饂飩でドッキュン!饂飩(UDON)記念日
僕は饂飩が嫌いだった-
月並みの飯だと思っていた。
別にそれは蕎麦も同じであるのだが。
あの素麺に冷や麦、そして饂飩と。数が多すぎるのだ。
そんなに作らなくてもと思い、中間の冷や麦ばかりを食していたのだ。
思えば、ラーメンもカレーライスも嫌いになっていた。
ラーメンよりは、まぜそばやつけ麺。
カレーもカレーライスではなく、インドカレーにはまりつつあった。
「何が饂飩だ!饂飩教なんて信仰しねぇぞ俺はよ。やはり、日本人は米だろ!」讃岐饂飩で有名な香川では饂飩は噛まずに食べ、はしごするらしい。はしご酒はよく聞くが、はしご饂飩は聞いたことがない。
余談だが、俺は神道を信仰している。八百万の神々。
毎日、米を仏教徒の線香のように捧げている。初詣も欠かさず行く。そして、祈祷してもらっている。
そんな日の事だ。私が饂飩嫌いを克服したのは。
「今日は、日頃の禍を浄化しに神社へ行くか。」
なんて贅沢な奴だと思われるだろうが、俺は小学生の時から金縛りに遭っていた。そして、この八剱神社で造られた御守りを身に付けることになり、暫くは災禍から逃れることができた。
車に乗って10分くらいのところにある八剱神社に行った。
そしていつものように礼拝した。丁度、お昼頃だったのである会話が聞こえてきた。
「お父さん、お昼食べに行ってくるね。」聞き覚えのある声だった。巫女姿のその女性は、
「美優。何でお前がここに。」
「あら、大和くんじゃない。どうしたの?ここで。」
紹介が遅れたな。俺は武岩大和。強そうな名前だが、俺は弱いぜ。そして彼女は、北条美優。中学の初恋相手である。因みに俺は、それ以来恋愛はしていない。
「ねぇ?大和くん。お昼食べた?」
「いや、まだだけど。」
「じゃあ、一緒に丸亀行こ?」
丸亀製麺か。俺はご存じの通り、饂飩が嫌いだ。だけど、初恋相手が誘ってきたんだぜ。このワンチャン生かすしかねぇだろ!
耐えろ。俺。
「うん。でも俺なんかと行って良いのか?他に居るんじゃないのか。さるべき人が。」
「居ないわよ。神社の仕事ハードだし。何処にも行けないし。大和くんの方がその、居るんじゃないの?」
「そんなことねぇよ。じゃあ俺が車出すから。行こうぜ!」
「ちょっと待ってよ!大和君!」
二人は車に乗った。
「大和君、高校時代、何かやってた?」
「部活かい?演劇部に所属していたけど。」
「演劇部だったの!大和君、凄いね。よく人前に立てるね。」
「そんなことねぇよ。俺は自分を変えるために演劇部に入ったんだ。いつも人に顔を見せながら演技してると自然と笑ってしまってね。顧問によく叱られていたな。」
「でも大和君。凄いよ。台詞を覚えられて。」
「神社の祝詞のような物だよ。自然と台詞が語りかけてくるんだ。覚えようとして頭に入れてない。」
車を出して五分程度が経って、丸亀製麺に着いた。
「なぁ、美優。どうやって注文するんだ?」
「大和君。丸亀行ったこと無いの?」
「あぁ。世間知らずでごめんな。」
「ただ麺の量を店員に行って、天ぷらとかセルフで取っていって最後に会計するのよ。」
「ところで美優。巫女装束で着たけど大丈夫なのか?」
「あっ!此のままで来ちゃった。まぁいいや。神社の宣伝にもなるし。」満面の笑みで答える。やはり、彼女は可愛い。美優には天然な所に惚れたんだよな。顔も然ることながらやっぱりドジッ娘は最高だよな。
「あれ?大和君。生きてるー?」
「あぁ。大丈夫や。ちょっと久し振りの外食で忘れてんねん。」
「何で突然の関西弁になった?」
「じゃあ、特盛でお願いします!」
「人の話聴いてねぇし。」
「美優。特に理由は無いよ。ただ慌てただけだよ。」
「さては何か考えてたの?」
「まぁね。」
一通り天ぷらとかも取り終わり、会計となった。
「じゃあ、今日は俺が全部払うわ。」
「大和君。良いの?私払うよ。」
「いや、良いんだ。俺が払うよ。」
四千円の代金を彼は払った。
そして向かい合う席に座った。そして俺は思ったのだ。店内の雰囲気がまるで美優のためにあるかのようにその巫女装束を強調しそれでいて協調していた。
「じゃあ、初めての丸亀を頂こう。」
一口食べてみた。旨い!ここまで月並みの食事、月並みの飯だと馬鹿にして、軽蔑視してきた饂飩がここまで旨いものだとは。恐るべし、水と塩と小麦粉よ。俺は今まで何をしていたんだ。
しかも、好きになったのは饂飩だけじゃない。美優のことも再び好意が目覚めてきた。大好きな美優と食べる饂飩。格別であった。
きっと物珍しげに美優の巫女装束を見ている客は居ると思うけど、好意を持って彼女を見ているのは俺しかいないと信じたい。
「大和君?さっきから箸が止まってるけど、もうお腹一杯なの?」
「いや、そんなことは無いよ。行くぜ!俺の暴食スピリット!」
うわぁ。恥ずかしい。何かヒーロー的な台詞言っちまったよ。
恥ずかしさのせいもあってか、五分で完食してしまった。
「大和君。変な奴…」
「饂飩なもんだぜ!」
どんなもんだぜ!と饂飩をかけて言ってみたが駄々滑りだった。
そして車に乗った。
「大和君。何かあったの?今日。何か変だよ。」
「いやぁ、俺は饂飩が嫌いでな。月並みの飯だと馬鹿にして生きてきたんだ。でもやはり旨いね。」
「それだけ?」
「いやぁ、もう見透かされてます?」
「私の事が好きなんでしょ?大和君。」
「そうだよ。でも無理でしょ。俺なんかと付き合うなんて。」
「大和君。愛してるよ。私、中学の告白の時は男性恐怖症でさ。断っちゃったんだ。」
「良いのか。じゃあ、今日は俺にとっての饂飩記念日で。俺達の付き合い始めた記念日でいいんだな。よし宮司に相談しないと。」
「相談じゃなくてご挨拶でしょ?」
「あぁ!そうだった。」
饂飩で始まった恋が、饂飩のように長く延びますように。
米山四音改めて碧耳蜂碧です。今回が初投稿となりますかね。この名前では。米山四音はまた何処かで活動しますので宜しくお願いします。