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勇者と魔王

どうして、なぜ?そればかりが頭をめぐっていた。何も信じられなくなった。今までの言葉も、思い出も、想いも、全部。私はいったい今まで何をしていたの。私は誰と、何をしていたの。


そうして考えが頭をめぐるのに体は攻撃に反応して防御、反撃を繰り返す。勇者には自分の手が赤く見える。落ちない汚れ、赤い汚れ。どろどろと思考を埋め尽くす期待の声。


勇者様、勇者様、勇者様


重すぎる責任。


勇者様、勇者様、勇者様


初めて知性のある魔物を殺したときのあの目が。


死にたくない、死にたくない


私はみんなを助ける、支える、護る。


どうして誰も私を支えてくれないの。



魔王と剣を合わせるたびに響く民衆の声。その声に背中を押され、つぶされる。

呼吸は浅く短くなる。でもやはり体は止まらずに動き続けた。



助けてほしい


こんな時に思い浮かぶのなんて目の前にいる青年しかいないのに。


大丈夫


宝石みたいな瞳の輝きが私の道を照らすみたい。


泣かないで


あたたかなぬくもり。自分が守られているという安心感。


助けに来た


確りと握られた手。何よりも大切だった。そう、たとえあなたが魔王でも。私はあなたを愛していた。



勇者の頬を涙が伝う。はらりはらり流れ落ちるそれは止まることを知らず。美しい勇者は髪をなびかせて涙の雫を光らせながら魔王と戦う。ステップを踏むたびに飛び散る雫。剣を合わせるたびに勇者の脳裏に浮かぶ魔王の青年のきれいな笑顔。


それでも手は止まらない。聖剣は魔王のマントを引き裂いて腿を深くえぐり取る。

バランスを崩した魔王の腕にさらに傷をつけた。

そこから魔王が強引に剣の軌道を変えて勇者の脇腹を撫でるように斬る。その勢いをえぐられた腿で受け止めて突き。勇者の右肩に切っ先が沈む。


二人の戦いの余波で謁見の間は崩れていく。柱などとうの昔にすべて折れた。玉座も背もたれが砕けており、互いに身を隠すものなど何もなかった。

二人は逃げも隠れもせずただお互いを傷つけていく。


彼らは勇者と魔王。決して相容れない存在。全く対極に位置する存在。


魔王は勇者に触れれば皮膚がただれる。

勇者が魔王に触れれば皮膚が剥がれ落ちる。


彼らは互いに生身で触れることさえ本来は叶わない。



勇者の頬で生暖かい液体が弾けた。



悲しみに染まる瞳で魔王を見つめる。魔王もまた勇者を見つめていた。

澱む瞳に似つかわしくない透明な雫が白い陶器のような頬を流れていた。ぽろぽろと水晶のような涙を流しながら魔王は剣を振るっていた。



*


どうしても涙が止まらない

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