里子発見伝
家族ドラマのなかで「あんな犬」なんて言うセリフをたまに耳にするが、「あんな犬」など言っては恐れ多い。何を隠そうお犬様だ。
そんなことを言ったら、牙をむき出し怒るに違いないのだ、私をバカにしたな!と。
うちの犬はそんなことでは怒ることはないけれど。
友人たちと遊びに行った公園で、私は彼女と出会った。ポツポツと弱い雨が降っていて、初夏なのに珍しく寒い日だったのを記憶している。
同じような真っ黒い毛玉が5匹もいて、彼女がどの子であったかなんて、全然わかりはしないけれど。
親はイエローのラブラドール。
そこそこ年のいった、綺麗な優しい目をした女性だった。我が子を知らぬ人間に抱かれているのにも関わらず、彼女は唸りもせず、私や他の子供が触れる我が子を優しく見守っていた。
その時はなんとも思わなかったが、今思えば不思議だ。きっとわかっていたのかもしれない。
自分たちがこの曇り空の下に置き去りにされ、自分の行動一つでこの子供達も自分も危険に晒されることになると。
幼い私はただその黒い毛玉が可愛くて可愛くて仕方がなくて、母に連絡をとり、自分の家で引き取りたいと懇願するほどにその子供達に執心だった。
我が家には猫がいたが、そんなこと関係ない。
そこにいる毛玉を我が物にしたくて仕方がなかったのだ。
だが、父に聞いてみれば答えはNO。
当たり前だ。もうすでに我が家には主がいる。
周りにいた大人たちが言うにはもう警察にも連絡してあるそうで、母親もろとも警察行き確定だったそうだ。
父はそういうことを嫌う人だった。
連絡していなければ子供も母親も連れ帰って面倒見ても良かったのになぁ。なんて口にしていたがどうだか。
しばらくして、警察が犬たちを連れて行った。
私は諦めきれずに、父に懇願した。
できもしないのに世話をすると言い張り、犬をもらってくれなければ口を利かないなどと訳のわからないことを言っては父を困らせた。
なんだかんだ弱いのが父なのだろう。最終的には首を縦に振り、もともと犬が好きだったのもあって、そんなに渋りはしなかった。
そうして、我が家にはオスを。近くに住む姉夫婦も犬をということでメスを各一匹ずつ引き取ることになるのだが、この後事件が起こる。