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5話 こんな朝はベタじゃない

 戦国時代のような土日を終え、月曜日がやってきた。


 エリスの家に住み込んだオレとほのかは、豪華な家、豪勢な食事、に感動していた。


 毎日、エリス、ほのか、ルリさんが激闘を繰り広げる。


 なぜ争っているのかはいまいちよくわからないが、これが女のプライドというやつなのだろうか。


 争うときは争い、それが終わると信じられないくらい仲良くなる。


 そのメリハリがオレには不思議だったが、そのおかげで安心できているのも事実だった。


 オレはエリスに与えられた自分の部屋で制服に着替え、鏡でチェックする。


 オレにとってはこれが初めての登校になるわけだ。


 鏡にうつる自分の姿は、なぜかいつも見ている気がしない。


 それは制服を着ているからではない。顔だ。顔に見覚えがない。


 鏡にうつるこのイケメンはオレだ。だが、見覚えがないんだ。


 ふと、この家に来た時のことを思い出した。


 そういえば、ここに来たときも、オレは自分の顔を忘れていた。


 ほのかも、エリスも、オレの顔を覚えることができなかったのだ。


 そんなに薄い顔なのか? オレ。結構ショッキングなんだが。


 ふと時計を見ると、出発の8時になっていた。


 ほのか、エリス、ルリさんと一緒に行く約束をしていたのだった。


「風馬―! 行くよー!」


 扉の向こうからほのかが叫んでいる。


 ざっと部屋を見渡す。高そうなふかふかのシングルベッド。客室なので、ランプやタンスなど一式そろっている。しかも、高級感あふれる。


 冷蔵庫、テレビ、ソファーまである。家の部屋というよりは、ホテルの一室といった方があっているかもしれないな。


 もちろん、テレビでしか見たことはないが。


 リュックを背負い、扉を開けると、ほのかがそこに立っていた。


「おはよう」


「おはよ! 下で二人待ってるよ!」


 オレはほのかについて階段を下りる。


 玄関には、すでにエリスとルリさんが靴を履き、待っていた。


 制服を着た二人は、一見普通の高校生のようにしか見えない。


 私服を着ている時とはまるで印象が違う。


 だが、それでもよく観察するとお金持ちである証が目につく。


 ほのかと見比べると、髪の豪華さ、メイクの綺麗さ、胸のでかさがまるで違うのだ。


 胸のでかさはお金持ちと関係ないだろうと思ったみなさん。その通りです。


「おはようございます、ふーくん」


「おはよ、風馬君」


「おはようございます」


 二人にあいさつをし、靴を履く。


 オレとほのかが靴を履いたのを確認すると、エリスは扉を開けた。


 門を抜け、住宅街に出るとさきほどまでのヨーロピアンな雰囲気はなくなり、日本の住宅街という感じがする。


 まるであの門の中と、外で別世界であるかのように感じる。


「風馬、同じクラスになれるといいねーっ」


「その前にお前は編入試験頑張ってこいよ」


「ばっちりだよ」


 満面の笑みのほのかを横目に、閑静な住宅街を見渡す。


 前学校に行こうとしたときは、走ってたなあ。


 チュンチュンと小鳥が泣いている。


 一点の曇りもない青空の中を、人間を見下すかのようにカラスが旋回し、青を汚す。


 あまりに静かなので、このたくさんある家の中には誰もいないのではないか、とさえ思える。


 ただ、家があるだけのような、そんな気がする。


 だが、この家ひとつひとつに人生のドラマがあるのだ。


 家の中には、家族がある。3人家族、4人家族、5人家族。兄弟もいれば、子供のいない家庭もある。


 中には不妊に悩む人もいるし、大勢の子供に翻弄されている母親もいることだろう。


 だが、この道から見る街並みを見るだけではそれはわからない。その扉を開け、中に入らなければ家庭を見ることはできない。


 やはり、門の中と外は別世界といえるのだ。


 同じ土地にいるが、空気も違う。景色も違う。


 人々の行動も中と外では違う。家でゴロゴロしている人も、そとではキチンとしている。


 大昔はそんなこともなかったのだろう。人々は1つの世界に共存し、協力していた。


 それは今では、プライバシーだのなんだので、個人が自分の世界を勝手に乱立している。


 世界と世界は接点を持たず、自らで生み出した孤独を嘆く。


 自分で自分を一人にしてきたのだと気が付かずに。


「ふーくん、学校でお友達できるといいですね」


 笑顔でエリスがいう。


「うん。あ、そういえば、一人心当たりがあるよ」


 あのツンデレだ。確かオレと同じクラスだから、プリントを持ってきてくれたのだった。


「へえ、女? 風馬君もあざといわねえ」


「確かに女ですけど、そんなんじゃありませんよ」


「女ですって!?」

「女なの!?」


 エリスとほのかが口をそろえて叫ぶ。


 なんだってそんなに驚くんだ。


「別に男でも女でもいいだろ?」


「あのですね、ふーくん! 都会では気を付けてください!? 男女の仲というのは、より複雑なのです」


「そうよ! 都会では、電車で手を下してるだけでチカンになってつかまっちゃうんだから!」


「信じられないな。だいたい、オレは見ず知らずの女性を触って喜んだりしない。チカンだって言われたら、自意識過剰だって言ってやる」


 オレは偉そうにそんなことを言ってみる。勿論、実際には触れば喜ぶ。


 ぼんっ。角から出てきた人とオレはぶつかり、お互いに少しよろけた。


 ん。今、少しやわらかいもの触った気がするんだが。


「きゃ! チカンーっ」


 ぶつかった相手の叫び声


「え、ちょ、いや、ぶつかっただけですよ!? え、ちょ!」


 だよな!? チカンじゃないよな!?


「今胸触ったじゃない! 変態! えっち!」


 ん、この声は聞き覚えがある。


「風馬君、自意識過剰だっていってやるんじゃなかったの……」


 哀れなものを見るような目でルリさんが言う。


「え、いや、そのぉ」


「風馬?」


 やはり、相手もオレに見覚えがあるようだった。


「奈津美か。ひさしぶりだな」


 あのツンデレだ。怒った表情の奈津美は、腕を組んでオレをにらむ。


「女三人引き連れて、あたしの胸を触るなんて、とんだハーレムモーニングね」


 なんだよ、ハーレムモーニングって。


「ふーくん、お知り合いですの?」


「ああ、オレと同じクラスの高坂奈津美だ。オレが休んだ日のプリントとか持ってきてくれたんだ」


「へえ、風馬と同じクラスの……」


 見ると、ほのかとエリスは不機嫌そうだ。


「よ、よろしく」


 奈津美はオレと一緒に来た3人にあいさつをする。さっきとは一変しおらしい。


「よろしくね」


 以前不機嫌な態度のほのかは、返事を返す。


「よろしくお願いします」


 一方、エリスは機嫌を直し、満面の笑みで返答する。


「よろしくね、奈津美」


 なんでもないように言うルリさんには、大人の余裕が感じられた。


「ところで、どうしてあんたはこんなハーレムモーニングなわけ?」


「さっきからなんなんだよ、ハーレムモーニングって」


「わたくしたちは、同じおうちで生活していますの」


 ああ、余計なこと言いやがった。


 完全に空気を読めていない。こんなことを言えば、火に油を注ぐことになる。


「はあ!? あんな狭い部屋に4人で住んでるわけ!?」


 何を想像したのか、顔を真っ赤にして驚く奈津美を、少し目をうるませている。


「ちがうよ、豪邸みたいなとこ。部屋も別々だ、変な妄想すんな」


「な、なんだ……想像っていってくれないかしら!?」


  と、ふとしたことに気が付いた。


「なあ、奈津美」


「なれなれしいわね」


「オレの顔覚えててくれたんだな」


「はあ? た、たまたまなんだからね!?」


 ベタなツンデレセリフを吐いてはいるが、覚えててくれていたようだ。


 やはり、オレの考えすぎなのだろう。


「ねえ、はやくいかないと遅刻するわよ?」


 ルリさんの一言に、オレは腕時計を確認する。


 8時20分。あと5分で始まる。


「やべ、走れっ」


 5人一斉に駆け出す。


 ほのかの試験はまだなので、走る必要はないのだが、つられて走っているらしい。


 校門が見える。あと2分。


「こらあ、初日からぎりぎりにくるなあ。余裕をもって家をでなさい」


 門の前に立っている先生にしかられる。


 お前の説教のせいで遅刻すんだよ。


 ということで、先生はスルーして下駄箱に直行した。


「じゃあ、またね」


 ルリさんは3年、エリスは2年棟なので下駄箱前で別れた。


 とてもきれいな校舎だ。


 下駄箱はクラスごとに色分けされている。


 オレと奈津美は1組。青色の下駄箱だ。


「じゃあ、ほのか、またあとでな!」


「う、うん」


 オレが奈津美の後について教室へ向かう姿を見て、不満そうなほのかは眉をひそめた。




――――SIDE 高坂ほのか――――

 はあ、風馬と会えたのはいいけど、どうして都会はこんなに女性ばかりなの?


 私はとても不安だった。今までは風馬のことを独り占めできたのだ。だから、告白というものをする必要もなかったのだ。


 だけど、ここでは放っておくと風馬は私から離れて行ってしまう。はやく気持ちを伝えないといけないのかもしれないなあ。


 靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。上靴はまだ入学していないから、ない。だが、制服はエリスちゃんが調達してくれた。私服じゃ浮くから、と。


 エリスちゃんのことはとっても大好き。かわいいし、やさしいし、一緒にいて楽しいし。


 でも、彼女も風馬のことがきっと好き。私にとっては恋敵なんだ。


 そう思うと、少しかなしくなる。


 それにしても、コンビニで風馬と会えたのは本当に偶然だったなあ。あれは奇跡なのかな。


 いや、きっと運命だ。


 自分に言い聞かせる。


 コンビニで飲み物の入れ替えをしていたら、すごく悩んでるお客さんにズボンのすそを踏まれて動けなくなって……サイズがなかったから大きいの履いてたせいでもあるんだけど……それが風馬だった。


 私を見つけた風馬は、私を見て驚いた顔を……あれ、驚いた顔してたっけ?


 思い出せない。


 風馬の顔自体思い出せない。おかしい。村を出た瞬間からそのことには気が付いてきた。


 風馬に言うと呆れられるに違いないから相談することができない。


 村にいた人は、どれほど話したことがなくても、顔は覚えている。なんせ、住民が少ないのだ。顔を何度も合していれば覚える。


 こちらにきてからも、バイト先の人、エリスちゃんの家の家政婦さんたち、そんな人たちの顔も覚えている。


 なのに、風馬の顔だけは絶対に覚えられない。


 風馬と会っているときは、確かに風馬の顔を見ている。とてもかっこいいのだ。だけど、どんな風にイケメンなのかも思い出せない。


 村にいた時はそんなことはなかったのだが、どうしても風馬の顔だけを思い出せないのだ。


 服装も、身長も、手の形も口調も覚えている。だが、顔だけが思い出せないのだ。


 おかしいなと思いつつ廊下を歩き続けていると、職員室の前についてしまった。


 コンコン、とノックし中に入る。


「失礼します」


 田舎の学校の職員室とはまるで違う。エアコンが4つほど完備されている。コーヒーメーカー、冷蔵庫、テレビまである。


 職員全員がパソコンと向き合い仕事をしている。


キーンコーンカーンコーン。


 チャイムがなる。1時間目が始まった。


 ということは、ここにいる職員は1時間目に授業のない人ということになる。


「あら、高坂ほのかさんですか?」


 白衣を着た中年の女性が私に歩み寄ってきた。


「はい、編入試験を受けに来ました。少し早くてすみません」


「いえいえ、早めに行動することはいいことですよ。空き教室で行いますから、ついてきてくださいね」


 はい、と返事をして、彼女についていくことにした。


 ああ、緊張する! これでもし落ちたらどうしよう……。


 風馬と同じ学校に通えなくなる……。


 そんな緊張感に迫られていると、さきほどの疑問は頭から綺麗に消えているのだった。





―――SIDE 早川風馬―――

 授業がはじまる直前に、奈津美と教室に飛び込んだ。


 ぎりぎりセーフのようだが、先生はオレ達に今度からは余裕をもって家をでるように、と門の前の教師と同じことを言っていた。


 一時間目は数学、おじいちゃん先生だ。はげた頭をかくすようなバーコードヘアーがおかしい。


 一番後ろのはじっこの席から教室を見渡すと、たくさんの生徒がいる。


 こんな光景初めてだ……。


 都会の学校というのは、こんなにも大人数で授業をうけるものなのか……。


 落ち着かない様子でそわそわしていると、隣の席の奈津美が怪訝な表情で話しかけてくる。


「落ち着きなさいよ」


「う、うん」


 その様子をちら見していた前の方の席の数人の男のグループがなにやらこそこそ話をしている。


 耳をすませると、あの二人できてるとか、仲良すぎるとか、入学式の立候補のこととかを話していた。


 顔を真っ赤にしている奈津美の様子からして、聞こえてないふりをしているが、耳に入っているようだ。


 こりゃ、なじめないかもしれないな。


 クラスからオレと奈津美の二人だけ切り離されているような気がする。


 田舎者の空気と、変り者の空気をクラスメートが感じ取ったのだろうか。


 これは、IJIMEに合わないように気を付けなければならないな。


「あ、あのぉ……」


 前の席の女の子がオレにプリントを渡そうとしていた。


 影が薄すぎて全く気が付かなかった。


「ああ、悪い」


「い、いえいえ!」


 おびえたように彼女は返事をすると、前を向いてしまった。


 黒髪のおかっぱ頭の彼女は、さきほど名札に田中久美と書いてあった。


「田中さんはね、いじめられてるみたいなの」


 小声でオレに教える奈津美。


 なるほど、IJIMEの犠牲者なのか。


 見ただけではわからない。一見普通の女の子なのだ。


 それも、顔はなかなかかわいかった。


「わかんねえな」


 おもに先生の自己紹介と授業の説明で1時間目が終わった。


 すると、前の方から一人の男がオレの机の前に歩いてきた。


「よう、早川風馬やっけ?よろしく、オレは佐藤武」


 つんつんの茶髪の髪をもつこの男は気さくな笑顔を向けてきた。


「あ、ああ、よろしくな」


 そう答えると、おもしろそうな顔をして武は耳元で言った。


「お前、高坂の彼氏なん?」


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