真実の邂逅
謁見の間。赤黒いカーペットが敷かれ、太い柱が並んでいる。
最奥には玉座、その主は見当たらない。
「魔王は・・・?」
「・・・」
困惑する勇者の後ろで静かに目を閉じて、祈るように右手の拳を心臓付近に当てた後、目を開いた青年。
驚くほどに凪いだ気配は勇者の隣を通り過ぎた。
勇者は青年の顔を見ることなく、歩みを許す。
「ゼノ?」
彼は答えない。歩みのスピードも変えないまま玉座を目指す。一歩ずつ。
髪の結紐をほどく。
面倒見のいい姫巫女が編んだ飾り紐。
鋼の鉄鋼を外す。
獣人、魔法使い、侍が身分を隠して稼いだ金で買ってくれた装備。
指輪を三つ放り投げる。
勇者が彼を守りたいと想いを込めた古代聖遺物。
バサリ、マントを脱ぎ棄てる。
最後に立ち寄った街で買った、仲間と揃いのマント。
最後に腰にかかる剣をたやすく砕く。
彼自身が道中の試練で手に入れた意志を持つ剣。呻くような耳障りな音がした。
「ゼノ・・・ゼノ!」
勇者の声にはやはり答えない。
剣の破片を投げ捨てる。髪に赤の羽飾りが揺れる。
一歩踏み出す。白い肌を覆う漆黒のグローブ。
玉座の隣にある剣に手をかける。高貴な紫の指輪が一つ。中央の宝石には魔族の王家の証。
勇者の方へ振り返る。まとわりつく闇が広がって彼の背中を隠す。
玉座に腰掛ける。彼が纏う瘴気に近い魔の気配。
世界のすべてが詰まらないような顔をして彼はそこに留まった。
「・・・愚かな勇者よ、ここまで来たことを褒めよう。仲間を贄のように置き去りにするその判断。見事である」
「ゼノ・・・っ」
「余はゼノ・ヴァルグランド・アルファーシア。この国の王である」
無感情に勇者に告げる彼の目はガラス玉。そこにあるなにもを映してはいなかった。
それを見つめる勇者は涙を流すことはなくただ悲しそうに目を細めて魔王だけを見つめていた。
二人の視線が交差する。瞬きの次の瞬間に二人は剣を交えていた。
*
傷つけたくないのに