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勇者が扉を潜ると溶けるように背後にあった扉が消えた。どうやら一方通行らしい。

今までよりずっと美しく長い廊下は真っ直ぐ、おそらく謁見の間であろう豪奢な扉に続いている。


靴音を響かせてゆったりと勇者は歩いていく。



「…みんなは私のために戦ってくれている」



「そうだな」



「私も私にできることをしなければならない」



「あぁ。お前ならできる」



「私はこの先の魔王を倒す」



「そうだ、そしてお前は平和をもたらした勇者となる」



勇者は息が詰まったように声を漏らして立ち止まった。俯くと胸に両手を当てて小さくつぶやく。



「…そう、私は勇者」



「ああ、勇者だ」



「…ゼノ」



「どうした」



「こわい」



少女本来の感情が顔を出す。命を失うかもしれない最後の決戦。人類の為に進まないといけないのにこれ以上足が進まない。泥沼に足を取られたように重たくなった足を懸命に前に出す。



「前を向け。お前は強い、俺がいる」



背中を軽く小突かれる。足にまとわりついた泥が水になるようにゆっくりと溶けるのを感じていた。

勇者は自身に一人ではないのだと言い聞かせて一歩ずつ確実に歩を進める。



「ゼノ、私」



不安になって足が止まりそうになる。だけど大丈夫、だって



「大丈夫だ」



ほら、大丈夫。不安は消えないけれど重苦しい呼吸が随分と楽になる。


魔剣士が勇者の頭に手を乗せる。軽く頭を撫でてすぐに手を離した。

コツコツと二人だけの足音が響く。随分と時間をかけて大きな扉にたどり着いた。

強く両手を握りしめて顔を上げて扉を押した。




その後ろに立つ魔剣士。隠すようにした片手の手のひらは焼けただれたようにボロボロだが数秒もすると元に戻る。血のように赤い瞳を悲しそうに伏せて、ただれていた手のひらを見つめていた。



*



手放したくなかった

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