がる。しかし広間の中央に見過ごせないものがある。
重なるように倒れる男女。
片方は焼け焦げているが太陽の具現化のように美しい金の髪、閉じられた瞳の奥には新緑の瞳があるはずだった。左腕を失くし、足を窮屈そうに折りたたんで床に力なく倒れる勇者。
もう片方は滲む夜の長い黒髪、伏せられた瞼の下には赤い宝石の瞳がはめ込まれていた。陶磁器の肌は炭化して右手の手首から先は崩れ、抉れた左足を下にして横たわる魔王。
それはどこか完成された絵画の様でもあり地獄の様でもあり、感動に似た何かと怖気で肌が粟立つ。誰かが唾をのむ音が嫌に大きく聞こえた。
どちらももう動くことのない冷たさを伝えてくる。それはまるで壊れてしまったおもちゃ。それはまるでびりびりに裂かれた絹。それはまるで氷の人形。
誰もそれに近づくことはできなかった。死してなお凄まじい存在感を放つそれらに。
だからこそ気が付くことが出来た。両者が失くしている片手はおそらく剣を強く握っていた方の手だろう。ではもう片方は、
それは弱く小さくても握られていたのだ!
何という偶然、何という奇跡!
本来なら爛れ、ひび割れてしまう生身での触れ合い。しかし肌はきれいなまま。それはなぜか?
二人が死んでしまった後に何らかの形で、偶然にも手が重なり合ったのだ。
重い足で近寄ってみれば、二人の頬には涙の痕。それに魔王は仲間の青年ではないか。
それに最初に気が付いたのは姫巫女。
顔を覆って泣き崩れる。次に侍。ぐっと眉を寄せて目頭を押さえた。
震える手を口に当てて目を見開く魔法使いに寄り添う獣人。
全員が感じていた。考えていた。なんと皮肉な運命なのかと。
勇者と魔王という役割を与えられていなければ愛し合って平穏に暮らしたはずの男女。
何という運命のいたずらか。彼らは愛し合ってはいけない立ち位置にもかかわらず互いを愛し、互いを殺してしまったのだ。
これが運命、これが愛。涙を流さずにはいられない。
そんな悲劇の男女について救われることがあるとすればただ一つ。たった一つ。
穏やかにほほ笑む死に顔は幸せそうで、それがさらに涙を誘うのだ。
彼らが出会ってしまったが故のこの結末。きっと避けることはできなかった。いつからやり直すかと聞かれても彼らはもう一度同じ道をたどる。辿らざるを得ない。なぜならば、彼らにとってここまでの旅路は不運なものではなく幸せの一部だからだ。
どうしても手放すことのできない記憶。それを死んでも彼らは覚えているだろう。
宿敵を愛してしまった勇者と魔王の末路。
それは変えることのできない結果。
まるで物語をなぞるように。
悲劇の勇者と魔王の話。
ああどうか、次の人生では幸せに。